異03-13 鐘忠・蛇銜・蛇公・諸葛

○鐘忠畜蛇

丹陽鐘忠,以元嘉冬月晨行,見有一蛇長二尺許,文色似青琉璃,頭有雙角,白如玉,感而畜之。於是資業日登。經年,蛇自亡去。忠及二子相繼殞斃。此蛇來吉去凶,其唯龍乎?


丹陽たんよう鐘忠しょうちゅうは、元嘉げんか年間の冬のある朝、二尺ほどの蛇を見た。その蛇は青い琉璃のような文様と色をしており、頭に白い玉のような双角があった。鐘忠は気に入り、飼い始めた。すると資産が日増しに増えた。一年後、蛇がふといなくなる。その後、鐘忠とその二人の息子は次々と死亡した。この蛇は来ると吉、去ると凶。あるいは、龍であったのかもしれない。



○蛇銜草

昔有田父耕地,值見傷蛇在焉。有一蛇,銜草著瘡上。經日,傷蛇走。田父取其草餘葉以治瘡,皆驗。本不知草名,因以「蛇銜」為名。『抱樸子』雲「蛇銜,能續已斷之指如故」,是也。


昔、ある農夫が畑を耕していると、傷ついた蛇を見つけた。すると別の蛇が草を咥えてその傷の上に置いた。数日後、傷ついた蛇が立ち去った。農夫が余っていた草を集めて自らの傷口に当ててみると、すべて治った。草の名前はとうていわからなかったが、「蛇銜じゃこう」と名付けた。なお『抱朴子』に「蛇銜は、切れた指を元のように再生できる」と書かれている。



○蛇公

海曲有物名蛇公,形如覆蓮花,正白。


海辺に「蛇公じゃこう」と呼ばれるものがある。形は蓮の花が覆ったようで、真っ白である。



○諸葛博識

吳孫權時,永康縣有人入山,遇一大龜,即束之以歸。龜便言曰:「遊不量時,為君所得。」人甚怪之,擔出欲上吳王。夜泊越裡,纜舟於大桑樹。宵中,樹忽呼龜曰:「勞乎元緒,奚事爾耶?」龜曰:「我被拘繫,方見烹臛。雖然,盡南山之樵,不能潰我。」樹曰:「諸葛元遜博識,必致相苦。令求如我之徒,計從安得?」龜曰:「子明無多辭。禍將及爾。」樹寂而止。既至建業,權命煮之。焚柴萬車,語猶如故。諸葛恪曰:「燃以老桑樹,乃熟。」獻者乃說龜樹共言。權使人伐桑樹煮之,龜乃立爛。今烹龜猶多用桑薪。野人故呼龜為「元緒」。


孫権そんけんの時代、永康えいこう県のある人が山に入り、大きな亀を見つけ、捕えて帰った。その亀が言う。

「まいった、時を忘れて遊び、捕まるとは」

人は驚き、亀を孫権に献上しようと考えた。途中、夜に越裡えつりに泊まり、大きな桑の木に船を繋ぐ。その深夜、桑の木と亀とが語らい合う。

「いたわしや元緒げんしょ、どうしてそんなことに?」

「私は捕えられた。やがて煮られるのだろう。しかし、南山なんざんの薪すべてを使っても、私を煮込むことなぞできぬのだ」

「わからんぞ、諸葛元遜しょかつげんそんは博識と聞く。きっと何らかの手立てを考えるだろう。奴らに、わしのような木を多く集めさせてみろ。そうしたらどうして救われようか」

子明しめい、もういい。災いが迫る」

木は黙りこんだ。

建業けんぎょうに着くと、孫権は亀を煮るよう命じた。車一万台分もの薪を焚いても、亀の言葉がとどまることはない。はやがて諸葛恪しょかつかくが言う。

「老桑の木を使えば煮えましょう」

すると、亀を献上した男があの夜の不思議な会話を思い出し、告げる。そこで孫権が桑の木を伐って亀を煮させたところ、たちまち亀は煮えた。

今も亀を煮るとき、よく桑の薪が使われるいます。こうした言い伝えから、田舎の人達はよく亀を「元緒」と呼ぶのである。



(異苑3-13)



たまりませんなあラストのこの、因果応報もクソもない、ただ死んでゆく系の話……なにしろなんの救いもない……あえて言えば孫権の晩年と諸葛恪という生きるオチがややオチとしては機能していますね。

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