第30話
昨日は結局お風呂を手に入れたことで早めに切り上げてしまったが、今日はかなり奥地まで来ていた。
……だってさ? お風呂だよ? 日本人なら分からない? こう……ねぇ?
まだ未成年なのに、昔の人とかが露天風呂で熱燗を飲みたくなる気分も分かる気がした。だって気持ちよすぎるんだもの。
それはともかく、昨日以上に力を入れて探索を続けた結果、また新たな敵と会敵していた。
「ナイト、そっちに行ったぞ!」
「ウォン!」
「シャアアアアア!」
今俺たちが戦ってる敵は、まるでヤマアラシのような長い針を体中に纏ったアルマジロっぽい魔物だった。もしくはハリネズミだろうが、でもアルマジロに針を生やした姿ってのが一番しっくりくる表現だと思う。
ちなみに、ステータスはこんな感じである。
【ニードル・ローラー】
レベル:610
魔力:3000
攻撃力:20000
防御力:17000
俊敏力:25000
知力:8000
運:2000
昨日戦ったクリスタル・ディアーよりレベルは低いモノの、ステータスはどれも引けを取らない。
何より厄介なのが、コイツは体を丸めて、高速回転しながら弾丸のような速度で突撃してくるのだ。
体中から生えた針もすさまじい硬度を誇っており、【絶槍】や【全剣】と打ち合うことさえできている。
……いや、少し違うな。
コイツ、自分の針で【全剣】と打ち合う時は必ず平らな剣身を狙うから、斬る事が出来ねぇ。
それと同じように、【絶槍】も穂先が対象を捉えれば必ず貫く事が出来るものの、穂先を綺麗に流すように打ち払われれば投げて戻って来る槍でしかない。
それでも十分強いんだが、今まで一撃必殺だった【絶槍】の投擲も同じように穂先を上手く流すように打ち払われるのだ。
しかも打ち払われたとはいえ、当たったことに変わりはないから手元に【絶槍】は戻って来るし……。
やはりS級の魔物クラスになると、不意を突かなきゃ【絶槍】の投擲も効かないのだろう。キング・オークは運が良かったんだ。
実際、クリスタル・ディアーも同じように【絶槍】と打ち合えたのも同じように対処していたからだろう。
そんなS級の魔物が持つ針に刺されればどうなるかなんて考えたくもなかった。
高速回転で突撃して来たニードル・ローラーをナイトは避けると、ニードル・ローラーは先にあった木にぶつかる瞬間に体を通常状態に戻し、その勢いのまま木に着地すると木を足場にして加速しながら今度は俺の方へ飛んできた。
「キシャアアアアアア!」
「うッ!?」
ギリギリ躱すことに成功するが、かなり深めに頬を斬られた。
「痛ってぇ……」
「わふ?」
警戒しながらニードル・ローラーから距離をとると、ナイトが駆け寄って来て『大丈夫?』と言わんばかりにこっちを見上げた。
「ああ、大丈夫だよ。それより、相手も結構動き回ったせいか疲労が出てきたみたいだな」
「ワン!」
俺の言葉通り、ニードル・ローラーは最初のときより動きが鈍くなっていた。俺たちも多少疲れているんだが、二対一というアドバンテージは本当に大きい。
「そろそろ決着がつくかもな。気を引き締めよう」
「ワンっ!」
「……シャアアアアア!」
「そら、また来たぞ……!」
態勢を整えたニードル・ローラーが、再び俺たちめがけて突撃して来た。
ナイトは素早くその場を離れるが、俺はギリギリまでニードル・ローラーを引き付けた。
……実はさっきのニードル・ローラーの動きを見て、実行に移したい作戦が出来たのだ。
俺は早く避けたい気持ちを必死で押し殺し、タイミングを見計らった。
そして――――。
「今だッ!」
「キシャア!?」
ギリギリのところで横跳びに避けると、ニードル・ローラーは減速することもできず、俺の背後にあった木に激突した。
ニードル・ローラー自体の防御力がかなり高いため、こうして木に激突した程度じゃダメージにもならないだろう。
だが、俺の目的はそれじゃない。
「キシャアアアア!?」
「よっしゃあ!」
ニードル・ローラーは勢いよく木にぶつかったことで、自慢の鋭い針が木に突き刺さり、抜け出せなくなっていた。
手足を必死にバタつかせるが、アルマジロ型の魔物でなおかつ針もかなり長いので、空中に浮いた状態で何もする事が出来ない。
これ、針を噴出させる能力があればもっと倒すのが大変だったんだろうけど、その様子はなさそうなので一安心だ。
「ハアッ!」
「キシャアアアアアア!」
動きが止まっているのであれば、【全剣】で斬る事が出来る。もちろんどんなに硬い装甲を持っていようが関係ない。
