第37話

「――――はい、アタシの勝ち」

「ガッデム!」


 俺たちは校外学習の場所に向かうため、バスの中で遊んですごしていた。

 俺はトランプとか持ってきていなかったのだが、晶や凛たちがオモチャだけでなくお菓子も用意してくれていたので退屈することがない。

 むしろ俺はオモチャもお菓子も持ってきていないので、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだが……。


「何でだ! 何で勝てない!? この僕にどうしてババが回って来るんだ!?」

「アンタ、顔に出やすいからねぇ……」


 たった今もババ抜きをして遊んでいたのだが、連続で晶が負け続けている。


「それより、優夜君すごいね! 連続で一位だなんて……」

「そんなことないよ。どれもまぐれなんだし」


 何故か俺はババを一度も引くことなく、しかも必ず手札と揃うカードが引けていたので一瞬で終わってしまったのだ。

 ……たぶんだけど、俺のステータスの運が関係してる気がする。

 もしそうだとしたら、これから先こういうゲームを楽しめないんじゃないか? 運がいいってのはいい事なはずなのに、あまり嬉しくないぞ。

 それにイカサマをしてる気分で申し訳ない……。

 運要素が絡むゲームはこれからはこんな調子なのだろうか。

 思わぬ弊害を実感しながらも、俺たちは和やかな雰囲気のまま校外学習へと向かっていくのだった。

 ――――予想以上に大変だとも知らずに。


***


「でっけぇ……」


 連れてこられたのは、山の上にある旅館みたいな場所だった。

 ここで校外学習を受けるのかな? と思っていると、各クラスの担任が招集をかけた。


「おーい、こっちに集まれー。今から説明するぞー。あ、班ごとに分かれとけよー」


 先生に言われた通り班ごとに分かれて座ると、沢田先生は俺たちを見渡すとニヤリと笑った。


「さて、それじゃあ……お前らにはサバイバルをしてもらうぞ」

『は!?』


 先生の言葉に全員の目が点になった。

 するとすぐに生徒の一人が質問する。


「さ、サバイバルってどういうことですか? 旅館らしき建物があるんだし、そこで寝泊まりするんじゃ……」

「甘いな。これからお前たちには男女別にするためにテント二つと調理器具類を配るから、それぞれ二泊三日を野外キャンプという形で乗り切ってもらう。風呂に関してはちゃんと旅館の風呂を使わしてやるから、ありがたく思えよ?」

『ええええええ!?』


 まさかの展開に誰もが声をあげた。

 いや、確かにキャンプみたいなものって聞いてたけど、寝泊まりする場所も外だとは……てか、先生調理器具を渡すって言ってたけど、まさか――――。

 俺と同じような考えに至った人がいたらしく、再び質問が出た。


「あ、あの! もしかして料理って……」

「もちろん自前に決まってるだろ。それも、ここら一帯に植生してるキノコやら野草やらを使ってな」

『ウソだろ!?』


 マジかよ、そこまでやらせるの!? てか危なくない? キノコって……。


「一応カレーの材料は用意してるが、それは本当に必要最低限の物だけだ。具なしカレーを食べたくなければ、自分で見つけて食卓を彩るんだな」

「いや、もうこの際具なしでもいいような……」


 俺も同じように思っていたが、そこで先生は真剣な表情になった。


「残念だが、これは一つの競争だからな? それもクラス対抗戦だ」

「く、クラス対抗戦?」


 なんだか話が大きくなったぞ。


「このクラスは天上以外は知ってると思うが、秋ごろに行われる【学園祭】はそりゃあもうたくさんのお客さんも来るビッグイベントだ。そこではクラスごとに店やらを出店できるんだが……それらの予算はこういった行事の対抗戦で決められる。つまり、今回のサバイバルで成績優秀であれば他のクラスに一歩リードで、学園祭は豪華な出し物ができるぞ」


 そ、そんな仕組みだったのかよ……でもなんだか面白そうって思う俺はおかしいんだろうか?

