第14話
「やっちまったああああああああああっ!」
俺は全力で悶えていた。
無断で早退して、こうして家に帰ってきたわけだが、そこでやっと冷静になれたのだ。
そして、冷静になって考えると、とんでもないことをやらかしまくったことに気付いた。いや、気付きたくなかったけど。
虐められていたとはいえ、荒木たちをあそこまでボコボコ……って言っても、一発ずつしか攻撃してないわけだが、それでも大怪我をさせてきたのだ。
うわぁ……本当にやべぇよ……どうすりゃいいんだ……。
しかも、俺は勝手に帰ってるわけだし、向こうからすると俺が逃げたようにも思われるわけだ。
どうしようどうしようどうしよう!?
メチャクチャ言ってると分かってる前提で聞いてくれ。
もっと体、鍛えとけよッ!
うん、本当に理不尽極まりない上に、逆ギレも甚だしいが、そんなぶっ飛んだ考えが浮かぶくらい、俺は焦っているのだ。
……てか、俺の体が強くなり過ぎたのか?
よく分からないが、異世界で魔物と戦い続けた結果が、さっきの惨劇だ。
頭がまるで回ってなかったわけだけど、ただの人間がゴブリン・ジェネラルとかと同じって考えちゃダメでしょ、俺……。
「……そのうち、警察やら学校やらから電話がかかってくるのかな……はぁぁぁぁ……」
いや、でも、やってしまったことはどうしようもない。
あの時、俺の手持ちの『完治草』の飲み物をかけるか飲ませるかすればよかったかな……。
最悪、卑怯かもしれないが、異世界に逃げることも考えておこう……。
「とにかく、今日は帰ってきちゃったんだし、家でゆっくりしてよ……」
異世界探索の気分もなくなった俺は、家で電話がかかってこないか怯えながら過ごすのだった。
***
「結局、電話がかかってこなかったぞ……」
何と、翌日の今日まで、警察どころか、学校からすら電話がかかってこなかった。
一晩経って、多少落ち着いた俺は、学校に行くことを決めている。
「何で電話がかかってこなかったんだろう? もしかして、学校に来るって分かってるから、あえて電話しなかったのか?」
はぁ……どのみち、大事になりそうだなぁ。
でも、学校に行くと決めているので、俺は意を決して家を出た。
通学途中、昨日と同じような奇妙な視線を向けられながら、教室に到着する。
そして居心地悪く思いながらも、自分の席に座り、周囲の様子を少し窺ってみた。
「おい、来たぞ……」
「昨日、荒木たちに呼び出されたんじゃなかったのか? その割には怪我とかしてなさそうだけどよ……」
「しかも、昼休み終わってから、荒木たち含めていなくなってたよな」
「ああ、それな? どうやら荒木たちが喧嘩して、一方的にボコボコにされたらしいぞ」
「え!? マジかよ!?」
「マジマジ。全員入院レベルの大怪我だったらしいんだけどよ、アイツらもともとあちこちで喧嘩してたじゃん? だから、今回はその相手が悪かったってことで大事にいたってないみたいだぜ。肝心の喧嘩相手は、全員怯えて誰も口を割らなかったんだとよ」
「お前、どこからそんな情報仕入れてくるんだよ……」
「秘密~。ただ、アイツのことだけは分からなかったんだよなぁ。荒木たちについてたギャル共に訊いても、知らないの一点張りだしよ……」
驚いたことに、俺のことは問題になってなかった。
それどころか、荒木たちが悪いって扱いになってるようだ。
なんだか都合がいい気もするが、俺にとってはありがたい。
それに、荒木たちだけでなく、ギャルたちでさえ、俺のことを口にしなかったようだしな。……まあ、あの映像とか見せたら、最初に殴りかかって来たのは向こうだってバレちゃうわけだし、下手したら昔の俺の惨めな写真とかが大量に出てきたりするかもしれないからな。
とはいえ、完全に安心できる状況でもないので、そこは油断しないでおこう。
結局この日も荒木たち以外からは特に話しかけられることもなく終わった。
***
「……なんていうか、あっという間だったな……」
この一週間。
結局俺の変化を問い詰めてくる人物は現れなかった。
誰もが俺のことを遠巻きに眺めながら、ヒソヒソと何かをささやきあうだけで、俺自身への接触は一つもないのである。
何を言われてるか分からないから、逆にモヤモヤするんだよな……。
ただ、嬉しいこともあった。
スキルの≪言語理解≫は案の定英語にも発動したため、英語の授業がとても簡単だったのは、本当に嬉しかった。俺、英語苦手だったからなぁ。
まあいい。今日はせっかくの休日なんだから、ゆっくりしないとな……まあ、掃除したりするから時間は勝手につぶれていくわけだけど。
「ただ、いつまでも同じ服ってのはアレだよなぁ……」
俺が着てる服は、あの異世界で手に入れた物で、それ以外に俺の今の体型に合っている服は制服や体操服などを除けば一着も持っていない。
ファッションに興味があるわけでもないし、そもそも俺自身のセンスがいいわけでもないんだが、いつまでも同じ服ってのは流石にな。
洗ってるとはいえ、見た目の変化はないんだから、他人から見ると不潔にも見えるだろうし。
だが、俺は街に出るのが昔から好きではなかった。
だって、街に出ればいつも蔑みの視線にさらされ、運が悪い時には不良などに絡まれてボコボコにされることもあったからだ。
今は不良に絡まれることもないかもしれないが、それでも苦手なのだ。
とはいえ、パソコンなどがない俺の家で、お手軽なネット注文などができるわけもない俺は、街に出て必要なものを買いに行かなきゃいけないのだ。
「食材はともかく、日用品は何種類か切らしちゃってるからなぁ」
重いため息を吐くも、行くことに変わりはないため、俺は嫌々ながらも家から出た。
「日用品はいいとして、服はどうしよう?」
街に向かいながら、俺は自分の買うべき服について考える。
財布には、取りあえずアイテムボックスから五万円ほど取り出して入れているので、足りないということはないだろう。
「昔の俺だったら、着れる服の種類も少なかったから、選ぶのも楽だったんだけど……そもそもブランドすら知らないし、本当にどうしよっかなぁ……」
結局どこで服を買えばいいか分からない俺は、服は後回しにして先に日用品を買いに行くことにするのだった。
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