第83話
ヴィオラさんの両親を助けるべく、動き始めた俺たち。
ただ、ヴィオラさんの両親が向かったというルステッド王国がどこにあるのか、俺は知らなかった。
「これは一度、冒険者ギルドに寄って、場所を確認したほうがいいよね?」
「わふ」
「ぶひ」
俺の言葉に、ナイトたちは頷いた。
ただ……。
「……ルステッド王国の場所が分かったとしても、あんまり遠い場所だと困るよな……」
勢いで飛び出したはいいものの、ルステッド王国がとても遠い土地にあるのだとしたら、ヴィオラさんの両親と合流するにの時間がかかってしまう。
ヴィオラさんの両親はS級冒険者らしいので、ある程度安心できるものの、何が起こるか分からない。
だからこそ、なるべく早く合流したかった。
何より……心配しているヴィオラさんのためにも。
ただそうなると、普通に移動するのでは時間がかかってしまう。
俺は佳織や司さんのご厚意で王星学園に通わせてもらってるんだし、無断欠席するわけにはいかない。
だが、ヴィオラさんの両親の安全はもっと大切だ。
だからこそ、迅速に解決する必要がある。
とはいえ、転移魔法は一度行ったことのある場所にしか移動できないのだ。
そう考えたところで、俺はふとあることを思いついた。
「……本当に、その土地の映像の記憶がないと転移できないんだろうか?」
確かに、初めて転移魔法を作った時、教科書に載っていたアメリカの写真を見て、アメリカに転移できないか試したことがある。
まあ実際に転移できてしまったら、不法入国だとかいろいろ問題があるわけだが、結果は無理だった。
その時は、俺の脳内の景色と体の情報が結びついていない……つまり、他人が得た映像を、俺が得ている状態なので、俺が直接そのアメリカの景色を見たわけじゃないから、無理だったのだと結論付けたわけだ。
なら、俺が自分の目で見た場合はどうだろうか?
例えば、ドローンみたいに、俺の視点を飛ばす魔法を作り、それで遠い土地を見たら、転移魔法を使えるんじゃないか?
そう考えたところで、俺はすぐさま新しい魔法を作りだすことにした。
考えるくらいなら、やってみた方が速い。
俺はすぐさま目を閉じて、集中すると、自分の視点をドローンのように飛ばすイメージを浮かべた。
すると――――。
『スキル【天眼】を獲得しました』
「あれ!?」
なんと、魔法ではなく、スキルを獲得してしまった。
だが、驚く俺をよそに、脳裏に俺やナイトたち、そして賢者さんの家を俯瞰して見下ろしている映像が流れ込んできた。
しかも、少し意識するだけで、さらに遠くの景色も見ていくことができるのである。
一度スキルを解除し、スキルの効果を確認した。
【天眼】……遠くを見通すスキル。熟練度が上がると、未来も予知できる。
……なんかとんでもないスキルだった。
魔法の代わりにうっかり獲得したスキルの割に、効果が凄まじい。
だが、今はそれでもありがたかった。
「このスキルがあれば、転移魔法でどこにでも行けるんじゃないか!?」
俺はすぐに確認すべく、冒険者ギルドのある街を思い浮かべる。
ただ、いつもと違うのは、街の中でも行ったことのない裏門と呼ばれる入り口付近に転移すること。
そして、スキルで確認した後、俺はすぐに転移魔法を発動させた。
すると……。
「せ、成功したぞ……!」
やはり俺の予想通りというか、スキルと転移魔法を組み合わせることで、俺は行ったことのない場所にも一瞬で転移することができるようになったのだ。
「ナイト、アカツキ! 行くよ!」
「わん!」
「ぶひっ!」
大人しく俺が準備しているのを見守ってくれていた二人に声をかけ、すぐに転移魔法で生み出したゲートをくぐり抜けた。
そのまま俺たちは、急いで冒険者ギルドに向かうと、シルディたちと遭遇する。
「ん? ユウヤ?」
「あ、シルディ! それに、皆も……」
「最近よく会うな」
グレイドの言う通り、ここんところ毎日冒険者ギルドに顔を出しては、ヴィオラさんの両親に関して何か進展がないかを確認していたため、【明星の旅団】のメンバーと顔を合わせる機会が多くなっていた。
すると、シルディたちが思い出したように笑みを浮かべる。
「そうだ、聞いてくれ! ついに私とグレイド、そしてルルナの三人が、S級に昇格したんだ!」
「え!? おめでとう!」
