第2話
「誰もいない……よな……?」
恐る恐る扉から顔を覗かせ、周囲を確認するも、やはり人の気配はない。
再び部屋の中に足を踏み入れると、木の感触が直に伝わって来た。
部屋に入ると、机や椅子の他に木製のクローゼットもあり、中を見てみると、明らかに俺にはサイズの合わないであろう細身なシャツとズボン、そして下着が数着ずつ出てきた。
非常に肌触りがいいだけに、ちょっと残念だ。
「あ、さっきは気付かなかったけど、窓があるじゃん」
俺は窓に近づき、外の様子を確認する。
すると……。
「うわぁ……」
窓の外は、木々に囲まれていたのだ。
俺の住む家は、こんな山奥みたいな場所じゃない。住宅街で、家の裏や前は、普通に車が通っている。
なのに、こうして周囲が森のなかということは……。
「やっぱり異世界……または地球の別の場所に繋がってるとしか考えられないんだよなぁ」
もしかしたら窓に超リアルな絵が貼ってあるのかとも思ったが、窓を開けてみてその考えは捨て去った。
都会では考えられないような、澄んだ空気が胸いっぱいに入って来たし、車の音も聞こえなければ、工事の音もない、静かな空間が広がっているだけだ。
窓を閉めて、部屋の中を改めて見渡すと、机の上に紙が置いてあることに気付いた。
「なんだ?」
紙を手に取り、内容を読み取ろうとするが、そこには俺の知らない不思議な文字が書いてあった。
「……読めん。異世界の言葉か?」
分かるはずもないのに、少しの間手紙と睨めっこをしていると、メッセージが出現した。
『スキル【言語理解】を習得しました』
おい、何だその便利そうなスキルは。
すぐさま鑑定すると……。
【言語理解】……あらゆる言語を理解する事ができ、読み書きができるようになるスキル。
本当に便利なスキルだった。
これ、地球でも効果があるんなら、英語とか楽勝じゃねぇか。
それはともかく、せっかくスキルを手に入れたので、再び手紙に視線を戻すと、さっきまでは読めなかった不思議な文字が、読めるようになっていた。
要約すると、この部屋の主は、もうすぐ寿命ということで、この家を手放すことにしたらしい。
そして家族もいないため、もしこの家を見つけた者がいれば、その人に所有権を渡すと。家の中の物も、すべてくれるそうだ。
所有権の登録は、魔法の力で勝手に更新されるため、所有者以外が侵入することは出来ない……ということらしい。
これは、【家の主】という称号を手に入れたことから、恐らく俺がこの家の所有者になったのだろう。
それに、その称号の説明文から、賢者とやらが住んでいたことが分かるけど、どれだけすごい人だったんだろう?
所有者以外が侵入できないようにするって結構すごいと思うけど、この世界では普通なのかな?
てか今さらだけど、あの扉の先がこの場所に運よく繋がっていたとは……俺としては大変ありがたいが。
「他の衝撃が強くてスルーしかけたけど、魔法もあるんだよなぁ……」
いや、この状況自体が非現実的すぎて、魔法と言われてもファンタジー要素が薄く感じてしまう。驚きは小さいが、それでも未知の力というモノは何とも興味を惹かれるのだった。
俺も使えるようになったりするんだろうか?
「まあいいや……取りあえず、この家には誰もいないし、これからも俺以外が入ってくることはないって分かって、一安心だな」
俺も現金なもので、この家が俺のモノだと分かった途端、一気に警戒心が無くなった。
となると、今度はこの家にある物を見てみることになるのだが……。
「これ、本物だよなぁ……」
俺の視線の先には、何種類もの武器が。
その中で、一つ目についた剣を持ってみる。
「うおっ!? お、重たい……」
当たり前だが、俺の筋力はたいしてあるわけでもないので、剣を持っただけでよろめいてしまう。……本格的に筋トレしようかな。まあ昔はやってたけど、一年続けて結局筋肉はまったくつかなかったからね。
「それにしても……立派な剣だなぁ」
両刃の剣で、磨きたての様に輝いており、刃には俺の顔が綺麗に写る。
柄などは、まったくと言っていいほど装飾は施されていないのだが、素人である俺が見ても、手にある剣はすごい物だと感じさせる、風格のようなものがあった。
ふと、俺は好奇心から剣に【鑑定】を使用してみると……。
『
「マジかよ!?」
予想以上にヤバいヤツだった! しかもいつの間にか契約したことになってるし! つか、非売品ってこんな物売れるわけないだろ!? 畏れ多すぎるわっ!