俺はすぐに【全剣】を手に出現させると、≪弱点看破≫のスキルを発動させ、弱点部位めがけて上段から一気に振り下ろした。例え斬る事が出来ても一撃で殺せなかったら意味がないからな。
俺の振り下ろした【全剣】は綺麗に弱点部位に入り、そのまま何の抵抗も感じることなく斬りつけた。
そしてニードル・ローラーは叫び声をあげると、そのまま光の粒子となって消えていった。
「な、何とか倒せたな……」
「わふ……」
「ありがとう、ナイト」
近寄って来たナイトを抱きかかえると、ナイトは俺の頬の傷を舐めてくれた。
俺はすぐに『完治草のジュース』を取り出すと、一息に飲み干す。まだまだストックはあるからね。
戦闘後の体にジュースは染みわたり、一気に活力が戻って来た。
「ナイトも飲んどきな」
「ワン!」
ナイトにも同じようにジュースを与えていると、少し久しぶりにメッセージが出現した。
『レベルが上がりました。スキル【心身統一】、【精神強化】を習得しました』
「レベルも上がって、スキルも手に入れたぞ!」
「ワン!」
「え? ナイトも上がったの?」
「ワンワン!」
ナイトがそう吠えるので鑑定してみると、本当にレベルが上がっていた。おお、やったぜ!
レベルアップのBPを適当に割り振った後、俺は改めて自分のステータスも見返した。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:240
魔力:6050
攻撃力:8050
防御力:8050
俊敏力:8050
知力:5450
運:8750
BP:0
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:8≫≪気配察知≫≪速読≫≪料理:7≫≪地図≫≪見切り≫≪弱点看破≫≪同化≫≪テイム≫≪心身統一≫≪精神強化≫
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
いつの間にか≪真武術≫と≪料理≫のレベルが上がってるぞ!
料理は自分の手料理なだけあって違いは分からないけど、真武術は何となく以前より攻撃するときのキレが増したように感じていたのだ。
ひとまず既存スキルの確認はここまでにして、新スキルを確認しよう。
『心身統一』……精神と身体を統一させ、より自身の体を制御できるようになる。
『精神強化』……恐怖状態などの精神攻撃への耐性が上昇する。
「おお! なんかどれも有用そうだ」
心身統一は、より一層俺の思い描いたとおりに体を動かせるようになるって認識でいいのだろう。
そして精神強化!
さっきもニードル・ローラーが迫って来るときすごく怖かったが、身を竦ませることなく動く事が出来たのも、このスキルを習得するだけの下地が出来ていたからなのだろう。
「よし……この調子でレベル上げを頑張るか」
「ワン!」
「あ、ナイトの方も確認しような」
「わふ」
ナイトを撫でながらナイトを鑑定した。
その結果がこれだ。
【ナイト】
種族名:ブラック・フェンリル
レベル:510
魔力:10100
攻撃力:10300
防御力:10300
俊敏力:15500
知力:10100
運:10000
備考:天上優夜の配下。
なんていうか、俺と似たようなステータスの上がり方だ。
ただ俺と違うのはBPがないのと、運が上昇していないことだろう。今回だけ上昇しなかっただけかもしれないが、運っていうのはレベルが上がったところでどうこうなりそうなモノでもないしなぁ。
とはいえ、ナイトは俊敏力を中心にバランスよく上昇してるし、ステータス的にはS級の魔物にも引けをとってない。
ナイトがいるおかげで俺がS級の魔物と張り合えてると言っても過言ではないのだ。
ステータス面では俺は圧倒的にS級の魔物に負けているし、賢者さんの置いて行ったヤバすぎる武器とナイトに助けられてる。
まあそのヤバすぎる武器にS級の魔物は対応してきたわけで、それを考えると本当にナイトの存在は大きい。俺の精神的な面でもな。
……早くレベルを上げてS級の魔物でも余裕で相手に出来るくらいになりたいな。
そんなことを考えながら、俺はドロップアイテムを調べていった。
『
「マジで物騒だな……」
ドロップした素材はこれだけだったが、やはりニードル・ローラーの針はかなり危険なモノだったようだ。
てか、アルマジロって犰狳って書くのね……いや、あれがアルマジロである確証もないんだけど……もし違うならこの犰狳ってのは一体何の生物なんだ?
思わぬ表記に何の生物か考えながら魔石も回収した。魔石はやはりというか、S級のモノだ。
そして――――。
「……どう見ても歯ブラシだよな?」
「わふ」
俺の手元には黒色の歯ブラシが一本握られていた。
恐らくニードル・ローラーのレアドロップアイテムだろう。
……でもさ、仮にこれがレアドロップアイテムだとして、歯ブラシはないんじゃない? だって鋼鉄すら貫く針ですよ? それで歯を磨いたら口の中ズタズタじゃん? いや、この歯ブラシのブラシ部分があの針だとは思わないけどさ。思いたくもないね!
一つの不安を抱えながらも鑑定すると、こう表示された。
『極み歯ブラシ』……ニードル・ローラーから手に入る、レアドロップアイテム。このアイテムで歯を磨けば口臭のもととなる菌を完全除去し、アイボリーからホワイトへ歯を大変身させる。歯垢や歯石も逃さず除去でき、使用者に歯を磨くのが心地よく、そして楽しくさせる。
「メチャクチャ有能!」
何だ、この日用品シリーズの有用性! ちょっとおかしくない!?
俺個人は大変助かるけど、レアドロップアイテムってこんなに日用品ばっかなの!?
……ゲームとかしたことないけど、これが普通なのか? 俺が固定概念としてレアドロップアイテムは武器や防具じゃなきゃダメって勝手に思い込んでたのか?
「まあいいや……取りあえず、もう少し奥に行ってみようか」
「……」
「ナイト?」
ドロップアイテムを回収してナイトに声をかけると、ナイトはある方向を黙って見つめていた。
そして俺の方を振り返って来る。
「わふ」
「ん? 向こうに何かあるのか?」
「わふー」
恐らくナイトもよく分かっていない、勘のようなモノが働いたのだろう。
無視して奥に進むこともできるが、ナイトが初めて見せた反応だし、野生で生きてきたナイトの勘が何かあると告げているのだ。
俺なんかが勘で何かある! っていうより信用度は高いだろう。
俺自身もナイトが感じた『ナニカ』が気になったため、ナイトを先頭にして後ろをついて行く。
魔物に遭遇することもなくどんどん先に進むと、やがてとある洞窟に辿り着いた。
「こ、こんなところに洞窟が……」
「ワン!」
どうやらナイトが感じ取ったのはこの洞窟ではなく、その奥にある『ナニカ』らしい。
今まで森だったこともあって、こうしていきなり現れた洞窟に最大限の警戒をしながら俺たちは足を踏み入れた。
罠とか見破れないかもしれないが、それでも慎重に警戒に進むのは無駄ではないだろう。
壁や地面をむやみに触ることなく進んでいく。
すると、先が暗くなってきたと思った瞬間、壁にかけられた松明が光り始めた。
「うおっ!? 何で急に火がついたんだ!?」
「わふ?」
凄く驚いた俺とは対照的に、ナイトは平然としている。……取りあえずナイトが警戒してないし危険はないのか。
それよりも、壁に松明があるってことは……人の手が入ってるってことだ。
より一層この洞窟が何なのか分からなくなった俺だが、しばらく進んでいくと最奥へとたどり着いてしまった。
最奥は少し広めの空間が広がっており、周囲には囲むように大量の松明が掲げられている。
「ここは……」
「ワン!」
「ナイト!?」
不意にナイトが駆け出したので、慌てて追いかける。
すると――――。
「っ!?」
壁にもたれかかるようにローブを纏った骸骨が座っていた。
一瞬魔物か? とも考えたが、まったく動く気配もなく完全に死んでいるようだ。
……まさか白骨死体を見ることになるなんて……これ、『精神強化』のスキルが無かったら恐怖でチビってたんじゃないか?
そんな風に思っていると、ナイトが骸骨の前に置いてある何かを足でテシテシと叩いた。
「ワン!」
「え?」
俺はナイトに近づき、ナイトの足元に落ちているモノを見ると……それは一冊の分厚い本だった。
「本?」
何の本だろう?
俺は本を手に取ると表紙には何も題名などは書かれていない。
仕方がないので開いて確認すると――――。
『ここに到達した者へ ~賢者~』
――――こう書かれているのだった。
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