第28話
翌日。
昨日と同じでナイトに留守番を頼んだ後、俺は新しい『王星学園』の制服に身を包み、荷物を持って家に出た。
実は以前の高校より近くにあるため、余裕を持って登校する事が出来るのだ。本当に至れり尽くせりだな。
ただ制服は受け取ったものの、まだ教科書や体操服などは用意できていないそうなので、明日受け取るようになっている。
それまでは隣の人に教科書を見せてもらい、体育は見学だな。
そんなことを考えながら登校していると、『王星学園』の制服の生徒がチラホラと見え始めた。
「ね、ねえ、あれ……」
「昨日噂になってた人!?」
「ちょっと……めちゃくちゃイケメンじゃない!?」
「すげぇ……どこのモデルだよ……」
「いや、あんなイケメンモデル見たことねぇぞ?」
うーん……視線だけは妙に集めてるみたいだな。似合ってないのかね?
ちょっと心配になりながらも学園に着くと、まずは学園長室にいる司さんに挨拶しに行った。
すると昨日と同じように柔らかく、優しい笑顔で俺を出迎えてくれる。
「やあ、昨日ぶりだね。うんうん、似合ってるじゃないか」
「そ、そうですか? なんだか俺への視線が多かったので、てっきり似合ってないのかと……」
「うむ……君は自分に自信を持つことから始めた方がいいかもしれないね」
「え?」
「いや、何でもないよ。それより、今日からこの学園で生活してもらうわけだが……昨日言った通り、明日にならないと教科書と体操服は用意できないんだ。すまないね」
「いえ! 大丈夫です」
「そう言ってもらえると助かるよ。その代わりと言っては何だが、明日の朝には用意しておこう」
「はい、ありがとうございます」
必要な会話を済ませると、司さんと俺は少しだけ雑談をした。
そしてそろそろ教室に向かわなきゃいけない時間が来ると、最後に司さんはこういう。
「もし困ったことがあれば遠慮なく私に言いなさい。ただ、私が学園にいない場合もあるだろうから、そのときは娘の佳織に言ってくれ。話は通してあるから、大丈夫だよ」
「本当に何から何まで……ありがとうございます」
俺は感謝の気持ちでいっぱいになりながら頭を下げた。
「気にしないで。さ、そろそろ向かいなさい。これから君の新しい学園生活が待っているんだから」
「はいっ!」
俺はもう一度一礼して、これから過ごす教室に向かうのだった。
***
「――――さて、改めてこのクラスで過ごすことになった天上優夜だ。昨日ぶりだが、みんな仲良くしろよ?」
『はい!』
俺のクラスは、昨日と同じクラスで亮や慎吾君は俺を見て笑顔で手を振ってくれた。
……凄い。俺をちゃんと受け入れてくれる人がいるなんて……。
今までとの扱いの差に俺は泣きそうになりながらも簡単な挨拶をすませ、昨日と同じ席についた。
そして隣の席の雪音に改めて挨拶をする。
「雪音、改めてよろしくね。それと、申しわけないんだけど……明日にならないと教科書が用意できないらしくって、今日だけ見せてもらえないかな?」
「……ん、よろしく。それと、教科書もいいよ」
「ありがとう!」
本当に雪音はいい人だ。今度何かの機会にお礼をしないとね。
そんな風に考えながら、俺は新しいクラスで授業を受け始めるのだった。
***
「スゲェ……」
午後の授業。
昼食を亮たちと食べ終えた後の授業は体育の時間だった。それも二限連続だ。
お昼のあとって妙に眠くなるから、こういう体を動かす授業はありがたい。
でも、今日の俺は体操服がないため参加できず、見学していた。
そんな俺の目の前では、亮がサッカーボールをキープしたまま、何人もの生徒を抜き去っていくシーンが繰り広げられていた。ちなみに、慎吾君は亮と同じチームらしく、ゴールの前で佇んでいる。うんうん、俺も運動が苦手だったからそのポジションにいたくなるの分かるなぁ。
「ちょっ! 誰か亮を止めろおおおっ!」
「いや、すでに三人でマークしてるんだけど!?」
「三人でダメなら五人でかかれっ!」
すると五人もの生徒が亮一人に押し寄せるのだが、亮はその光景を見てニヤリと笑う。
「それは悪手だぜ? そらっ」
「「「げええええっ!?」」」
何と亮はボールをかかとで蹴り上げると、そのまま五人の頭上を通過させ、本人もそのボールを追って五人の間をスルリと抜けていった。
「いや……慎吾君が亮はすごいって言ってたけど……こりゃ冗談抜きですごいわ……」
「だよねー。仲間になった男子は一安心だろうけど、敵になった男子はもう必死だよー」
「え?」
思わずといった様子で呟くと、それに声が返って来た。
驚いて声の方を向くと、そこにはポニーテールの活発そうな女の子がいた。
「あ、驚かせちゃった?」
「少し……えっと……?」
同じクラスの人っていうのは分かるんだけど、名前がまだ憶えられていない。
それが相手にも伝わったようで、女の子は申し訳なさそうにしながら言った。
「ごめんごめん、名前が分からないか……私は
「こっちこそ、よろしく。風間さん」
俺がそう答えると、風間さんは苦笑いした。
「楓でいいよ! 私も優夜君って呼ぶし」
「そ、そうか? 分かった」
どうやら俺は緊張のし過ぎらしい。ダセェな、おい。
内心そう思っていると、他の女子たちも近くにやって来て、男子たちを応援していた。
「頑張れー」
「いけいけー!」
「ほら、もっと走って!」
その光景に少し驚きながらも俺は楓に訊いた。
「女子は休憩中なの?」