え、賢者さんって何者!?
この剣、乱雑に武器入れみたいな場所に入れられてたんだけど!?
こんなヤバイ物を、適当に扱えるなんて……。
今となっては会うこともできない、賢者に驚きながら、俺はこの剣を振ってみたいと思ってしまった。
「いや、男なら一度くらいは……ね?」
誰に言い訳をしているのか分からないが、自分の行為を無理やり正当化させる。……正当化できてねぇな。
まあ、外の確認もしたかったので、俺はこの家の玄関に近づき、恐る恐る扉を開けた。
「おぉ!」
すると、どうやらこの家の敷地は広かったらしく、家の目の前は庭のようになっており、畑のようなモノまであった。
「これ全部が家として認識されてるのか?」
もし違うなら、うかつに外出られないんだが……。
そう思っていると、目の前にメッセージが表示される。
『この家を囲う柵の中までが、所有者の土地です』
おお、つまり、この庭にも誰も入ってこれないのか! これで思いっきり外で剣を振り回せるぞ! よく分からないけど、メッセージさんありがとう!
俺の疑問に答えてくれたメッセージに感謝しつつ、俺は年甲斐もなくはしゃぎながら外に出た。
そして、重たい剣を、自分なりに振ろうとする。
だが……。
「うおおおおおおおおお!?」
ダメダメでした。
結果として、俺が剣を振るうのではなく、剣に振り回されてました。
デタラメに振ることすらできないとは……いや、分かってたけどね。
「はぁ……はぁ……いやぁ、楽しかった……」
何もできてないくせに、俺は妙な満足感に包まれながら、その場に寝転がる。
すると、目の前に再びメッセージが現れた。
『スキル【剣術:1】を習得しました』
「へっ!?」
【剣術】スキル!? 振り回されてただけで!?
それに、この剣術の横の数字って……。
【剣術:1】に意識を向けると、詳しい説明が表示される。【鑑定】スキル様様だな。
【剣術:1】……剣を扱うスキル。数字は熟練度を表しており、最高値は10。
つまり、今の俺は剣を扱う超初心者ということか?
いや、正直初心者と呼ぶのもおこがましいと思うんだけど……。
それでも、こんなに簡単にスキルって習得できるモノなのか?
「…………あ、【異世界人】の効果か」
恐らく、この称号が関係してるのだろう。
「そうだとしても、この速さで習得できるってのも変な話だけどなぁ……他の武器はどうだろう?」
新しい好奇心を刺激された俺は、剣を元の場所に戻すと、他の武器を持って、庭に出た。
それぞれに、鑑定をかけた結果、どれもヤバい品物ばかりで、ピックアップするとこんな感じである。
『
『
『無限の籠手』……殴打の威力を上げるだけでなく、防具にもなる砕けることのない籠手。一撃が無限の攻撃となる。非売品。契約者:天上優夜。
『
などなど……。
まあ、かなりの量があったけど、一応全部触ってみることは出来た。
そこで感想を一つ。
どれもヤベェ。
何でこんなものがゴロゴロ転がってるのかも分からなければ、賢者が何者かも分からないが、それ以上に俺が契約者になってることがもっとヤバい。
そして、今の俺のステータスは……。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:1
魔力:1
攻撃力:1
防御力:1
俊敏力:1
知力:1
運:1
BP:0
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪剣術:1≫≪槍術:1≫≪鎌術:1≫≪格闘術:1≫≪弓術:1≫≪鞭術:1≫≪斧術:1≫≪鎚術:1≫≪杖術:1≫≪棒術:1≫……etc。
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
もう意味が分からない。
全部の武器で遊んでたら、こんな状況になったのだが、それにしたってこれはおかしいだろ。
思わず顔を引きつらせていると、メッセージが出現した。
『条件を満たしました。全武術スキルを統合し、【真武術:1】を習得しました』
【真武術】ってなんぞ!?
すぐに【鑑定】すると、こう表示された。
『真武術』……あらゆる武器や格闘術を修めた者のみ到達できる境地。全ての武器や格闘術を使いこなす事が出来る。
使いこなせませんけど!?
無理だろ、どう考えても! ただ武器に振り回されてただけなのに!
だが、俺の意思とは関係なく、ステータスの表記が変更されており、あの大量にあった武器などのスキルが消え、【真武術】とやらになっていた。
……賢者さんもこのとんでもスキルを有していたのだろうか? ……してたんだろうなぁ。
よく分からないまま、俺はぶっ飛んだスキルを手に入れたのだった。
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