捜02-03 三薔茨

沛國はいこくにひとりの士人がいた。姓をしゅうという。同じ妻との間に三人の子をもうけたが、どの子も二十歳近くになるまで声こそ発するものの、意味のある言葉を喋ることはなかった。


ある時、ひとりの客が周の家の門前に現れる。客が飲み物を恵んでほしい、と求めた時、周の家の奥から子供の声が聞こえてきた。


「おや、なんの声でしょうかな?」

「わしの子なのですが、みな喋れぬのです」

「あなた様の過去の過ちが原因やも知れませぬな、何か思い当たることはございますかな?」


周は客をただならぬ人物であると見なし、やがて客の元に姿を現し、言う。


「あるのやも知れませぬが、なんとも」

「もっとです、幼年期などはどうでしょうか」


ひとまず周は客を家に招き、食事を提供した。共に食事を取る中で、周はふと言い出す。


「ございました! わしが小さかった頃、寝床の上に燕が巣を構えたのです。子は三羽。その母が外より子らのために餌を運び込んでおりました。子燕らはみな口を開け母からの餌を受け取っておりました。何日もこれが続く中、ふとわしは梁をよじ登り、巣にまでたどり着いたのです。ためしに指を出してみると、子燕はそれを餌であるかのごとく食いついてくる。このためわしはついイバラを三つ、子燕たちにそれぞれ与えてしまいました。間もなくして子燕らはみな死にました。母燕が巣に戻ってきた時、子がいないのを見てあたりを探し回り、やがて悲痛な声を上げ、飛び去りました。確かに昔のわしはそんな真似をしでかした。いまさらながら悔やまれてなりませぬ」


客はその話を聞くと、突如として道術者に姿を変えた。

「よくぞ思い出し、悔いなされた。その罪はいま取り除かれましたぞ」


そう言い終わった途端、周の子供たちが言葉を口にし始めた。そして客人は姿を消していた。




沛國有一士人,姓周,同生三子,年將弱冠,皆有聲無言。忽有一客從門過,因乞飲,聞其兒聲,問之曰:「此是何聲?」答曰:「是僕之子,皆不能言。」客曰:「君可還內省過,何以至此?」主人異其言,知非常人。良久出,云:「都不憶有罪過。」客曰:「試更思幼時事。」入內,食頃,出語客曰:「記小兒時,當牀上有燕巢,中有三子。其母從外得食哺三子,皆出口受之,積日如此。時屋下攀得及巢,試以指內巢中燕雛,亦出口承受。因取三薔茨,各與食之。既而皆死。母還,不見子,徘徊悲鳴而去。昔有此事,今實悔之。」客聞言,遂變為道人之容,曰:「君既自知悔,罪今除矣。」言訖,便聞其子言語周正,忽不見此道人。


(捜神後記2-3)




母燕にしてみりゃ復讐したくて仕方ねえでしょうに的なやりきれなさが残るよなあこれ。悔いたからオッケーじゃあまりにも悲しみとしての比重が違いすぎる。無論悔いることは悔いることとして大切でしょうけど。


その後周さんは燕たちのために何か償いをしました、みたいなあれを現代人としてはつけてしまいたくなりますね。まあ蛇足なのかな。

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