第68話
「は、張り切りすぎた……」
俺は目の前に散らばる魔法具を前に、頬を引き攣らせた。
魔法具づくりを始めてから、ナイトやアカツキ、そして空夜さんの意見などを聞きつつ、それっぽいものを色々試行錯誤して作っていったのだ。
慣れないながらも日曜大工のようなこともして、ついつい楽しんでしまった。
その上魔法具を作っていく中で、【刻印】スキルのレベルも上昇し、さらに俺の彫刻刀技術も上昇していったため、どんどん歯止めが効かなくなったのだ。
結果、俺の目の前に広がる数々の魔法具が出来上がったのである。
「つい色々作ってしまったのぉ。これ、どうするんじゃ?」
「そ、そうですね……最悪、俺の【アイテムボックス】に入れておけば問題ないでしょうが、明らかに使わなさそうなものは壊して燃やしましょう」
作っていく段階で徐々に俺の腕も上昇したので、最初の方に作ったモノと同じような効果でも、後々に作った魔法具の方がいい出来のものが多かった。
なので、そういったものは分解し、魔法で燃やしてしまおう。
幸い、材料は木でしか作っていないため、燃やすのに手間はかからないのだ。
「では、必要なモノと不要なモノをえり分けるとするかのぉ」
「わふ!」
「ふご!」
空夜さんの言葉に従い、俺たちは魔法具を一つ一つ選別していった。
こうして選別された中で、いくつかは商業ギルドで売るのもいいだろう。前に胡椒を売ったお金が残っているが、資金が多ければ多いほど、異世界を観光するときには役立つはずだ。何に使うかは知らないけど。
黙々と作業を進めていた俺たちはようやく選別が終わると、一息ついた。
「ふぅ、やっと終わったー!」
「お疲れ様じゃのぉ」
「わふ」
「ぶひ~」
空夜さんとナイトはケロッとしているが、アカツキはだらっと脱力し、地面に伏せていた。
ちなみに、手元に残った魔法具はこんな感じである。
『冷蔵庫』
『コンロ』
『送風機』
『エアコン』
『拡声器』
『録音機』
ちなみに名前が地球にあるのと同じなのは、俺が純粋に機能から想像しやすいからで、特に意味はない。いちいち新しい名前を付けるのもどうかと思うし、地球にあるものから流用させてもらった。い、異世界で使うわけだし、大丈夫だよね?
それと、これらの中で送風機とエアコンが似たもののように思えるが、エアコンは地球にあるようにその空間を暖めたり、冷やしたりする効果があるだけで、別に温風・冷風で部屋の温度を操作しているわけではないのだ。ここら辺は実に異世界的ともいえる。
それに対して送風機は、本当に風を起こすだけの魔法具なので、周囲の気温の風がそのまま送られてくるのだ。扇風機に機能的には近いが、何となく名前は送風機にした。
これらの魔法具はまとまった数がそれぞれ用意できているので、売るのにも問題なかった。
そんな数々の魔法具を作ったわけだが、個人的に気に入っているのは……。
「この移動ボードはいいなぁ」
何となく、スケートボードの空中に浮いている版が頭に浮かんだ俺は、それを魔法具として作り上げることに成功していた。
最初は浮かせることと、進行方向に移動するのを一枚の板で再現しようとしたのだが、それは無理だった。
だが、二枚の板を重ねることで、その問題は解決した。
底面には『浮遊』の文字を刻んだ木の板を、その上に『前進』『後進』『右曲』『左曲』と刻んだ木の板を重ねたのだ。
ただし、これもまた、一枚の木の板では不可能である。
そのため、『前進』と『浮遊』の木の板でワンセットといった具合に、四つの木の板のセットを作る。
そしてもう一つ、『浮遊』と『停止』の木の板のセットを作り、それを中心に四つのセットを十字の形に繋げたのだ。
しかし、それだと乗り心地が悪いので、空いてる場所に特に何も刻んでいない木の板も繋げたところ、最初にイメージしていたスケートボードの空中版というより、魔法の絨毯の木の板バージョンみたいなのが出来上がってしまった。
しかも、その操作方法はゲームセンターとかに置いてある、ダンスゲームを彷彿とさせる。
実際は行きたい方向の木の板のセットに手や足を乗せ、魔力を流せばいいだけなんだが、傍から見ればひとりツイスターをやってるように見えるかもしれない。
……ダメだ、滅茶苦茶ダサいぞ!
