第71話

「またお金がいっぱい手に入っちゃった……」

「わふ」

「ふご?」


 もろもろの手続きを終え、無事お金をもらったり銀行で口座を開設したりした俺は、どこかふわふわとした気持ちのまま、商業ギルドをあとにした。


「今のところあんな大金を使う予定もないし、そのまま銀行に預けてきたけど……まあいいか」


 この世界で果たしてあんな大金を使うことはあるんだろうか。

 例えばだけど、この世界のどこか気に入った街に家を建てるとかになると、お金はかかるかもしれないな。


「さて、それじゃあ予定通り、次は冒険者ギルドに行こうか?」

「わん!」

「ふご」


 元気よく返事をする二人を連れ、俺は久しぶりに冒険者ギルドへと向かうのだった。

 冒険者ギルドの中に入ると、以前と変わらぬ活気があり、心地よい騒々しさが俺たちを迎えてくれる。

 そんな雰囲気に浸っていると、不意に声をかけられた。


「ユウヤ!」

「え? あ、シルディ!」


 声の方に視線を向けると、そこには以前【大魔境】で出会った冒険者のグループ、【明星の旅団】のメンバーがいた。


「ユウヤ、お前、森から出てきたのか!」

「まあね。ちょっと観光もかねて。皆も元気だった?」

「おう! むしろ絶好調だぜ。ユウヤこそ元気にしていたか?」

「うん」


 パーティーのリーダーであるグレイドさんとそんなやり取りをしていると、ふと周囲の冒険者たちがヒソヒソと話している姿が視界に入った。


「お、おい、アイツ何者だ?」

「A級パーティーと知り合いとか……」

「そういえば、前にアイツ、ここに来てゲインの野郎と会話してなかったか?」

「あ、いたいた! いつもの新人弄りかと思えば仲良くなってたやつな!」

「ますますワケが分からねぇな……」

「えっと……」

「……入り口で話していては邪魔になるな。せっかくだ。もっと落ち着けるところで話そうじゃないか」


 周囲の様子に戸惑っていると、シルディがそう提案してきたので、俺はその提案に乗り、皆がよく行くというお店まで案内してもらうのだった。

 案内してもらった場所は、大衆食堂といった場所で、店内の雰囲気も明るく、心地いい。


「ここは僕らがよく来る場所なんだ。周囲もいい感じに騒がしいから、あまり周りを気にせず話せるのがいいんだよ」

「へぇ……」

「私たちの稼ぎなら、もう少しいいところで食事をしてもいいんだけど、ここって美味しいし、何より居心地がいいのよ」

「私たちも昔からお世話になってるんです」


 皆の言う通り、このお店は非常に心地よかった。

 ひとまず席に着き、一息ついていると店員さんがやって来て、注文をとっていく。

 俺は何がいいのか分からないので困っていると、グレイドさんが笑った。


「ここは何喰っても美味いぞ? それに、誘ったのは俺たちだからな。ここは奢るよ。遠慮せず食いな」

「あ、ありがとう。えっと、それじゃあ……このランチセットで」


 我ながら無難な選択だと思ったが、またこの街に来た時に別のメニューを頼めばいいか。

 そんな感じで全員が注文を終えると、シルディが少しソワソワしていることに気付く。


「? どうかした?」

「え? あ、その……ユウヤの足元にいるのは?」

「わふ?」

「ふご」


 シルディが俺の足元でくつろいでいるナイトたちに視線を向けると、グレイドたちも気になるようで、一斉に視線を向けてきた。

 よく考えれば、確かにナイトたちと会うのは初めてか。


「こっちの黒い狼がナイトで、赤い豚がアカツキって言うんだ。俺の家族だよ」

「わふ!」

「ふご~」


 ナイトはお利口さんでちゃんと挨拶をしたのに対し、アカツキはだらんと床に寝そべったまま、軽く前足を上げ、挨拶をしていた。まったくアカツキは……。


「家族……前はいなかったよな?」

「ああ。シルディたちと別れた後、家の近くで会ったんだ」

「だ、【大魔境】の魔物ってことか!?」

「そうなるね。ナイトはまだ子どもだけど、すごく強いよ? アカツキも直接的な戦闘力は分からないけど、すごい力を持ってるんだ」


 つい親ばかのように自慢げにそう話すと、シルディたちは頬を引き攣らせていた。


「あ、あのユウヤが強いとかすごいって言うなんて……どんな魔物なんだ……?」

「さ、さあ……黒色の狼で言うと、B級の【シャドウ・ウルフ】やS級の【アビス・ウルフ】とか色々いるけど……」

「どのみち、とんでもないのに変わりはないな。赤い豚の方はちょっと分からないが……普通じゃないだろう」

「気になるような、聞きたくないような……反応に困るわね」

「えっと?」

「ああ、すまない。職業柄、魔物を見るとその生態系が気になるんだ」


 なるほど。

 確かに冒険者って魔物を相手にすることも多いんだもんな。だからいつ、どんな魔物と戦ってもいいように、日々魔物のことは調べていたりするんだろう。大変なお仕事だなぁ。いや、俺も登録自体はしてるから冒険者なんだけどさ。


「ところでユウヤは冒険者ギルドに用があったのかな? さっき、観光もかねて森を出たって言ってたけど……」

「あ、いや、特に用事があったわけじゃないよ? ただ、この街に来るのは二度目で、一度目の時にシルディたちに会えないかなぁとか思って冒険者ギルドに顔を出して、ついでに登録したんだ」

「ユウヤが冒険者として活動を始めるなら、すぐにでもS級になりそうだな」

「私やグレイド、ルルナはうかうかしてられんな」

「本当にすぐにでも僕やフィアンナと同じところに来ちゃいそうだよね」

「え? ということは、フィアンナとダンはS級なの?」

「まあね」

「最近なったばかりだけどね」


 なんと、フィアンナとダンは冒険者の中でも最高位の冒険者だったようだ。


「私たちはまだA級だが、近々S級昇格試験を受けるつもりだよ」

「へぇ!」


 S級が二人もこの場にいることに驚いていたが、シルディたちもS級になるための準備中とのことで、俺はただただ驚きっぱなしだった。

 ということは、グレイドたちはA級ってことか。

 あれ? 俺、そんなすごい人たちと知り合いだったの? いや、【大魔境】の調査に来るくらいなんだから、そりゃあ実力があるのは分かってたけどさ。

 ……あ、だから冒険者ギルドで視線を集めてたのか!

 そんなすごい人たちと親し気に話していたらそりゃあ誰だって気になるはずだ。しかも俺は、この街では全然見ない顔だろうし。

 冒険者ギルドでの視線の意味を理解したところで、ちょうどご飯が運ばれてきたので、俺たちはひとまず食事を始めるのだった。

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