第41話
「エミリア、依頼を達成してきたぞ。これがその証明部位だ。確認してくれ」
私――――シルディ・ルーヴェはつい先ほどグレイドを含めた全員で依頼を終え、その報告にギルドに来ていた。
私たちが受けた依頼はA級の魔物……『ヘルウルフ』の討伐で、その証明部位となるヘルウルフの牙を受付嬢のエミリアに渡した。
「はい、受け取ります……確認しました。シルディさん、すごいですね……前回の【大魔境】の探索から帰ってきてからダンさんとフィアンナさんはS級に昇格、シルディさんたちもA級に昇格して順調に強くなってますし……やはりそれだけ【大魔境】での探索がいい経験になったんですか?」
「ははは。まあ、そんなところだ」
……実際は、【大魔境】での経験と言うよりは、あのどこか不思議な雰囲気の青年――――優夜との出会いが私たちにとって大きかっただろう。
彼の洗練された動き、圧倒的な強さは私たちの記憶に鮮烈に残っていて、あの強さを目指そうと皆が努力出来たからだ。
報酬を受け取ると、ギルド内部の居酒屋で待つグレイドたちの下に向かった。
「報酬を受け取って来たぞ」
「おう、ありがとよ。こっちも素材の売却が済んだところだ」
「じゃあいつも通り分けましょ」
私たち【明星の旅団】は基本的に依頼の報酬と討伐した魔物の素材を売却した値段を人数で割り、その金額を一人ずつの報酬としていて余りが出た場合はギルドにパーティーの財産として貯金するという方針をとっていた。
これはあくまで私たちのやり方であり、他のパーティーすべてが同じというワケではない。
私たちは付き合いも長く、お互いが信頼しているからこそこの方法がとれるが、他ならば依頼への貢献度などで金額が変わることもあるのだ。
それぞれが報酬を受け取った後、私は先ほどエミリアに言われたことをグレイドたちにも教えた。
「そう言えばエミリアに褒められたぞ。私たちのパーティーの成長が著しいとな」
「それは……優夜さんのおかげですよね」
「そうだね。彼のおかげで僕たちは明確な目標が出来たわけだし」
ルルナとダンの言葉にフィアンナとグレイドも頷いている。
どうやら私と同じ考えだったようだ。
「優夜と出会ってだいたい一ヶ月ほどか……こうして考えるとそこまで前のことじゃねぇな」
「そうだな……あの【大魔境】での依頼は結果的によかった。いつ優夜がこの街に来るかは分からないが、私たちも優夜のもとに行けるようにまだまだ努力をしないとな」
私の言葉に全員が頷いた。
それにしても……彼は今ごろ何をしてるのだろうか?
***
「カッター訓練なんて聞いてねぇえええええ!」
「おい、口動かしてる暇があったら手を動かせ! 二組に負けちまうだろ!?」
『じゃあ先生も手伝え!』
「バカ野郎! 俺は先生だからいいんだよ!」
『理不尽だあああああああ!』
俺――――天上優夜はクラス全員で9メートルのカッターボートに乗り、学園所有だという山の泉でレースをしていた。
まさかカッター訓練をすることになるとは微塵も思ってなかった。
いや、そういうのを学校行事で行う場所があるのは知ってたけど、『王星学園』でやるなんてまったく思ってなかったんだよ!
しかも前の食材採取と同じで、このレースも各クラスごとに採点されるらしく、学園祭の予算や先生のボーナスに影響が出るようなのだ。
だが、皆口で文句を言ってはいるものの協力してカッターのオールを漕ぐのは案外楽しく、それぞれが精いっぱい頑張っている。
でもこのカッターのオールだが、コツを掴まないと簡単に水にオールをとられ、尋常じゃない重さを発揮し、ところどころで悲鳴が上がっている。
「晶君、頑張って!」
「晶君ならできるって!」
「そうさ! 僕なら――――って重いぃぃぃぃいいいい!」
主に晶の所だけど。
一つのオールにだいたい三人ついているのだが、俺のところは楓と雪音の三人で漕いでいた。
「みんな重いって言ってるけど……私たちそうでもないよね?」
「……うん。むしろスムーズ過ぎて怖いくらい」
そう、俺のところはまったくもって負担がなかった。
いや、ミスって水の抵抗を大きく受けちゃうときももちろんあるんだけど、今の俺の筋力だと何も問題がないというか……。
力任せにやっても全然水の抵抗から脱出する事が出来るのだ。
まあそんなことせずにちゃんとオールの角度とか調整して水の抵抗を減らしてから重くなるのを回避してるんだけどね。
「どう考えても優夜君のおかげだよね!? どうなってるの!?」
「どうなってるって言われても……そんなにコレ重くないし……」
「重くない……? これが……?」
雪音は信じられないといった様子でオールを見た後、何かを思いついたようで楓にこっそり耳うちをしていた。
そして――――。
「「…………」」
「ん? って何で二人とも手放してるの!?」
ボーっとしながらも周りのタイミングに合わせながらオールを漕いでいると、ふと隣の雪音たちの動きが無くなったので視線を向けたら二人は驚愕の表情でオールから手を放していた。
「優夜君……よく一人で漕げるね……」
「……見た目より筋肉がある」
「いや、一人でも漕げるけど一応二人も漕いでね!?」
「はーい」
「……分かった」
俺の言葉に二人は素直に返事をすると、再びオールを握る。
「よしよしよおおおし! いいぞ、そのまま行けぇ! ボーナスは目の前だ!」
「アンタ科学の権威で金いっぱい持ってんだろ!?」
沢田先生の言葉に離れたところでオールを握っていた亮が思わずといった様子でツッコんだ。
最終的に、俺たちは何とか優勝する事が出来、着実に学園祭の予算を増やしつつあるのだった。
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