第26話

「ここが『王星学園』の食堂だぜ」

「……」


 亮に連れてこられた先にあったのは、俺の知ってる食堂とはまるで違うオシャレでとても広い空間だった。

 まるで喫茶店のテラスのように並べられた多くの丸テーブルにシンプルな椅子。

 各テーブルでは生徒が楽しそうに談笑しながら食事をしている。

 ……俺の高校にも食堂はあるが、それはどこにでもある一般的な食堂であってここまで綺麗なモノじゃない。

 目の前の光景に呆然としていると、亮が笑いながら声をかけてきた。


「ははははは! 最初は誰でも驚くよな! でもこれだけじゃないんだぜ? ほら、これを見てみな」

「え?」


 次に亮に見せられたのは、メニュー表だった。

 そして、メニューを目にした俺は再び呆然とすることになる。

 まず、種類が圧倒的だった。

 和洋中は当たり前で、他にもスペインやらロシアやら……専門店に行かなきゃ食べられないような各国の料理。

 さらに各宗教ごとのためにも料理が用意されていたのだ。


「こ、ここの料理って、確か三ツ星料理店で働いてたシェフたちが作ってるらしいよ」

「三ツ星!?」


 慎吾君の言葉に俺は目を見開いた。

 いやいやいや、そんな高級なもんを食える金ねぇよ! 今は払えてもずっと食い続けるとか無理だって!

 そう思っていると、俺の考えが読めたのか、亮はニヤリと笑った。


「もっと驚かせてやろうか? ここの料理――――全部五百円なんだぜ?」

「――――」


 本当に絶句するしかなかった。

 え、ここは天国なのか?

 ワンコインで三ツ星クラスの料理が食えるんだろ? もう意味分からねぇよ。


「まあ五百円とはいえ、それでも一人暮らしで金銭面で厳しい生徒も確かにいる。そんな生徒の為に用意されてるのが、この『学生日替わりランチ』だ」

「日替わりランチ?」

「ああ。内容は日替わりだから選べねぇが、値段は……タダなんだぜ?」

「……」


 授業の段階でもすでに分かってたことだが、ここでもうハッキリと分かった。

 この学園は、他とは格が違いすぎる。

 亮や慎吾君の言葉を聞きながらメニューを決めて、セットを受け取ると近くの席に座った。

 亮は蟹のトマトクリームパスタで、慎吾君はトンカツ定食。

 俺は五百円と聞いたのでなるべく高そうなものをということで黒毛和牛のハンバーグ定食にした。いや、ちょっと贅沢なモノを食べてみたいわけですよ。


「よっしゃ、食べようぜ!」

『いただきます』


 食前の挨拶をすませると、俺たちはそれぞれの食事に集中した。

 ハンバーグを口に入れて、俺はあまりの美味さに固まる。

 な、ナンダコレ。

 肉汁がドバーッて! 口の中でふわって! う、美味い!

 語彙力が奪われてしまうほど、そのハンバーグは美味しかったのだ。

 無心に食事を進める俺を見て、亮たちも笑いながら自分のモノを食べていた。


「ね、ねぇ……ちょっと見てよ!」

「あの男子、誰かな……?」

「転校生?」


 食事をしていると、不意に周囲が騒がしいことに気付いた。


「なんだろう? なんかざわついてない?」

「ん? 優夜がいるからだろ?」

「俺がいるから? ああ、制服違うもんね。そりゃ目立つか……」

「……」

「ん? どうした?」

「……いや、何でもねぇよ」

「???」


 亮が「おい、マジかよ」みたいな目で見てきた気がするんだけど、気のせいだったようだ。

 談笑しながら食事を進めていると、亮がふと気付いた様に訊いてくる。


「そう言えば、優夜って部活するのか?」

「え?」

「この学園ってよ、スポーツとかにも力入れててどの部活もなかなか強いんだぜ?」

「そうなんだ……」

「だから、もし優夜が今通ってる高校で部活をしてるんなら、そこに入んのかなぁと」


 俺は当たり前だが部活なんてしていない。

 部費を払うだけでも苦しい生活だったし、そもそもそんな青春を許してもらえなかった。

 それに、今の俺の体で運動系の部活をすると……恐らく大変なことになるだろう。

 俺は苦笑いを浮かべながら亮に応えた。


「残念だけど、俺は部活をしてないよ」

「へぇ? マジか。意外だなぁ」

「そういう亮や慎吾君はどうなの?」

「俺か? 俺も帰宅部だぜ」

「え? そうなんだ。てっきり運動系の部活をやってるのかと……」


 偏見かもしれないが、亮の見た目は爽やかなスポーツマンといった印象を受けたから俺は驚く。

 すると、慎吾君が笑いながら教えてくれた。


「り、亮君は色々な運動が得意で、入学当初はいろんなところから勧誘されてたんだ。本当に引っ張りだこ状態だよ」

「そうなの!? じゃあ何で?」


 そんな漫画みたいなことあるんだぁと思いながら訊くと、亮はなんてこともなさげに答えた。


「んー……色々やってみたかったから……かなぁ?」

「色々?」

「おお。中学はサッカーしてて、結構いい線まで行ってたんだけど……この学園に入ってから、サッカーもいいけど色々な経験もしてみたいなぁって思ったら結局帰宅部になっちまった」

