第36話
「お前……どこからやって来たんだ?」
「ブヒ?」
俺は見知らぬ豚を持ち上げ、目を合わせるが豚は可愛らしく首を傾げるだけだった。
うーん……考えられるとすれば、お風呂セットを出して姿を隠しているときにはお風呂セットの近くにいたとか?
改めて子豚の姿を見てみると、紅く短い毛に覆われていて、瞳は黒色でこちらに何の敵意もなくただじっと見つめてきている。
毛の触り心地はナイトとはまた違った気持ちよさがあり、サラサラとしていた。
「よく分かんないけど、お前も一緒に風呂入るか?」
「ブヒ!」
俺がそう言うと子豚は俺の足元にスッポリ収まった。……可愛いな、コイツ。
近づいてきたナイトと一緒に撫でてやりながら俺は子豚に鑑定のスキルを発動させてみた。
【
レベル:490
魔力:30000
攻撃力:5000
防御力:5000
俊敏力:3000
知力:10000
運:10000
「孟槐?」
「ブヒ?」
聞いたこともない種族の名前に俺は首を傾げる。
いや、異世界なんだし俺が知らない種族の魔物がいるのは当たり前なんだけどさ。でも雰囲気的に中国系統な感じがするんだよなぁ……。
それにしても、ステータスもだいぶ偏ってるな。
攻撃力や防御力はレベルの割に低すぎるし、その代わり魔力だけはずば抜けて高い。
「お前変わったヤツだなぁ~」
「ブヒヒ~」
「いや、褒めてるワケじゃないよ?」
器用に子豚は前足を使って頭をかくような仕草をした。まあ可愛いからいいんだけど。
そんなことを考えていると不意に目の前にメッセージが現れた。
『スキル≪鑑定≫が一定以上の習熟度を満たしたため、≪鑑別≫へと変化いたしました。【孟槐】のテイムに成功しました』
「何で!?」
どこでテイムする要素があった!? いや、今一緒に風呂に入ってるけど!
あれか、裸の付き合いをした仲ってことなんですかねぇ!?
別に困るどころか、コイツ可愛いし俺としては大歓迎なんだが……。
「なあ、お前俺にテイムされてることになってるけど……いいの?」
「フゴ? ……ブヒィ!?」
お前も気付いてなかったんかいっ!
すごく驚いた様子の子豚だったが、やがて一つ頷いて俺の方を向いた。
「ブヒ。ブヒブヒ」
「何言ってんのかサッパリ分かんねぇ……」
内容は詳しく理解できないが、何となくコイツは俺たちと一緒にいることに納得したようだ。それでいいのか? 野生よ。
そんなやり取りをしていると、ナイトが俺の方を見上げた。
「わふ?」
「ん? ああ、コイツはたった今仲間になったらしい。仲良くしてやってくれ」
「ワン!」
……ん? ナイトとは問題なく意思疎通がある程度できるのに……まあいいか。ナイトも完全に言ってる内容が分かるわけじゃないし。そのうち慣れて分かるようになるだろ。
「取りあえず、こうして仲間……いや、家族になったわけだし、名前を付けないとな」
「ワンワン!」
「ブヒっ!」
んー……何がいいかねぇ……。
そもそも【孟槐】なんて名前を聞いたこともないし……。
俺は子豚を眺めながら名前を考える。
そして俺はナイトのときと同じように、見た目から名前を決めた。
「……うん。お前は【アカツキ】だ」
紅い毛と黒い瞳から、俺は何となく夜明け前の空を想像したため、コイツにアカツキという名前を付けることにした。もう完全に俺的印象の問題なので、文句は受け付けません。
名前を付けられたアカツキは、嬉しそうな声をあげた。
「ブヒ! ブヒブヒ!」
「おお、嬉しいか。そりゃよかった」
変な名前にならないように気を付けたけど、喜んでもらえて嬉しいな。
早速ナイトとアカツキはお互いに何やら話し合い、俺から少し離れた位置でお風呂を楽しみ始めた。
さて……。
「……≪鑑別≫ってなんだ……」
一度放置していたが、アカツキの名前を決めたのでこのスキルに関して考えることにする。
メッセージの表記を見るに、俺が≪鑑別≫を使い続けたことで習熟度? とやらが一定値まで達したから変化したらしいけど……どう違うんだ?
それに、この変化があるってことは、もしかしたら他のスキルも変化するかもしれないってことだよな?
「……せっかくだし、この≪鑑別≫で≪鑑別≫のことを調べてみるか」
すぐにスキルを発動させてみると、こう表示された。
≪鑑別≫……≪鑑定≫の上位スキル。≪鑑定≫より詳しく調べる事が出来、対象のスキル構成なども見ることが可能。
「よく分からんが、便利になったんだな」
もっと感想や驚きがあってもいいんだろうが、俺としてはこれが一番の感想だった。
取りあえず、この対象のスキル構成が見れるってことは今まで見る事が出来なかった敵のスキル……つまり、攻撃手段などを知る事が出来るってわけだ。それはとてもありがたい。これでより一層危険度が下がるわけだからな。
ただ、人間とかのステータスやスキルを見るのはどうなんだろう?
一つの個人情報みたいなものなんだろうし、無暗に使うのもよくないような……。
そこら辺のスキルの使い方が微妙に分からないから、今は魔物だけに留めとこう。
というワケで、せっかくなのでナイトたちのスキル構成を見てみることに。
「なあ、ナイト、アカツキ。お前たちのスキルを確認したいんだけどいいか?」
ステータスは勝手に見ているくせに、ここだけ確認をとるのも変な話だが俺は一応訊いた。
「ワン!」
「ブヒ!」
二人? からも許可を貰ったところで、俺はナイトのスキル構成から見ることにした。
【ナイト】
≪
「お前メチャクチャだなぁ!?」
「わふ?」
俺のツッコミにナイトは可愛らしく首を捻るだけだった。
いやいやいや、何なのこのぶっ飛んだスキルの数々は!
いつの間にか≪無詠唱≫を習得してるし、爪や噛みつき攻撃は熟練度最大で、何より≪夜神狼の神威≫って何!? 今は使えないみたいだけどさ!
「ナイト……お前は将来大物になるぞ。間違いない」
「わふ? クゥン」
頭を撫でてやると、ナイトは俺に体を擦り付けてきた。将来大物になるだろうけど、今は甘えん坊で可愛い。可愛いから何でもいいか!
「よし、じゃあアカツキはどうだ?」
「ブヒ」
アカツキのスキル構成を見ると……。
【アカツキ】
≪魔力操作≫、≪祓魔≫、≪解呪≫、≪聖域≫
「お前も大概だなぁ!?」
「ブヒ?」
戦闘に使えるのかよく分からんスキルばっかりだが、≪聖域≫ってどう考えてもおかしいだろ。
「取りあえず、お前も凄いヤツだってことが分かったよ」
「ブヒ~」
スキルが新しくなったり、アカツキが家族になったりといろいろとあったが、どれも悪いことではないのでいいだろう。
俺はアカツキとナイトを撫でながら、たっぷりとお風呂を堪能して早速生み出した魔法を使って家に帰るのだった。
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