確か、ヴィオラさんを追いかけていた人攫いを捕獲するために動いていた関係で、シルディたちのS級昇格試験が先延ばしにされていたのだ。
「これでフィアンナとダンを合わせて、私たち全員がS級冒険者になったわけさ」
「それに合わせて、パーティーもA級からS級に昇格したんだぜ?」
「すごいね……」
それだけ皆が真面目に仕事をしてきたからこそ、S級冒険者という称号を手に入れることができたんだろう。
それに、皆の実力は確かだ。
皆の昇級に心からお祝いを告げると、シルディが首を傾げる。
「そう言えば、ユウヤはどうしたんだ? 何やら急いでるようだったが……」
「あ、その……ルステッド王国がどの方角にあるのか知りたくてさ……」
そんな俺の言葉に、五人は顔を見合わせた。
「なんでまた、そんな物騒な国を?」
「ちょっと用事があってね……」
「用事!? あんな国に!?」
グレイドだけでなく、皆俺の言葉に目を見開いている。
このことからも、ルステッド王国がどれだけ危ない場所なのか分かった。
だが、俺には行かなきゃいけない理由があるんだ。
「そうなんだ。だから、ルステッド王国の場所を知りたくて……」
「そりゃあ教えてやれるけど、今あそことこの国は特に国交がねぇし、ルステッド王国行きの馬車なんてどこも出してねぇぞ?」
「大丈夫。場所が分かれば何とかするからさ」
そう告げると、改めて五人は顔を見合わせ、グレイドがため息を吐きながら一枚の紙を取り出した。
「ほら、地図だ」
そうやって渡された地図には、このアルセリア王国からルステッド王国に向かうまでの道以外にも、他の国に続く道までが詳細に記されていた。
そうだ、調べようと思えば図書館で地図を見ればよかったんだ……。
間抜けな俺は、グレイドに地図を見せてもらったところでそんな単純なことを思い出した。
だが、グレイドは続ける。
「これは俺たちが記録してきたものだから、信頼できるぞ」
「え? 図書館とかにある地図と同じじゃなくて?」
「ん? 図書館に地図なんて置いてるわけないだろ? 国によっては国家機密だからな」
なんと、この世界では地図の扱いが地球とは少し違った。
いや、もしかしたら、昔の地球では、同じように地図が国家機密みたいな時代もあったのかもしれない。
「何にせよ、これは俺たちが冒険者として活動する傍ら、記録してきたものだからな。もしかするといくつかの道は使えなくなってたりするかもしれねぇが、ルステッド王国の場所を確認するには問題ねぇだろ?」
「うん、ありがとう!」
グレイドの言う通り、俺はルステッド王国の場所さえ分かればよかったので、この地図は本当にありがたかった。
すぐに最初に作った転移魔法にも使った、写真のように映像を記録する魔法を使い、地図を記憶する。
そこでふと俺はあることに気づいた。
「そう言えば、この地図を見た感じ……皆もルステッド王国には行ったことあるの?」
「まあな。とはいえ、少し立ち寄ったって程度だが……」
「あそこは長居したい場所ではないからな」
「そうね……変な事件に巻き込まれても困るし」
よほど治安が悪いのだろう。皆の表情は曇ったままだった。
「でも、本当にこの国に行くのか?」
「うん。絶対に行かなきゃいけないんだ」
俺が真剣な表情でそう言うと、グレイドたちはため息を吐いた。
「はぁ……そこまで覚悟を決めてるんなら、止めねぇよ。何より、ユウヤなら大丈夫だろうしな」
「そうだな……何をしに行くのかは知らないが、ルステッド王国にも冒険者ギルドは存在する。だから、何か調べるなら利用してみるといいだろう」
「その代わり、ここのギルドに比べてやはり治安は悪いですけどね……なので、気を付けてくださいね」
「色々とありがとう!」
俺のことを心配してくれる人がいるだけで、俺は嬉しかった。
ひとまずルステッド王国の情報を手に入れた俺は、皆と別れると、そのまま人目を避けるべく、もう一度賢者さんの家に戻り、そこから【天眼】と転移魔法を使って、ルステッド王国に足を踏み入れるのだった。
異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~【旧題:レベルアップは人生を変えた(仮)】 美紅(蒼) @soushi
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