第10話
ゴブリン・エリートとの戦闘から、すでに5日経った。
この5日の間にだいぶ探索も進み、今はあの不思議な家が見えない場所まで探索していた。もちろん、帰り道が分かるように目印をつけていたんだが、途中で便利なスキルを手に入れてからはそれも必要なくなった。
5日の間に起こったことと言えば、先に述べた新たなスキルが何個か手に入ったことと、新しい魔物と戦闘したこと、戦闘したことで少しずつ体の動かし方といった、戦闘技術が上昇したこと、そして大金が手に入ったことくらいだろう。
色々言いたいことはあるが、取りあえず現在のステータスはこんな感じだ。
【天上優夜】
職業:なし
レベル:200
魔力:5000
攻撃力:7000
防御力:7000
俊敏力:7000
知力:4500
運:7500
BP:0
スキル:≪鑑定≫≪忍耐≫≪アイテムボックス≫≪言語理解≫≪真武術:4≫≪気配察知≫≪速読≫≪料理:3≫≪地図≫≪見切り≫≪弱点看破≫≪同化≫
称号:≪扉の主≫≪家の主≫≪異世界人≫≪初めて異世界を訪れた者≫
予想以上に成長して、寝ている最中に激痛を味わっていたわけだが、最近は慣れてきた……というより、あの激痛や異音が無くなったように思える。
俺の予想としては、体の構造はもう完成したんじゃないか? と思っている。これ以上改造のしようがないってことだな。
それでも、筋力とかは明らかに増えているので、完全に成長が止まったわけではないようで、あまり気にしていない。痛くなくなるのなら嬉しいくらいだしな。
新しいスキルの効果は、こんな感じである。
≪地図≫……一度訪れた場所をマッピングしていく。
≪見切り≫……相手の攻撃が避けやすくなる。
≪弱点看破≫……相手の弱点を見つけ出す。
≪同化≫……自然と同化し、気配や魔力などを消す事が出来る。
どれも有用なモノばかりで、特に≪地図≫のおかげで俺の探索はぐっと楽になったのだ。
≪見切り≫は敵が攻撃してくるタイミングのようなものがなんとなくわかるようになったし、≪弱点看破≫は相手のどこを攻撃すれば大ダメージを与えられるか分かるのだ。≪同化≫は、隠れて魔物の様子を伺い続けてたらいつの間にか習得していて、非常に便利で助かっている。
戦闘経験なんて皆無だった俺には有り難いスキルで、おかげでこんな俺でも戦う事が出来ている。
その戦闘で得たドロップアイテムは、全部換金したおかげで1000万円にもなり、アイテムボックスに入れて管理している。
俺はパソコンとか持っていないが、便利だろうし買っておきたいと思っている。
それはともかく、もう少しで高校生活が始まってしまう。
あと二週間はあるとはいえ、始まってしまうのだ。
つまり、またあの地獄のような日々が始まってしまう……。
何よりも、この未知の世界を楽しむ時間が少なくなってしまうことが俺はとても辛かった。
勉強はもちろんしていたが、それでも学校に行くことは苦痛でしかないのだ。
「はぁ……切り替えよう。せっかく楽しい場所にいるのに、学校の事なんて考えたくない……」
現実逃避だとは分かっているが、俺はいったん学校のことを頭の外に追いやった。
そして、日課になりつつある異世界の探索を始める。この日課も、高校が始まるまでだろう。
手には『絶槍』を握ってはいるが、一応他の武器だけでなく、素手での戦闘も続けていて、単純に槍の扱いが性に合っていたから使い続けてる程度のものだった。
しばらくの間森の中をさまようが、特に魔物は出てこない。
それでも、道中のヘンテコなキノコや木の実などを鑑定してはアイテムボックスに放り込んでいた。換金できるときもあれば、効果によっては家で食べたりした。
俺が換金したいものだけ換金できるから、地球に持って帰ることもできたしな。
異世界はある意味で俺にとっては食糧庫でもあった。ちなみに、『オーク・エリート』という二足歩行の豚の魔物を倒したときに手に入れた『上級豚男の肉』を食べてみたのだが、とても美味しかった。鑑定で害がないことは分かっていたからな。
そんなわけで、ドロップアイテムは、換金だけでなく、俺の食糧にもなったわけだ。おかげで外に買い物に行く必要がなくなったのは嬉しかったな。時間が惜しいし。
しばらくの間、採取などをしながら森の中を歩いていると、何やら争っている音が聞こえてきた。
「なんだ?」
短い間ではあるが、争いの音は聞いたことがなかった。
魔物同士の戦いかと思えば、剣戟の音もするし……ゴブリン・エリートが何かと戦ってるのかな?
