第48話

 ゲインさんと別れた後、俺は受付で薬草採取の依頼を受けることにした。

 薬草はこの街の外に出たら意外とどこにでも生えているらしく、探すのには苦労しないらしい。

 とはいえ、薬草なんて見たことがないので一応見本を見せてもらったが……うん、そこらへんに生えてる草と何が違うのかサッパリ分からねぇや。

 幸い『鑑別』が使えるので失敗することはないと思う。

 本当は超簡単な討伐依頼でも受けようかと思ったんだが、掲示板を見てると長い間薬草採取の依頼が放置されて要るっぽいので理由を聞いてみると、どうやらスライムやゴブリンといった世間では弱い部類の入る魔物を倒すほうがお金が稼げるということで放置されているらしい。

 ……俺の中のスライムやゴブリンのイメージが完全にあの森の中の魔物なので、どれだけ弱いのかは知らないが、確かに依頼達成のお金にドロップアイテムを換金したお金もプラスされるって考えれば討伐のほうが実入りがいいのだろう。

 まあ今の俺はそこまでお金にも困ってないし、せっかくなので薬草採取の依頼を受けたのだ。

 ちなみに採取の数は10本なので、何とかなるだろう。

 ナイトたちを連れて一度街の外に出ると、気持ちのいい風が吹き抜ける。


「んー……やっぱりこの世界の空気は美味しいなぁ」


 適度な気温だし、何より空気が澄んでいる。

 学校の授業とかで習った中世ヨーロッパって、確か町中に糞尿が散らばってて臭かったって聞いてたけど、そんな様子はない。

 歩いていると街に入るための列が少しあり、俺たちを見て驚いたような顔をしていた。まあナイトやアカツキを連れてる俺は珍しいだろう。街中でも似たような人は見なかったし。

 街を出てすぐの草原に入り、エミリアさんに見せてもらった薬草を思い出しながら見渡す。


「うーん……あ、これがそうかな?」


 それっぽいモノを発見したので『鑑別』した。


【ヒール草】……この世界では『薬草』と呼ばれている植物。主に回復薬の材料として扱われる。そのまま葉をすり潰しても使え、かすり傷などに効果がある。採取の際は、根を傷つけないようにしながら抜くと効果が高い。


 ふむ……これが薬草で間違いないみたいだけど、ちゃんと正式名称があったんだね。

 しかも『鑑別』のおかげで正しい採取の仕方まで分かったし。

 俺は手で軽く土を掘り起こして薬草を手に入れると、ナイトたちに見せた。


「ナイト、アカツキ。これと同じモノを見つけたら教えてくれる?」

「わふ」

「ふご」


 それぞれが薬草に鼻を近づけ、その匂いを嗅ぐと、別々の方に進んでいった。

 二人を見届けて俺も探すと、近くに生えていたので同じように採取した。

 地味だが、何気に俺はこういう作業が好きだ。無心になれるし。

 こうして探していると、ナイトが軽く吠えた。


「ワン!」

「お、見つけたか?」


 ナイトの下に行くと、そこには薬草らしきものが生えていた。

 ただ、何となく違和感を感じた俺が『鑑別』するとこう表示される。


【マジックヒール草】……薬草に似た植物。ただし、これは傷を癒すのではなく、魔力を回復させる効果がある。主に魔力回復薬の材料として扱われる。そのまま葉を口に含んでも、超微量ながらも魔力が回復する。採取方法は薬草と同じ。


 どうやら少し違うものだったらしい。


「おしい! これは薬草じゃないみたいだね」

「くぅん……」

「そう落ち込まないで。これはこれで使えるんだしさ」

「わふ」


 間違えたことで悲しそうな声を上げるナイトを、俺は優しく撫でた。

 元気を取り戻したナイトと一緒にマジックヒール草を採取していると、今度はアカツキの声が聞こえる。


「ブヒ! ブヒブヒ!」

「ん? アカツキも見つけたのか?」


 アカツキの方に急いで向かうと、アカツキは俺たちを見てドヤ顔をしてきた。

 その様子に苦笑いしながらも見つけたという薬草に目を向ける。


「……え?」


 そして俺は絶句した。


「あー……その……アカツキさん? 俺は薬草を見つけてほしいって言ったよね?」

「ブヒ」

「じゃあこれは?」

「ブヒ!」


 『薬草です!』と言わんばかりに蹄で指すアカツキ。

 万が一があってもいけないので、俺は『鑑別』した。


【イチコロ草】……絶対に食べてはいけない植物。一度でも摂取したなら最後、一瞬であの世へ逝ってしまう。毒耐性や毒無効のスキルがあれば話は別だが、それでも好き好んで食べるものはいないだろう。ただし、適切な手順と材料で調合すれば、毒消し薬へと変わる。


 やっぱり違った。

 だってどう考えてもおかしいだろ。周囲は緑色だっていうのに、この草だけ紫なんだぞ? しかも赤色と黄色の斑点付き。

 見るからに食うんじゃねぇと言わんばかりの配色だよね。


「アカツキさん。君はこれが薬草だというんだね?」

「ぶひ」

「うん、君は大人しくしてよう」

「ぶひ!?」


 俺の言葉にアカツキはショックを受けていた。

 いや、幸い材料と手順さえ合っていれば毒消し薬とやらの材料になるみたいだけど、これを薬草だとは思わねぇ。

 まあせっかくアカツキが見つけてくれたわけだし、一応採取しておこう。

 ――――それから俺たちは薬草以外にも採取しながらも、無事に依頼達成の本数を確保することができるのだった。

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