第82話
翌日。
再びヴィオラさんの両親と連絡が取れたか確認すべく、俺は冒険者ギルドに来ていた。
すると……。
「えっ……まだ連絡がつかないんですか?」
なんと、まだ連絡が届いていなかったのだ。
「はい……こちらとしましても、依頼通り連絡したいのですが、どうも最近はギルドにも顔を出していないようでして……」
「そうですか……」
ギルドに顔を出していないとなると、ギルドで依頼を受けるとかじゃなく、本格的にヴィオラさんを探し出しているってことだろう。
ただ、冒険者ギルドに何らかの情報収集を行っていてもおかしくなさそうだが、この感じだとそれもしていないようだ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、受付の人はどこか不安そうな表情を浮かべた。
「それと……聞いた話によりますと、最後にお二人を見たのはルステッド王国に方面に向かうところだったそうで……」
「ルステッド王国?」
知らない国名に首を捻ると、受付の人は丁寧に教えてくれた。
「一言で申しますと、非常に治安の悪い国です」
「な、なるほど」
国の特徴を教えるために治安の悪さを挙げるんだから、これは相当悪いんだろうな。
ただ、どうしてそんな場所に向かったんだ?
「何か、そこに用があるんですかね?」
「さあ……ただ、あの国はとある犯罪組織が裏から支配しているような状況でして、よほどのことがない限りその国に近づくようなことはありません」
そ、そこまで言われるなんて……。
「分かりました……また時間を置いて確認に来ますね」
「かしこまりました」
そう告げると、俺は家に帰るのだった。
***
「――――というわけで、恐らくヴィオラさんのご両親はルステッド王国? ってところに向かったみたいです」
「そんな……」
ギルドから帰って来ると、早速教えてもらった情報をヴィオラさんに伝えた。
すると、ヴィオラさんは途端に顔を青くする。
「どうしたんじゃ、そんなに震えて」
「わふ?」
あまりにも様子がおかしいため、一緒に話を聞いていた空夜さんたちが心配そうにすると、ヴィオラさんは小さく呟いた。
「……その国なの」
「え?」
「私を攫ったのは――――その国なのよ」
「!」
あの人攫いたちは、ルステッド王国出身だったのか。
「正確には、ルステッド王国に存在している犯罪組織が、私を攫ったのよ……」
「そう言えば、受付の人も言ってたな……国を支配してるのは犯罪組織だって」
「むぅ……罪人どもの集まりにしては、強大な力を持っとるようじゃのぉ」
「でもその国にご両親が向かったということは、ヴィオラさんを救出するためだよな……」
こっちの情報が伝わる前に、攫ったヤツらの正体を突き止めてしまったわけだ。
どうしたもんかと考えていると、ヴィオラさんは震えながら部屋の外に向かおうとする。
「た、助けに行かなきゃ……お父さん、お母さん……!」
「ヴィオラさん!」
ひどく焦燥した様子で同じことを呟き続けるヴィオラさんを、俺はひとまず抱きとめる。
「は、放して! 助けに行かなきゃ……お父さんとお母さんが……!」
「お、落ち着いてください! ヴィオラさんの両親はS級冒険者なんですし……」
「ダメよ! 【黒蛇】のトップは……元S級冒険者なのよ」
「え?」
俺の腕から抜け出せないことを悟ってか、ヴィオラさんは体から力を抜いた。
そしてぽつりぽつりと続ける。
「黒蛇は……私たちのような希少種を攫って、奴隷にしているの……そしてお父さんたちも、私と同じでヤツらにとっては魅力的な商品に見えるはず……だから助けに行かないと、お父さんとお母さんが……!」
そこまで言うと、ヴィオラさんは泣き崩れた。
……。
「空夜さん」
「何じゃ?」
「ヴィオラさんのこと、お願いできますか?」
「そりゃあもちろん問題ないが……行くのか?」
「はい」
空夜さんの言葉に頷くと、俺はしゃがみこんでヴィオラさんの顔を覗き込んだ。
「ヴィオラさん。俺が必ず、ヴィオラさんの両親を連れてきます。だから、待っててください」
「え?」
ヴィオラさんは一瞬呆けた表情を浮かべたが、すぐに首を振る。
「だ、ダメよ! 貴方まで捕まっちゃう! そんなの絶対にダメ!」
力強く俺の服を掴むヴィオラさん。
だが……。
「ほれ」
「え……あ――――」
空夜さんは妖しく紫色に光る指先を、ヴィオラさんの額に当てた瞬間、ヴィオラさんはそのまま眠り落ちてしまった。
「これでしばらくは目覚めんじゃろう」
「空夜さん……ありがとうございます」
「いいんじゃよ。子孫が頑張るんじゃ。麿が手を貸すのは当然じゃろう? それよりも、学び舎の方は大丈夫かのう?」
「分かりません……でも、こちらの方が大切ですから。ひとまず国の場所が分かり次第、全力で向かうつもりです」
「そうか。いい子じゃな」
優しく笑う空夜さん。
すると、すぐに真剣な表情を浮かべた。
「――――気を付けるんじゃぞ」
「はい!」
「わん!」
「ぶひ!」
俺はやる気満々のナイトとアカツキを連れ、出発するのだった。
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