音の方にスキル≪同化≫を発動させながら近づくと、ゴブリン・エリートの群れと、人間が戦っていた。
「クソッ! ゴブリン・エリートの群れと遭遇するなんて……!」
「ダンの回復はまだか!?」
「今してます! でも、傷が深すぎて……!」
「【大魔境】の呼び名は伊達じゃないようね……!」
人間の方は、物語の登場人物のような格好をしていた。
軽装備の女性が、ゴブリン・エリートの動きをかき乱し、重装備に大きな盾を持った男性がゴブリン・エリートの攻撃を捌き、魔女のような格好をした女性は、空中に炎を出現させ、それをゴブリン・エリートにぶつけている。
その三人の背後では、シスターのような女性が、一人の深い傷を負った男性に、柔らかな光を当てていた。
す、スゲェ! 魔法だ!
あ、いや、それどころじゃねぇな。
一人は大きい傷を負っているようだし、残りの人たちも顔に焦りが見えるから厳しい状況なんだろう。いや、一目で分かるけどさ。
とにかく、敵か味方かもわからないが、人が襲われているのを俺は黙って見てられなかった。肝が据わったのかは分からないが、おかげでじいちゃんの言葉を守る事が出来ている。
同化した状態のまま、近くのゴブリン・エリートに近づくと、俺は静かに『絶槍』を薙ぎ、首を撥ね飛ばした。
「え!?」
「な、なんだ!?」
突然、目の前でゴブリン・エリートの首が飛んだことで驚く人たちを無視して、俺は突如仲間の首が飛んで呆然としている残りのゴブリン・エリートを狙う。
「フッ……!」
「ギャ!? ギャギャギャ!」
二体目のゴブリン・エリートの体を貫いたところで、ようやく相手は我に返り、俺に襲い掛かって来た。
≪同化≫は、見つかってない状態て発動させればそのまま見つかることはないが、その状態で攻撃とかするとスキルが解けるのだ。さらに、敵の目の前で≪同化≫を発動させても効果はない。
というわけで、必然的に俺は残り全てのゴブリン・エリートを相手にしなきゃいけないわけだが……。
スキル≪見切り≫のおかげで、相手の動きがよく分かる俺は冷静にゴブリン・エリートの剣を捌き、≪弱点看破≫の効果で的確に急所を攻撃していく。
「ギャアッ!?」
「ギョッ!」
「グギャッ!?」
『絶槍』を軸に、棒高跳びの要領で跳ね上がると、そのまま飛び越えると同時に槍を薙ぎ払って、ゴブリン・エリートの首を飛ばす。
着地したところを襲い掛かって来たので、再び槍を軸に回転しながら回し蹴りをすると、その勢いのまま槍を喉に突き立てる。
背後から襲い掛かってくるヤツには、バク転の応用で脳天につま先蹴りを叩き込んだ。
「ウソ……」
「すげぇ……」
俺の動きに、襲われてた人たちは呆然としている。
数分もかからないうちにゴブリン・エリートの群れを壊滅させる事が出来た。
本当に、自分で言うことでもないけど、逞しくなったなぁ……戦闘初心者の俺が、ここまで動けるんだから。
「ふぅ……えっと……大丈夫ですか?」
一息ついた俺は、今さらこの世界の人間と初めて会話するという事実に緊張した。
すると、呆然としていた軽装備の女性が我に返り、俺の言葉に応えた。
「え、あ、ああ! その……助かった」
軽装備の女性は、女性にしては背が高く、近くで見るとモデルのような容姿をしていた。
右肩に銀色の肩当てのある黒色のロングコートに、首元の広い白色のシャツ、そしてその長い脚がよく分かる黒色のパンツにロングブーツ。
綺麗な紫色の髪は腰のあたりまで伸びていて、詳しくは知らないけどウルフカット? みたいな感じだった。