 前の高校じゃそんなこと一切ないし、他の高校もこんな形式はとってないだろう。


「それに俺たち先生のボーナスにもつながるからな! 死ぬ気で頑張れ」

『それが本音じゃね!?』


 クラス全員がツッコんだ。

 いや、先生のボーナスまでそんなことで決まるの!? もう何でもありだな!


「で、でもキノコって危なくないですか? それに採れるモノって野菜だけのような……それに対戦ってどうするんですか?」

「川もあるから、釣りで魚を釣っても構わねぇぞ。釣り道具一式も貸し出すしな。それと採って来たものは俺たち先生のもとに絶対に持ってこい。ちゃんと食えるかどうか仕分けてやるし、そこで採点する。採点基準は危険のない食材を多く採取して、美味そうな飯を作ったヤツが多かったクラスが優勝だ。ちなみに採点は一度しかしねぇから、もう一度採取に向かうなんてことは出来ないぞ。間違っても先生たちに見せることなく採って来たもので調理して食うなよ? 死んでも責任とらねぇからな」


 怖いな、おい!

 いや、先生の脅し文句がきいたのか、たぶん全員先生にちゃんと見せるような雰囲気だしてるけどさ。しかもそうしないと採点されないっていうんだし。


「まあもし仮に毒に当たっても、保険医の黄泉川先生が治療してくれるさ。……それがいいかどうかは知らねぇが」


 先生がそう言った瞬間、白衣を着た幽霊のような女性がユラリと現れた。

 綺麗な黒い長髪だが、顔が隠れるほどに長く、左目だけが髪の間から覗いている。


「ヒヒヒ……あ、安心して頂戴……こ、この薬を使えば……ひ、ヒヒヒ……」


 安心できないんだけど!?

 その手に持ってる薬の色見てよ! 紫だよ!? 毒薬の間違いじゃない!?

 人の名前にケチつけるワケじゃないけど、黄泉川ってのも不吉だなぁおい!

 初めてこの学園の保健室の先生を見たけど、個性が爆発しすぎだろ。

 他の先生方もなんだかんだ言ってクセが強いし……いや、教え方もすごく上手で面白いからいいんだけどさ。

 俺が内心で色々ツッコんでいると、楓が震えながら俺に教えてくれた。


「あ、あのね……優夜君は知らないかもしれないけど、黄泉川先生の保健室って常に暗闇に覆われてて、近くを通ると必ず誰かの叫び声が聞こえるの……だからみんな近づきたくなくて仮病をする人もいないんだよ……」

「何その斬新な保健室」


 スゲェな、おい。

 でも結果的に生徒たちが真面目に授業受けて、なおかつ病気やケガを気を付けてるんならすごくいいことなんじゃないか? 叫び声は知らんけど。

 楓の言うことは本当らしく、周りを見渡すとどの生徒も先ほどより一層先生に採って来たものを見せようって感じに決心してるようだった。うん、結果オーライだね。


「だいたい概要は理解したか? 一応、山菜の図鑑とかは渡すから、せいぜい俺のボーナスの為に頑張れ。ついでに学園祭な」

『ついではアンタだよ!』


 そりゃそうだ。

 先生のボーナスはともかく、優勝していくことでポイントみたいなものが積み重なっていけば豪華な出し物が学園祭でできるわけだし、頑張ろう。

 俺たちは先生から調理器具とテント、そして図鑑や釣竿を受け取ると一度集合した。


「さて……どうする?」

「心配ないさ! この僕にかかれば釣りや採取なんて――――」

「このアホはいいとして、テントを立てたら手分けした方がよくないかい?」

「手分け?」


 凛の提案にそう訊くと、凛は図鑑と釣竿を取り出した。


「優夜と楓が釣りに行って、その間にアタシとこのアホで採取してくるのさ。その方が効率がいいだろう?」

「ああ、確かに……俺は別に構わないけど?」

「釣りかぁ……私やったことないからできるか不安だなぁ」

「俺も経験ないけど、何とかなるんじゃない? とにかく頑張ろう!」

「「「おー!」」」

「あのー? みんな僕の扱い酷くないかい? ねぇ、聞いてるー?」


 晶だけ置いて行かれながらも、俺たちは今後の動きを軽く決め、テントを組み立て始めるのだった。

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