第78話

 翌日。

 ヴィオラさんからご両親の特徴を聞いた後、父親がスミスさん、母親がレミーさんということも教えてもらい、さらにヴィオラさんは花人はなびとという種族の中の、スミレ族というかなり珍しい種類だということも教えてもらえた。

 ただ、この情報はヴィオラさん自身も口にするかとても迷っていたことからも、それだけ希少で、人攫いが狙った理由が分かる。

 なので、できればこの情報は最後の手段として使いたいところだ。

 【大魔境】にいる以上、誰かから追われたりする心配はないと思うが、用心しておいた方がいい。

 まだ信用しきれていないはずの俺に、そこまで教えてくれたヴィオラさんのためにも、早く見つけてあげたい。

 ちなみに昨日はそのまま賢者さんの家で寝てもらったわけだが、一応地球と繋がる扉は開けないように言ってある。

 その向こう側に別の世界があるって言っても信じられないだろうし、何より俺が許可しない限りは通れないはずだから、気にしなくてもいいと思うが、一応ね。

 本当は空夜さんのためにというか、テレビでも買いに行こうと思ってたんだが、早くヴィオラさんの両親を見つけてあげたいし、空夜さんも気にしなくていいと言ってくれたのだ。

 そんなわけで、賢者さんの家には空夜さんとヴィオラさんの二人で留守番をしてもらいつつ、俺とナイト、アカツキは異世界の街へと向かった。

 転移魔法で街まで移動し、早速情報を集めるために冒険者ギルドに向かうと、そこには【明星の旅団】の姿もあった。


「あ、みんな!」

「ん? おお、ユウヤか。って、昨日帰ったんじゃないのか?」

「そうなんだけど、ちょっと用事があってね」

「用事?」

「うん。人を探してて……その人は冒険者らしいから、もしよければ皆にも訊きたいんだけど、今少し空いてる?」

「ああ、いいぞ。実は昨日、人攫いの連中がアッサリ捕まってな……なんでも連中は【大魔境】に仮の拠点を作るなんて馬鹿なことをしたもんで、ユウヤも昨日帰ってたから、大丈夫かって心配してたんだ」


 やっぱり、昨日【大魔境】の入り口ですれ違った人たちは人攫いだったようだ。

 ただ、グレイドが言うにはもう捕まったらしいしが、他にも同じようなことをする人たちがいるかもしれないし、気を付けよう。


「そうなんだ……ありがとう。この通り無事だよ」

「そうみたいだな。とにかく、そう言う事情もあって、今んところ暇なのさ」

「本当ならS級昇格試験の後に人攫いの連中を捕まえるはずだったんだが、ヤツらからこの街に逃げ込んできたからな。結局そっちの対応に追われて、ひとまずS級昇格試験も延期になったんだ」

「そっか……」


 この一日の間で随分色々あったようだが、ひとまず手が空いているということで、彼らにスミスとレミーという名前の、夫婦の冒険者がいないか訊ねてみた。

 すると……。


「スミスとレミーっていやぁ……あの二人じゃねぇか?」

「そうだね。たぶん、皆同じ人が思い浮かんでるんじゃないかな?」


 なんと、いきなり情報が見つかるなんて!


「その人たちの特徴とか教えてくれない?」

「そうね……私たちが知ってるその名前の冒険者って言えば、【麗剣れいけん】と【麗魔れいま】の二人ね」

「麗剣? 麗魔?」


 フィアンナの言葉に首をかしげると、シルディが捕捉してくれる。


「ああ。その二人の異名だ。夫婦で活動する冒険者というのはいないわけじゃないが珍しいし、何より彼らは誰もが目を惹く美しさでね。その上S級冒険者だから、知らない人の方が少ないだろう」