まあ髪色と同じアメジストのような鋭い瞳とか、確かにワイルドさを感じるけどさ。
とにかく、すごい綺麗な人だった。
「間に合ってよかったです。それと、そちらの傷ついてる人にこれを飲ませてください」
「? これは?」
「回復薬……と言えるのか分かりませんが、取りあえず傷を癒すものです」
綺麗な人すぎて、逆に現実味を感じず冷静に会話する事が出来た。
そしてすぐに負傷してる人に飲ませてあげるように、とある液体の入ったペットボトルを渡した。
「な、なんだ? この素材は……」
ペットボトルを受け取った女性は、その素材に驚きながらもシスターっぽい女性に持っていく。
その間、重装備の男性と、魔女のような格好をした女性が、俺の方を警戒していた。そりゃそうだよな。メチャクチャ怪しいもん、俺。
シスターらしき女性は、俺の渡したペットボトルを受け取り、何やら魔法のようなもので中の液体を調べ始めた。
「毒……ではないみたいですね。ではありがたくいただきます」
どうやら、毒だと思われてたみたいだ。うん、だから俺怪しいもんな。俺も同じ状況なら毒を疑うわ。
ただ、毒ではないと分かったおかげで、シスターっぽい女性は、負傷している男性に液体を飲ませた。
すると、みるみるうちに傷が治っていく。
「え!?」
「マジかよ!?」
そう、俺が渡した液体は、『完治草』と柑橘系の果物をミキサーで混ぜ合わせた飲み物なのだ。
最初は、『完治草』単体で食べればいいと思っていたのだが、大きな傷を負ったときに、咀嚼して飲み込むという動作をするのは辛いのでは? と思った俺は、いざというときの為に飲み物にしておいたのだ。
その結果、聖浄水とはいえ、水や果物が混ざっているにもかかわらず効果に変化はなく、それどころか混ぜているため量も多く、何より美味しい飲み物が完成したのだ。
うん、飲み物にして正解だったな。
「う……うん……? ここは……」
「ダン! 大丈夫!?」
「無理をするな。まだ横になっていろ」
ダンと呼ばれた男性は、少し体調が悪そうだが、それでも動くことは出来そうだった。
全員ダンという男性が目を覚ましたことで、気が抜けたのだろう。
突如襲ってきた魔物の存在に気付くのが遅れたのだ。
「ん? ……なっ!? シルディ、上よッ!」
「え?」
魔女のような女性が、軽装備の女性にそう叫んだ瞬間、彼女の頭上から一体の魔物が鋭い剣を振り下ろしながら迫っていた。
突然の事態に、呆然と見上げることしかできない軽装備の女性の腕を引き、背後に庇うとそのまま襲い掛かって来た魔物の剣を弾いて、顔面に『絶槍』を突き立てようとしたが、相手はその槍をギリギリのところで躱す。
「大丈夫ですか?」
「へ? あ、ああ! だ、大丈夫だ! 大丈夫!」
「ならよかった」
何やら慌てた様子の女性の安否を確認すると、襲い掛かって来た魔物を見る。
「こ、コイツは……!」
「ゴブリン・ジェネラル!?」
襲い掛かって来た魔物は、ゴブリン・エリートより上質な重装備をしたゴブリン・ジェネラルだった。
ゴブリン・ジェネラルは着地すると、俺たち人間の大人サイズもある剣を軽々と振り、間合いをけん制してくる。
「この森はやっぱりどうかしてるぞ……!」
「文句を言ったって仕方ないでしょ!? いいから構えなさい!」
重装備の男性がそう言い、それを魔女のような女性が叱り飛ばしながら戦闘態勢を整えた。
だが、ゴブリン・エリートで苦戦していたし、おそらくこのゴブリン・ジェネラルを相手にするのは厳しいだろう。
俺の場合、一度だけだが戦って勝利している。