「で、でも亮君助っ人として本当に色々な部活に参加してるし、そのたびにすごい成績を残してるんだ」

「はは、照れるから止めてくれ」


 本気で照れてる様子で亮は恥ずかしそうに笑った。

 本当に漫画の住人みたいなヤツだなぁ。悪い意味じゃなくて、すごくいいヤツだしこれは人気者だわ。


「なるほどなぁ……そういうスタイルもあるのか……」

「そうだな。この学園に入ったなら無理に部活をしなくてもいろいろな経験できるぜ? そういう意味では、慎吾の部活も変わってるからよ」

「へぇ? 慎吾君は何部に所属してるの?」


 俺がそう訊くと慎吾君は笑顔で教えてくれた。


「ぼ、僕はゲーム部に所属してるよ」

「ゲーム部!? ゲームって……テレビゲームとか?」

「そうだよ」


 マジか……この学園、ゲームを堂々と持ち込んでもいいの? アクセサリーやら髪色やらやたら自由だと思ってたけど、そんなところまで許されてるのかよ……。

 王星学園のぶっ飛んだ自由さに驚いていると、慎吾君が理由を教えてくれた。


「も、もちろん授業中とかはしちゃダメだけど、休み時間とかならゲームもスマホも使っていいんだ。普通の高校なら厳しく禁止されるんだろうけどね。でも、これだけ自由を許してもらってて、授業中にスマホやゲームを弄ったりする人はいないし、だからこそ高校なのにゲーム部なんてものも存在できるんだ」

「はぁ~……」


 俺は感嘆のため息しか出なかった。

 つまり、この学園は生徒を信頼したうえでスマホもゲームも許可していると。

 でも何よりすごいのが、その信頼を裏切らないように生徒たちも努力をしていることだろう。あるんだな、こういうのって。

 他にもいろいろと驚くような話を聞いたりして、俺はとても充実した昼食をとる事が出来たのだった。


***


 放課後、俺は学園長室を訪れて宝城司さんと話していた。


「それで、どうだった? この学園は」


 優しい笑顔でそう訊く司さんに、俺は正直に思ったことを話した。


「……とてもすごかったです。授業も分かりやすいし、設備は充実してるし……でも、何よりも印象的だったのは、生徒たちがとても生き生きしてました」


 そう、この学園の生徒はみんな輝いていたのだ。

 今俺の通ってる高校じゃ、誰もがその一日を退屈に過ごしている。

 部活で青春してる生徒たちも、日中の授業や休み時間などは口々に「だるい」、「帰りたい」としているほどだ。

 でも、この学園に来てからその単語を一つも聞いていない。

 いや、絶対に言ってないわけじゃないだろうけど、それでも俺は耳にしていないのだ。

 誰もが楽しそうで、この学園を心の底から楽しんでる。

 それを俺は今日の体験で強く実感できた。

 俺の言葉を聞いて、司さんは満足そうに頷いた。


「そうか。そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。……それで、どうかな? この学園に通ってみないかい?」

「……俺なんかが、通わせてもらってもいいのでしょうか?」


 俺にこの学園に通うだけの価値があるのだろうか?

 自分の得意なことも、誇れることも見出せていない。

 何も分かってない俺なんかよりも、もっといい子が……。

 そう思っていると、司さんはまるで俺の心の中を読んだかのように優しく言った。


「優夜君。君の価値は君が決める物でもあるし、他人にも決める事が出来る」

「え?」

「そして、君は今自分がこの学園に通うだけの価値があるのか……そう考えているね?」

「…………はい」


 俺は少し間を置いた後、答える。


「でも私は君はこの学園に通うだけの価値があると思っているんだよ」

「あ……」


 その言葉を聞いて、俺は司さんを真っ直ぐ見た。


「大丈夫。君自身が価値を見出したくて、それを見つけられていないなら……この学園で見つければいい。君には時間があるんだ」

「――――」


 司さんの言葉は俺の胸にスッと入って来た。

 そして――――。


「あの……こんな俺ですが、よろしければこの学園に通わせてください」

「もちろん! 私たちは君を歓迎するよ」


 俺は改めてこの王星学園に通うことになるのだった。

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