「うん。だから女子はだいたいこうして男子の方を見に来るんだー。やっぱり男子の方は私たちと違って迫力があるし!」
「なるほど……」
楓の言葉に納得して再びグラウンドに視線を移すと、女子がやって来たことで男子たちの士気が爆上がりした。分かりやすいな、おい。
「おっしゃあああああっ! 見てろよ! 俺の華麗な足捌きを……!」
「いやいや、俺を見るべきだ!」
「それも大事だけどよ? そんなことより……」
『亮を絶対止めろッ!』
するとさっきとは違い、ゴールキーパー以外の全員が亮を止めに向かっていった。
「うおっ!? な、なんだなんだ!?」
「そのボールを寄越せええええええ!」
「いや、奪うのは俺だああああああ!」
「どけどけ! 邪魔だああああああ!」
修羅の如く押し寄せる男子陣に、亮は顔を引きつらせていた。
「さ、さすがにこの数は捌けねぇ……!」
『もらったああああああああああああああ!』
敵チームが雄たけびを上げながら亮に突っ込んで行くと、最後に亮は笑った。
「おいおい……コイツは団体戦だぜ?」
『へ!?』
亮は自分がキープしていたボールを仲間の一人にパスした。
『ああああああああ!?』
「お前らアホだろ……」
キーパー以外、全員亮のもとに向かっていたため、敵のゴールまではがら空きだ。
ボールを受け取った生徒は、サラサラの金髪のイケメンだった。
「フフフ……この僕がボールを受け取ったんだ。もはや君たちに勝ち目はない! 見ろ、僕の絶技を……!」
彼は髪をかき上げた後、すごい力をためてボールを蹴った。――――こちらに。
「へっ!?」
「おい、バカ野郎! どこ蹴ってやがるっ!」
亮が思わずそう言うが、彼は呆然としていた。
しかしそんな間にもボールはすごいスピードでこちらに迫ってきている。どんだけ力を込めたんだ……。
それはともかく、突然の事態に近くにいた楓を含む女子たちは動く事が出来ず、何人かは悲鳴をあげてその場にうずくまってしまった。
それを見た俺の体は、気付けば自然と動いていた。
俺はボールの直線コースにいた楓を庇うように立つと、そのままと飛んできたボールめがけてジャンピングボレーを決めた。
飛んでるボールにもかかわらず、俺の蹴りは綺麗に当たり、本来亮たちが狙うゴール一直線に向かっていった。
そして――――。
「う、ウソだろ……」
「ご、ゴール……」
「マジかよ……」
キーパーが反応できないような速度で飛んでいったボールは、綺麗にゴールした。
俺は難なく着地すると、後ろで呆然としている楓に声をかける。
「大丈夫?」
「……へ!? え、あ、う……うん! 大丈夫!」
「そうか。それならよかった」
いや、本当によかった。
異世界に行ってから、劇的に身体能力が向上したおかげで女子たちに被害が行くことなく納めることができた。
そのことに安堵し、思わず笑みを浮かべると楓は顔を赤くしていたが、すぐに顔を振って何かを思い出したように俺に訊いてきた。
「……ハッ!? ゆ、優夜君! それよりも今の動き何!? あんな動き漫画しか見たことないよ!?」
「え? う、うーん……何って言われても……やったらできたとしか……」
最近、異世界で体の動かし方を学んでいる俺は、自分が想像する動きを再現できるようになっていた。まあかなり苦労したんだけどな。体は動くのに、俺の意識が追い付かなかったりとな。
そんな会話をしていると、他の女子たちも俺にお礼を言ってくれる。
すると俺たちの下に亮と金髪の男子がやって来た。
「悪い、大丈夫だったか?」
「うん、優夜君が守ってくれたからね」
「それなら良かった。てか、優夜本当にすごかったぞ。お前、何か部活入ってみてもいいんじゃないか?」
「えっ!? 優夜君、帰宅部だったの!?」
「ま、まあ……」
今までクソデブで動くのがやっとでしたから。
会話を続ける俺たちを静かに見つめていた金髪の男子は、その場で綺麗な土下座をした。
「すみませんでしたああああああっ!」
あまりにも綺麗な土下座に一瞬見惚れると、すぐに楓が声をかけた。
「いいよいいよ! この通りケガもしなかったんだし!」
「おお……許してくれるのか……! 僕は一生貴女に尽くします……!」
「え……それは嫌だなぁ……」
「ガッテム!」
なんだかおもしろい子だな、彼。
以前の高校では見たことのないタイプの生徒だが、普通にいい子そうだった。
そんな彼は立ち上がると、俺にも礼を言ってきた。
「さて……君には助けられたね。ありがとう」
「うん。まあ俺が対処できるようでよかったよ。次は気を付けてね」
「善処しますっ!」
そういうと、彼は思い出したように俺の自己紹介をした。
「あ、まだ名前を覚えてないだろうから、改めて。僕は一ノ
「いや、それ初耳なんだが……」
亮が苦笑い気味にそうツッコんだ。
「この通り、晶はクセはあるが悪いヤツじゃねぇから。まあこのノリに慣れるまでしばらく時間はかかるかもしれねぇけどよ」
「何を言う。僕はいたって普通だよ? ほら、この通り!」
そう言って彼は髪をかき上げた。普通ならキザに見える行動なのかもしれないが、晶にはよく似合っている。すごいな。
確かにクセは強いけどいい子そうだし……本当にこの学園は面白いな。前の高校じゃ考えられない。
俺は改めてそう思うのだった。
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