で、でも、これで空を飛びながら移動するという俺のやりたいことができたのだ! どうせ一つしか作ってないし、俺が使うだけなので問題ない。……人前で使うのは控えるけどね。
「鉄の板とか、もっと違う素材なら、不格好なものにはならないんだろうけどなぁ」
素材ごとに刻める文字数が決まってる関係で、こればかりは仕方がない。木の板にそこまですぐれた機能は求められないのだ。
とはいえ、そんな木の板から冷蔵庫やらエアコンやらが作れるんだから、異世界の技術って本当にすごい。
残った魔法具を眺めていた空夜さんが、ふと口を開いた。
「それで、残ったものはどうするんじゃ?」
「せっかくなんで、この世界の街に売りに行こうかと思ってます。空夜さんも来ますか?」
「誘ってくれるのは嬉しいが、麿はあまり家から離れることができんのじゃよ。……まあこの異世界とやらも本来なら一つ界を飛び越えるというとんでもない状況ではあるのじゃが、そこはあの扉で繋がっておるからのぉ。ともかく、麿はついていくことはできん」
「そうですか……」
せっかくなら一緒に観光したいなと思っていたので、つい気落ちしていると、空夜さんは苦笑いを浮かべた後、真剣な表情を浮かべる。
「いいか、優夜。麿にそう気を使ってくれるのは嬉しいが、もう麿は死んでるんじゃ」
「あ……」
「この状態も、いわゆる冥羅が復活するからこそ、閻魔様に許可をいただき、一時的に現世に現れているにすぎん。冥羅の件が終わり、麿も役目を終えれば、また冥界へと戻るんじゃよ。そこで初めて、麿は輪廻の輪に加わり、新たな生命へと生まれ変わるんじゃ」
「……」
こうして何気なく話せている空夜さんは、本当に一時的な存在でしかないことを改めて突き付けられ、俺は何も言えなくなってしまった。
そんな俺の頭に、空夜さんは手を置く。
「ま、そう悲観するでない。麿は嬉しいんじゃよ。自分の子孫が、立派に生きておることが」
「……俺は別に、立派じゃないですよ。大きな流れに身を任せて生きているだけです」
この体も、家も、武器も、何もかも、異世界から、賢者さんから貰ったものだ。
そこに俺の成果はない。
そしてその環境に甘えて、今の俺は生きているだけなんだ。
しかし、空夜さんは頭を振る。
「いいか、優夜。他の誰が、または優夜自身が立派でないと言おうが、麿はどうだっていい。幸運をただ享受して生き続けていようがのぉ。麿はただ、優夜が必死に、悪事も働かず善く生きているだけで、嬉しいんじゃよ」
「!」
空夜さんの優しい言葉に、俺は目頭が熱くなった。
「い、生きているだけで?」
「生きているだけでじゃよ。麿の時代を知っておるか? 現世より医療も食料も何もかも不足しておるから、明日も生きられるか分からぬ者が現世より大勢いる。それに比べ、現世は色々発達し、生きていくには事足りるようになったようじゃが、その弊害か、皆頑張りすぎじゃ。暗い話が飛び交い、暗い顔を浮かべておる。本来人は、生きているだけで素晴らしいんじゃよ。もっと生きていることを誇るといい。せめて自分だけは、自分を褒めるんじゃ。何、誰にも迷惑かからんよ。褒めるだけなんじゃしな。まあ優夜のことは、麿がいくらでも褒めてやるとも!」
「わふ!」
「ぶひ!」
「おお、ナイトとアカツキも優夜を褒めるか? ははは! これで三人に増えたぞ! 善き哉善き哉」
ナイトたちの言葉を受け、朗らかに笑う空夜さん。
ここまで言ってくれたことに、俺は感謝しかない。
だからこそ、これから先どうなるかなんて全く分からないけど、せめて、俺を褒めてくれる空夜さんやナイト、アカツキ、そしておじいちゃんに恥ずかしくないよう、頑張ってみようと、思えたのだった。
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