なので、俺は他の人たちに前に出ないように手で留め、何か言いたげな重装備の男性を心苦しく思いながらも無視してゴブリン・ジェネラルと相対した。
俺はその隙に、相手を鑑定する。
【ゴブリン・ジェネラル】
レベル:200
魔力:1000
攻撃力:9000
防御力:3000
俊敏力:500
知力:500
運:100
……強いな。
恐らくだが、魔物は種族的に進化などを繰り返すことでステータスも大幅に上がるのだろう。
攻撃力だけで見れば、俺を超えてきている。
同じようなレベルなら、ブラッディ・オーガもそうなのだが、種族的にはゴブリン・ジェネラルの方が上位なのかもしれない。オーガ・ジェネラルとか存在するなら、そっちの方が強いんだろうが。
お互いに警戒し、最初はにらみ合いが続いていたが、ゴブリン・ジェネラルの方がしびれを切らして、俺に襲い掛かって来た。
だが、俊敏力は大したことないため、俺は余裕を持って避けるのだが、攻撃の余波が凄まじく、地面が大きく抉れた。
「ハッ!」
「グアッ!」
鋭く、最小限の動きを意識しながら槍を突き出すと、ゴブリン・ジェネラルはそれに対応し、剣で防いでくる。
防ぐと、そのまま剣を大きく振り上げ、力いっぱい地面に叩き付けてきた。
その衝撃は凄まじく、大きなクレーターができ、大地を大きく揺らす。
俺は一足でその場から飛び退くと、木に着地してそこを足場に勢いよく飛びかかった。
「フッ!」
「グオッ!」
しかし、それすらもゴブリン・ジェネラルは受け止める。
……真正面から打ち合っても、今の俺じゃ力負けするな。
そう判断した俺は、受け止められた状態から体を捻り、ゴブリン・ジェネラルの肩を足場にして大きく跳び、近くの木まで移動する。
その際、『絶槍』をゴブリン・ジェネラルの背中に投げつけた。
「ガアッ!」
アッサリと『絶槍』は弾かれる。
しかし、俺はその瞬間を狙っていた。
弾く瞬間は、どうしても『絶槍』に意識を集中させなくてはダメなので、その一瞬の隙を突いて、俺は木を足場に手には『全剣』を握って、一気に突撃すると、すれ違いざまにゴブリン・ジェネラルの首を斬り飛ばして着地した。
光の粒子となって消えていくゴブリン・ジェネラルを確認すると、軽装備の女性たちの方に視線を向けた。
すると、信じられないものを見たかのように、口をポカーンとあけ、俺の方を見ていた。
……なんかやらかしたかな? まあいいや。
取りあえず、ゴブリン・ジェネラルとゴブリン・エリートのドロップアイテムを拾い、アイテムボックスに放り込む。ついでに『絶槍』が手元に戻って来たので、『全剣』も放り込んだ。
ドロップアイテムの確認は、家に戻ってからでいいか。
そう決めた俺は、未だに呆然としている皆さんに一つ提案をした。
「ここに居続けるのは危険です。近くに私の家があるので、そこで詳しい話を聞きましょう」
「え?」
「い、家だと?」
「まさか、ここに住んでるの!?」
そりゃそうか。
普通なら信じられないし、俺もいまだに信じられない。それになんとなく分かってきたが、この森やっぱり普通じゃないよな。
「とにかく移動しましょう」
俺はそう言い、家に向かって歩き出した。
その様子を見て、助けた皆さんも慌ててついてくる。
さて、突然見ず知らずの相手を家に招き入れるわけだが……相手が困ってたら助けないとな、じいちゃん。
『レベルが上がりました』
うん、幸先良いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます