第45話

 驚愕の声をあげた受付の人に驚いていると、すぐに受付の人は頭を下げた。


「しっ、失礼いたしました! ここまで高品質の胡椒と……何よりこんなに綺麗なビンを初めて見たので……」

「そ、そうですか?」


 やっぱり地球の胡椒って高品質なんだ。てか、ビンも珍しいのね。


「すみません、こちらの品はいくつほど持っているのでしょうか?」

「え? あー……今は10個ほどですが、時間をもらえれば用意することができますよ?」

「な、なるほど……すみません、私の一存では決めかねますので、少々ギルドマスターへと確認してまいります」


 受付の人はお辞儀をすると、背後の扉を開けてどこかへ行ってしまった。

 てか、ギルドマスターって何?


「うーん……なんか予想以上に大事になってる?」

「わふ?」

「ぶひ?」


 アカツキとナイトが首をかしげる様子が可愛くて、まあいいかとすぐに気が緩んでしまった。

 ちなみに後で知ったのだが、この受付は特殊な魔法具が使われているらしく、受付の人と商人の会話など、他の人への認識を阻害する働きがあるそうだ。

 おかげで受付の人が大きく驚いたことも、今までのやり取りも周りには知られていないらしい。

 商人は情報が命っていうし、本当にこの世界の道具って便利だよね。お風呂は毎回お世話になってます。

 しばらくの間ボーっとしながら待っていると、先ほどの受付の人と白髪で同じく白色の髭を綺麗に整えた、紳士風な初老の男性が姿を現した。


「彼がそうかな?」

「はい! 優夜様、お待たせいたしました。こちらは当商人ギルドを取り仕切っている、ラインハルトさんです」

「こんにちは。ギルドマスターのラインハルトだ」

「こんにちは。天上優夜と申します」

「ふむ……変わった名前の響きだ。天上……が名前かな?」

「あ、いえ! 優夜が名前で、天上が……苗字? 家名? です?」


 なんて説明すればいいんだ?

 しかもよくよく考えればこっちの人と俺の名前の順番が逆なんだよな。海外もこの世界と同じ名前の形式なんだっけ?

 なぜか疑問に疑問形で答えるというなかなか失礼なことをしてしまったが、ラインハルトさんは気にしていなかった。


「ハハハハハ! なかなか面白い子だね。それにこの『日本』という国も聞いたことがない……私は職業柄、この大陸だけでなくほかの場所もよく訪れたものだが、どこら辺にある国なのかな?」

「えっと……東のほうの小さな島国ですよ」

「なるほど……うむ。君は見た限り上位階級の者に見えるが……」

「いやいやいや! 俺は一般市民ですよ」


 俺なんかが上位階級って……地球で上位階級の人間は佳織とかああいう人たちのことを言うんだろう。

 そんなことを考えていると、なぜかラインハルトさんも受付の人も目を見開いて驚いていた。


「そ、そうか。じゃあ、君は貴族ではないんだね?」

「そうですよ? むしろ、なんでそう思ったんですか?」


 純粋な疑問としてそう訊いたが、ラインハルトさんと受付の人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべただけだった。


「ううむ……まあ貴族の方が身分を隠すのはよくある話か。君が平民だというのなら、そういうことにしておこう」

「へ?」


 あれ? なんでか知らないけど疑われてる? しかも貴族じゃないかって。

 思わず呆けた表情を浮かべると、ラインハルトさんは俺の持ってきた胡椒を手に取った。


「こ、これは……! ……優夜君、君は本当に身分を隠す気があるのかね?」

「だから平民なんですけど!?」


 やっぱり疑われてるじゃん! それも貴族かどうかってさぁ!

 いや、いろいろな疑われ方って世の中にあると思うけど、貴族と間違われるなんてそうそうないよね!?

 そう考えると案外貴重な体験してるな、俺。

 しかもラインハルトさんたちは『大丈夫やで、隠したいんやろ? うんうん』って感じで非常に生温かい目を向けてくるのが何とも言えない。

 それはともかく、ラインハルトさんはしばらくの間胡椒と胡椒を入れていたビンを様々な角度から眺め、やがて溜息をついた。


「ふぅ……長年、いろいろな商品を取り扱ってきたつもりだが、ここまで品質のいい胡椒は初めてだ。それもこれと同じものが今の時点であと九つもあり、時間をかければまた用意できるのだろう?」

「そうですね」

「ふむ……」


 ラインハルトさんはしばらく考える様子を見せると、受付の人に何かを告げ、大きな革袋を持ってきた。


「さて、この胡椒だが……すべてを金貨100枚で買い取ろう」

「金貨100枚! ……ってどんなもんなんですかね?」


 俺の疑問にラインハルトさんたちはずっこけた。無知で申し訳ない。

 それにしても、『鑑別』で調べたときは金貨5~10枚の間で売れたらいいって書いてあったけど、その中でも最高金額で売れたことになる。

 なんでそんな査定結果になったのかは知らないが、お金が今欲しい身としてはありがたいね。


「そ、そうか。優夜君はこの国の者じゃないのだから、貨幣の価値が分からなくても不思議じゃないのか……それでは簡単に説明させてもらうが、まずこの国には価値の低いモノ順に銅貨、銀貨、金貨、そして白金貨の4種類が存在する。銅貨100枚=銀貨1枚といったように、下の貨幣100枚で一つ上の貨幣1枚だ」


 おお、それは分かりやすい。


「それでこの国では一般的な4人家族が一年不自由なく生活するのに必要なお金は金貨5枚ほど……つまり、君は今、約20年ほど働かずに暮らせるだけのお金を手にしたことになる」

「…………」


 今、なんと?

 4人家族が金貨5枚で生活できる? 20年も働かなくてもいい?

 でもそれは4人家族での話であって、俺一人なら一年間で金貨1枚と少し……。

 つまり、約100年働かなくてもいい。

 …………。


「えっ……えええええええええ!?」


 今度は俺が大きく驚くのだった。

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