7巻

捜07-01 虹化丈夫

廬陵ろりょう巴邱はきゅう陳済ちんさいという人がいた。彼は州の役人としての招集を受け州府に出向した。その妻である秦氏しんしは家で一人留守を守っていた。やがていつしか秦氏の周辺を、ひとりの偉丈夫がつきまとうようになった。端正な顔立ち、きらびやかな赤と青の着物を羽織っていた。彼と秦氏は山や渓谷で出会っていた。とはいえ彼の前で秦氏は気付けば寝落ちており、どうにもその間にセックスをしていたようなのだが、何故かそこの記憶だけがない。そうしたことが数年続いた。


ある時隣人が、いったい秦氏の身に何が起きているのかと訝り、山間にまで付いていった。するとそこには虹がかかっていた。秦氏が川のほとりに立つと、偉丈夫が金の盃を差し出し、ともに水を飲んだ。やがて秦氏は子を孕み、産んだ。ひとのような姿でこそあったが、ムチムチであった。


この頃陳済に休暇が与えられ、仮の帰宅が許された。秦氏は産んだ何かの露見を恐れ、その子を瓶の中にしまい込んだ。


例の偉丈夫は秦氏に金のをもたらし、これで赤子を隠すように伝えた。そして言う。

「この子は未だ小さく、連れ帰ることができぬし、この子のための衣も作ることができない。ならば、私自らが衣となろう」

そうして真っ赤な袋と化して赤子を包み込んだ。そして時折外に出し、乳を与えさせた。この時、外は風雨で暗くなっていたが、やがて隣人は陳済の家の庭から虹が出ているのを見た。


秦氏の家の食卓は常に豪華で、珍しい食材も豊富であった。やがて偉丈夫が子を連れて去る事になった。このときもまた急に雨風が強まり、やがて二本の虹が陳家から発したのを隣人が目撃したという。


それから数年し、偉丈夫と子供が秦氏はもとにやって来た。しばしの再会ののち、偉丈夫は秦氏を連れて田畑にまで出た。そこには二本の虹が出ていた。なんとも言いようのない恐れを感じた秦氏は偉丈夫を見た。


偉丈夫は言う。

「あれこそが私だ、恐れることはない」

そして偉丈夫と子供は、虹とともに姿を消すのだった。




廬陵巴邱人陳濟者,作州吏,其婦秦,獨在家。常有一丈夫,長大,儀容端正,著絳碧袍,彩色炫耀,來從之。後常相期於一山澗。間至於寢處,不覺有人道相感接。如是數年。比鄰人觀其所至,輒有虹見。秦至水側,丈夫以金瓶引水共飲。後遂有身,生而如人,多肉。濟假還,秦懼見之,乃納兒著甕中。此丈夫以金瓶與之,令覆兒,云:「兒小,未可得將去。不須作衣,我自衣之。」即與絳囊以裹之,令可時出與乳。於時風雨暝晦,鄰人見虹下其庭。秦常能辦佳食,肴饌豐美,有異於常。丈夫復少時將兒去,亦風雨暝晦,人見二虹出其家。數年而來省母。後秦適田,見二虹於澗,畏之。須臾,見丈夫,云:「是我,無所畏也。」從此乃絕。


(捜神後記7-1)




陳済さん「……」


まぁ妻と数年単位で引き離すとかアホか当時の役所って感じではありますが、それにしたって虹に寝取られた男とかこれ、振り上げた拳の下ろし先無さすぎで地獄じゃねーですかね? なんなのこの残された者たちになんとも言えない悪感情だけ残してく話? それともなに、これがなんか悲しい別離譚に見えるのが当時の感性なん? いかん、わからん殺しがすぎる……「これでこそ志怪」が、そろそろ自分を懸命に説得する言葉と化しつつあるな……いやあい変わらず面白いは面白いんですけど……w

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