第25話
あの後、俺は他の生徒に混じって授業を体験した。
てっきり俺なんかがついて行けないような難しい授業をしているのかと思えば、そんなことは一切なく、俺の高校と何ら変わらない授業の進行速度だった。
ただし、その内容はかなりすごい。
俺の高校で習った部分と同じ内容の授業を受けているはずなのに、分かりやすさが段違いなのだ。
授業ってつまらないものって認識が強い中、俺は普通に楽しかった。
漫画やゲームに例えて授業を教えたり、色々工夫されているのだ。
それに、授業を受けて感じたのが、先生と生徒の距離感だろう。
この学校では、その距離感が絶妙なのだ。
仲がいいのは分かるが、ちゃんと先生と生徒というハッキリとした線引きが出来ていて、それを実行できる先生方に俺は驚かされた。
そんなこんなで、午前中の授業を終えて、現在は昼休みに突入した。
「あ、氷堂さん。教科書ありがとう」
「……ん。気にしないで」
授業を受けることになったとはいえ、教科書も何もない俺は、隣の席のクールな女子生徒――――
氷堂さんは、薄い青色のクールな印象を受けるショートカットに、切れ長の青い瞳は常に半眼気味で眠そうにも見える。
オシャレに着崩した制服とチョーカーが相まってなんだかバンドマンみたいだ。
一見、話しかけにくそうな雰囲気を纏っている氷堂さんだが、勇気を出して話してみればとても優しかった。
そんな氷堂さんにお礼を言っていると、突然教室の扉が強く開けられた。
「雪音ー! 飯だ、飯食いに行こうぜー!」
教室に入って来たのは、『派手』という言葉がよく似合う高身長の女子生徒だった。
真紅の長髪に、大きな赤い瞳はキラキラと輝いている。
身に纏う雰囲気は楽し気なのだが、見た目は完全に女ヤンキーといった感じで、氷堂さんの机に向かってズカズカと歩いてきた。
やって来た女子生徒に向けて、氷堂さんはため息を吐く。
「はぁ……灯。もう少し静かに入ってきて」
「ん? あ、ワリぃワリぃ! 次から気を付けるぜ!」
「……いつもそれ。もう諦めた」
氷堂さんが呆れたように再びため息を吐いていると、長身の女子生徒は俺の存在に気付いた。
「んあ? 誰だ? お前。見ない顔だな」
「え? あ、ああ。今日体験で授業を受けてる天上優夜です」
「おお? 体験? なんだかよく分からねぇけど、よろしくな! アタシは不知火灯だ! つか、アタシら同い年なんだし、敬語なんて必要ねぇよ! 名前も不知火だろうが灯だろうが、好きに呼べ!」
長身の女子生徒――――
あまりにも怒涛の展開にたじろいでいると、氷堂さんは静かに告げる。
「……灯。ご飯食べに行くんじゃないの?」
「ん? あ、そーだった! おら、とっとと行こうぜ!」
すると、灯は氷堂さんを置いて教室の入り口まで行ってしまった。
「まったく……優夜。ごめんね」
「え? あ、気にしないでください」
「ん。……後、灯も言ってたけど、敬語じゃなくていい。名前も雪音で大丈夫。私も優夜って呼ぶから」
「そ、それなら……」
氷堂さん――――じゃなくて、雪音にそう言われた俺は頷いた。
「おーい、早く来いよぉ!」
「……はぁ。じゃあね」
入り口で待ちきれないといった様子で呼んでくる灯に、雪音はため息を吐くと灯の下へと向かっていくのだった。
灯と雪音がいなくなったことで一気に周りが静かになった。
しかし、それはほんの一瞬の出来事だったのだ。
何故なら――――。
「ねぇねぇねぇ! 聞きたいことがあるんだけどさっ!」
「どこの高校に通ってたんだ?」
「何か習い事してる?」
「あ、部活はどうするの?」
「ねぇねぇ! 彼女いる!?」
「もしかして芸能人だったりしない?」
「あ、え、その……」
――――絶賛、質問攻めにあうことになったからだ。
雪音たちが離れた後、待ってましたと言わんばかりにクラスの生徒たちが一気に押し寄せてきたのだ。
しかも、純粋な好奇心からの質問は今まで体験したことのないもので、俺もなんて反応すればいいのか困っていた。
……やっぱり、体験生だけど編入生とか転校生は気になる対象なんだなぁ。
嫌ではないが、どうすればいいか分からず困惑していると、一人の男子生徒が宥めてくれた。
「おいおい、体験生が困ってるじゃねぇか! 昼飯もまだだろうし、取りあえず落ち着こうぜ?」
その男子生徒は、茶色に染めた短めの髪に、人懐っこい笑みを浮かべたイケメンだった。前撮影のときにやって来た男性モデルや、俺の弟より断然イケメンだぞ。
髪を染めているのに、不良といった印象を受けず、それどころか爽やかなスポーツマンといった印象を、その男子生徒から受けた。
男子生徒が声をかけたことで、質問をしてきたみんなが、謝罪してくる。
「あ、ごめんね!」
「悪ぃ、気が利かなかったわ」
「放課後にでもまた話を聞かせてね!」
「あ、うん」
皆は、謝罪をするとそれぞれが昼食の為に移動を始めた。
それを眺めていると、男子生徒が声をかけてくる。
「ごめんな。俺も含めて、お前さんに興味があるんだわ」
「え? あ、ううん。ありがとう! えっと……」
「俺は
男子生徒――――亮はそう言うと、爽やかに笑った。
うわぁ……笑顔が眩しい……。
思わず目を細めていると、亮は不思議そうに首を傾げた。
「ん? どうした?」
「いや……眩しいなって……」
「え? 何だよ、変なこと言うなぁ」
亮はさらに眩しい笑顔を浮かべた。
うん、目が潰れそう。
「あ、そうだ。優夜はこの学校の食堂とか知らねぇだろ? よかったら一緒に行かないか?」
「え、いいの?」
「おう、断るわけねぇだろ? 行こうぜ!」
何だ、このイケメン。惚れる。惚れないけど。
「それじゃあお言葉に甘えて……」
「うし! っと、他にも友達呼んでいいか?」
「大丈夫だよ」
俺がそう返すと、亮はその友達を呼んできた。
「ぼ、僕は
そういって連れてこられたのは、メガネをかけたどこか気弱そうな男子生徒だった。
……うん、なんだか近しいモノを感じるぞ。
しかし、なんだか妙な組み合わせだな……亮の友だちって言うから、スポーツマン系の子が来ると思っていたんだが、慎吾君はどちらかと言えばインドアな印象を受ける。
そんな疑問を抱いていたが、その謎はすぐに解けた。
「なぁ、慎吾! 昨日の『超重機神ゴッドロボ』見たか!?」
「み、見たよ」
「そうか!? 最高に熱かったよなぁ! なぁ、他にも面白いアニメとか特撮があったら教えてくれよ!」
「う、うん。もちろん……!」
どうやら亮は慎吾君からオススメのアニメとかを教えてもらっていたらしい。
なんていうか……イケメンでサブカルチャーにも強いって……もうね。いいと思います。
思わず遠い目をしていると、亮は俺にも話を振って来た。
「あ、優夜はアニメとか見るのか? 俺は最近見始めたんだけど、スゲェ面白いんだよ!」
……亮はいい子だね。
この短い間で、それを実感させられたのだった。
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