第62話
あれから一週間。
登校中や、授業以外の時間も『妖力』を動かす訓練を続けたことで、とてもゆっくりだが、少しだけ『妖力』を動かすことに成功した。
そしてそのことを空夜さんに報告すると、空夜さんは満足そうに頷く。
「うむ。一週間で動かせるようになるだけ上出来じゃ」
「そ、そうですか?」
「そうだとも。そなたは今まで『妖力』の存在すら知らんかった。それを、一週間で動かせるようになったんじゃから、誇りなさい」
おじいちゃん以外からは、あまり褒められたことのない俺は空夜さんのその言葉に嬉しくなった。
「ほれ、それじゃあその力を少し見てみるとするかのぉ」
「え!? み、見るって言われても、まだ本当に少しずつしか動かせないんですが!?」
「まあまあ。基礎訓練も大事じゃが、一度実践してみるのも大事じゃぞ。というわけで、異世界に向かうぞ」
どこか不安に思いながらも空夜さんと異世界に向かう。
「安心しなさい。いきなりこの世界の物の怪相手に『妖力』のみで戦えとは言わんよ。じゃから、最初はこいつじゃ」
空夜さんは空中を漂いながら俺の前に来ると、指を鳴らす。
すると、空夜さんの真横の空間が少し歪み、そこから真っ黒で丸っこい不思議な生物が一体現れた。
その生物の手足は短く、某黄色いパックンするゲームのキャラクターのようなシルエットで、額に悪魔のような小さい角が生えている。
さらに、顔には黄色く光る眼があるだけで、口や鼻などの他のパーツは見当たらない。
「あ、あの……この生き物は?」
「これは麿の妖力で生み出した訓練用の存在じゃよ。見た目は妖怪の小鬼を模してはいるが、命はない。じゃが、耐久力などは小鬼のものと変わらんから、優夜の妖力の確認にはちょうどいいんじゃ」
「は、はあ……」
いろいろ俺にはよく分からないことを言っているが、ひとまず小鬼ってこんな見た目なんだな。異世界のオーガやゴブリンとはえらい違いだ。見ようによってはかわいらしいくらいだし。
「それで、俺はどうすればいいんですか?」
「そうじゃな。今の優夜の妖力なら、この小鬼に傷を負わせることができる程度には扱えているはずじゃ」
「え?」
こんな小さくてかわいらしい見た目なのに、今の俺でも傷を負わせる程度しかダメージを与えられないのか?
そんな俺の心が表情に表れていたようで、空夜さんは笑う。
「ホホホ。信じられんかのぉ。まあ一度、妖力とか考えず、全力で殴ってみなさい」
「そう言うんなら……」
俺は空夜さんに言われた通り、手加減なしで今の俺ができる全力を目の前の小鬼に叩き込んだ。
俺の拳が小鬼に激突し、その衝撃で大きく土煙が舞い上がる。
「ほ~。派手じゃのぉ」
その光景を空夜さんはのんきな声を上げてみていた。
そして――――。
「え?」
土煙が晴れると、そこには何事もなかったかのように存在する小鬼の姿が。
「ど、どうして? 確かに手ごたえはあったのに……」
「それが、妖という存在なのじゃよ。普通の手段では、傷一つ与えることはできん。もちろん、いずれ復活する冥羅ものぉ」
「そ、そんな……」
「さて、それが分かったところで、今度は動かっすことができた妖力を右手に集め、そのまま同じように攻撃してみなさい」
「は、はい」
空夜さんに言われるがまま、俺は苦労しながらなんとか動かせる妖力を右手にかき集めた。
そしてそのまま先ほどと同じように小鬼を殴りつけると……。
「え!?」
なんと、小鬼は俺の攻撃の衝撃に吹き飛び、そのまま砕け散った。
しかも、小鬼が砕け散っただけでなく、明らかに最初のパンチより威力が上がっているのが分かる。
「ほー! これは予想外じゃ。てっきり傷だけで終わるかと思ったが、倒し切るとはの。妖力だけでなく、今の優夜自身の身体能力も大きく作用しているんじゃな」
呆然とする俺をよそに、空夜さんは驚きつつも、どこか嬉しそうにそう言った。
「ひとまず、これが今の優夜が動かすことができる妖力で発揮できる力じゃ。これがもっと自然に妖力を動かすことができるようになり、さらに一度に動かせる妖力の量が増えれば、もっと威力は上がっていくぞ」
「これが、もっと……?」
今の時点でとても自分の力が強くなったと実感したのに、これがさらにすごくなるなんて想像もつかない。
驚きで固まる俺を見て、空夜さん満足げに頷いた。
「ま、妖力の有用性が改めて理解できたところで、もっと修業を頑張らんとな」
「はい!」
空夜さんの言葉に頷き、俺は再び妖力をよりスムーズに動かせるようにするための訓練を始めるのだった。
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