第42話
「ナイト、アカツキ! 今日は街に行くぞ!」
「わふ?」
「ふご?」
俺の宣言に二匹とも首を傾げる。
あのサバイバルのような野外学習を終え、こうして無事に帰って来たのだが、帰って次の日は三連休! これはもう異世界に街に行くしかない。
転移魔法も使いこなせるようになってきたし、本格的に異世界の旅に出かけられるのだ。
この森について? それはまあ……そのうち頑張ります。
「あ、でも……俺異世界のお金持ってないや……どうしよう?」
一応アイテムボックスの中には換金できそうな素材類は入っているけど、果たして換金しても大丈夫なモノなのか俺には分からない。
以前この地を訪れたシルディたちの様子や、賢者さんの本の言う通りなら、この森に生息する魔物はよそから見ればかなり強力な部類に入るだろう。
まあS級の魔物って何となく強そうだとは思ってたし、そりゃそうか。
「ってなると、この地球のモノとかどうだろう?」
「わふ?」
ナイトたちに訊いてみるが、ナイトたちはまたしても首を傾げるだけ。分からないよねぇ。
この世界の文明レベルがどれくらいか分からないから何とも言えないけど、賢者さんが残してくれたこの家の雰囲気や、シルディたちの着ていた服や鎧から、中世くらいの文明かなぁって勝手に想像している。
だとすると、地球にあるモノで売れそうなのって言えば……胡椒とかは地球でも金と同じ価値があったって言うし、他には石鹸や鏡なんかもいいよね。
でも、この世界にはドロップアイテムって概念があるから、果たしてどこまで地球のモノが通用するのかは本当に未知数なんだけど。
「……うん、考えても仕方ないし、全部用意しよう」
お金は多少あるので、俺は胡椒のビンを十本、石鹸を十個、手鏡を十枚用意した。
「うん、あと足りないものはとりに帰ってくればいいか!」
「ワン」
「ブヒ」
というワケで、ようやく俺たちは街に向けて出発した。
シルディたちを送り届けるために一度森の外へ続く道を通っているので、迷う心配はない。
道中ゴブリン・エリートなんかを倒しつつ歩いていると、見たことない魔物をナイトが発見した。
「ワン! ワンワン!」
「ん? どうした?」
「わふ」
ナイトの示した方に視線を向けると、真っ白いモコモコの体毛で覆われた羊がのそのそと草を食べていた。
そしてある程度草を食べると、その場で無防備に寝始める。……と思えば、寝たまま草を食べていた。
「な、なんだあの羊……」
とりあえず『鑑別』を発動させてみた。
【スリープ・シープ】
レベル:400
魔力:10000
攻撃力:7000
防御力:8000
俊敏力:3000
知力:10000
運:500
【スキル】
≪睡眠魔法≫、
何とも言えないステータスだった。
ただ、魔力と知力が一万超えてることから、おそらく魔法を使ってくるんだろうと思えば案の定だ。つか、睡眠魔法って名前の通り眠りに関する魔物なのか?
ならせっかく相手に気付かれてないんだし、先手を貰って仕留めるか。
俺は『無弓』を出現させ、矢を引き絞った。
狙うなら的として大きい胴体なんだろうけど、何となく矢を弾きそうな気がして除外する。
それに俺の『弱点看破』のスキルでは額がいいと言ってるし、俺も大人しくそこを狙うことにした。
息を殺して――――一矢。
「ッ!」
「!? め、メェエエエエエ!」
羊の脳みそを貫通する勢いで額に矢が突き刺さる。
すると羊は悲鳴をあげてその場で暴れたが、やがて光の粒子となって消えていった。
「ふぅ……何とか遠距離で仕留められたな」
「ワン」
ドロップアイテムに近づくと、手のひらサイズの魔石とお肉など、そして――――布団が落ちていた。
「何でだよ」
取りあえず魔石を鑑定してみると、B級と表示されたのであの羊もB級だったのだろう。
『
『睡眠羊の羊毛』……スリープ・シープの毛。保温性・吸湿性に優れ、肌触りなどは非常に心地よく、この毛を使った寝具や服などが貴族の間で人気。ただし、スリープ・シープ自体が非常に珍しいため、その価格は凄まじい。
『睡眠羊の角』……スリープ・シープの角。武器の素材などには使えないが、粉末状にすれば、心地のいい眠りへと誘う睡眠薬になる。そのため、安楽死を望む者に使われる場合もある。
どれも使いにくいなぁ。
いや、お肉は個人的に味が気になるし別にいいんだけど、羊毛と角はなぁ……角に至っては使われ方が少し怖いし。
「まあいいや。この素材より、問題なのはどう考えてもこの布団だよねぇ」
「フゴ? フゴ~」
掛け布団までセットになった見た目はごくごく普通の布団。
だが、それに突撃したアカツキが、もう目に見えてだらけきった姿を晒したので普通の布団じゃないと一瞬で分かった。
取りあえず調べてみないと何も分からないので例に違わず『鑑別』を。
『極楽布団』……スリープ・シープから手に入る、レアドロップアイテム。常に清潔であり、洗濯不要。冬は暖かく、夏は汗などでべたつくことなく常にサラリとした寝心地を実現。野外での使用も可能。【惰眠モード】と【快眠モード】の二つが備わっており、【惰眠モード】を選択すれば極楽浄土かと思うような居心地の良さを発揮し、【快眠モード】を選択すれば、布団に入ってすぐ心地のいい眠りへと誘い、圧倒的な質のいい睡眠を体験できるため、翌朝シャキッと目が覚める。肌触りにもこだわっており、ただ触れているだけで幸せを感じる。寝ている間、体力や魔力が微少だが上昇する。
「相変わらずの日常品シリーズ」
もはや驚くことはなくなったけど、やっぱり日常品シリーズはぶっ飛んでるな。
アカツキがぐてーっとしてるのも頷ける性能だったわけだ。
しかもありがたいことに野外でも使えるって。
「なんていうか、幸先良いな」
「わふ」
「ぶひ~」
「……アカツキ、もう行くよ」
「ブヒ!? ぶ、ぶひ……」
アカツキは名残惜しさを見せつつ、トボトボと俺の足元に帰って来た。
「そう落ち込むなよ。寝る時はこれで三人一緒に寝ような」
「ワン!」
「ブヒ? ブヒ!」
そんな約束をしながら先へ進むと、ついに森の出口へとたどり着いた。
「やっと着いた!」
「ワン!」
「ブヒ!」
いやぁ、長かったような短かったような……。
……ん? そういや、ここまで転移魔法使えばもっと早く移動できたんじゃ……。
…………。
「いや、こういうのも一つの醍醐味だよな! うんうん」
「わふ?」
「ふご?」
俺が何とか自分に言い聞かせるように頷いている様子を見て、ナイトたちは首を傾げた。
「さて、前にシルディたちが向かったのは……あっちか」
反対側に何があるのかも気になるが、取りあえずはシルディたちが拠点にしてるという街に向かおう。
そこでこの世界のお金なんかを手に入れて、ゆっくり観光したいしね。
「よし、それじゃ出発!」
「ワン!」
「ブヒ!」
こうして俺たちは異世界の街に向けて歩き出したのだった。
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