 びっくりするくらいヴィオラさんの言ってた特徴と一致するな……。

 というか、ヴィオラさんのご両親ってS級冒険者なのか。まあそれくらい実力がないと、ヴィオラさんのために土地を転々とするのも難しいんだろう。

 ただ、万が一人違いだったら困るので、他にもヴィオラさんから聞いていた二人の髪色だったり分かりやすい特徴も訊いていく。

 すると、やはりグレイドたちが知っている二人こそ、ヴィオラさんのご両親で間違いないようだった。


「話を聞いてた感じ、その二人が俺の探してる人で間違いないみたいだな……」

「それならよかったんだが……なんだ? その二人がどうかしたのか?」

「えっと……詳しい説明はまだちょっとできないんだけど、できればその二人と会いたいんだ」


 本当はヴィオラさんのことも説明したうえで協力してもらう方がいいんだろうけど、人攫いの件がある以上、なるべくヴィオラさんのことは隠しておくべきだろう。

 俺の言葉に、グレイド達は顔を見合わせると、すこし困った表情を浮かべた。


「うーん……できれば力になってやりたかったが、残念ながら俺たちはその二人と接点がねぇからなぁ……」

「そもそもその二人、冒険者の中でもいろんな場所を転々とすることで有名だしね」

「……あ、でも、何か最近聞いた話だと、その二人がとんでもなく殺気立ってて、まともに依頼をすることもできないって……」


 そうだろうなぁ……自分の子供が攫われてるわけだし、親としては気が気じゃないはずだ。

 だからこそ、何とかして二人とコンタクトを取りたいんだが……。

 色々考えていると、シルディがふと思いついた様子で口を開く。


「それなら、ギルドに頼めばいいんじゃないか?」

「え?」

「ユウヤがどんな理由でその二人と会いたいのか分からないが、ギルドに依頼するために直接会いたいって言えば、その場を設けるための手伝いはしてくれるはずだ」

「なるほど……確かにそれはいい考えかもしれないね。まあ手数料や依頼料がとられると思うけど、お金を払えばその分ギルドもちゃんと動いてくれるだろうし……」


 ダンもシルディの言葉に頷いていた後、苦笑いを浮かべた。


「ただ、その依頼を向こうが聞いてくれるかだよね」

「何でか知らないけど、その二人はかなりピリピリしてるみたいだし、難しいかもしれないわね」

「……いや、たぶん大丈夫かもしれない。すごく助かった、ありがとう!」


 フィアンナたちの言葉を参考にしつつ、色々考えた俺は、シルディの提案を受け、早速冒険者ギルドに依頼することにした。

 その際、ダンの言う通り依頼料や手数料を支払うことになったが、S級冒険者に依頼するというだけあり、かなりの金額だった。

 ただ、商業ギルドで魔法具や魔法文字を売ったお金があったので、何とかなった。

 よかった……魔法具関連の収入がなかったら、お金が全然足りてなかったよ。

 それよりも、S級冒険者に依頼してなお余ってるお金の量に驚いた方がいいんだろうか?

 とにかく、グレイドたちのおかげで、早くもヴィオラさんのご両親らしき人物を見つけることができてよかった。

 依頼に関しても、俺が依頼するために直接会いたいってことだけじゃなく、冒険者ギルドには俺が二人が知りたがってる情報を知ってますと伝えてほしいと言ってある。

 ……これで来てくれるかは分からないが、今の俺にできることはこれくらいだろうか?

 他に何か思い浮かべばそれもしたいところだが……。


「ひとまずはこれでいいとして、帰る前に一度図書館に寄ってもいい?」

「わふ」

「ふご」


 ナイトとアカツキにそう訊くと、二人とも元気よく返事をしてくれた。

 図書館に何の用事がと思うかもしれないが、ちょっとヴィオラさんの種族に関する何かないのか調べてみようと思ったのだ。

 というのも、今は【大魔境】にいるので吸収する魔力という点の心配がないが、もしご両親と再会した時はそのまま【大魔境】を去るはずだ。なんせ【大魔境】は危険すぎるからね……。

 【大魔境】の周辺に同じような魔力が豊富な土地があればいいが、そうじゃなければ移動中辛い思いをするかもしれない。

 ヴィオラさんは大人になればそれが落ち着くって話していたが、何か条件みたいなものがあるのかどうか調べておこうと思ったのだ。


「まあ年齢的な制限であれば、どうしようもないんだけどね……」

「わふ?」

「あ、何でもないよ。じゃあ早速行こうか」


 俺はナイトたちを連れて、図書館へと向かうのだった。

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