捜07-02 山

そう元嘉げんか年間初頭、富陽ふようおうという人がいた。彼が沢辺に蟹取りカゴをしかけたところ、翌朝、六十センチほどの木材がカゴの中に転がっていた。カゴは破壊され、蟹もみな逃げ出していた。そこで王はカゴを直し、木材については岸辺に移した。


翌朝に王がカゴの様子を見てみれば、昨日と同じ有様である。王もめげずに木材を出し、カゴを直したが、更にその翌朝も同じ状態であった。


王はこの木材こそが仕掛けてきた妖異なのではないかと疑い、本来は蟹を入れるはずであった魚籠に木材を押し込み、肩に抱えて持ち帰った。そして言う。

「帰ったら薪にしてやろう」


王の家まで1キロを切ったあたりに差し掛かると、いきなり魚籠がガタゴトと動き出す。王が中を覗いてみれば、木材の端が人のようになり、木材そのものは手足の一本ずつついた猿のような体になった。

その何かが、王に語る。

「わしは蟹に目がなくてな、あの日そなたの仕掛けたカゴに蟹がうなっているのを見て、つい入り込んで食い尽くしてしまったのじゃ。全く悪いことをしてしまったと思うておるが、いまさらあれこれ言っても仕方あるまい。どうかわしを許して、魚籠から出してはくれんかね。わしは山神じゃ、いごそなたを加護し、カゴいっぱいの大蟹を取れるようにもしよう」


王は答える。

「貴様は強盗ばたらきをせねばならんほど蟹に飢えていたのだろうが。どの口でそれを言うのだ。その罪、死にてあがなえ」


その後もこの何者かはしきりに王に語りかけ、解放を願い出たのだが、王は一切応じない。やがてそれが言う。

「そなた、名はなんと申される。お教えいただきたいのじゃ」


何度か問いかけられはしたのだが、王はその一切に答えなかった。やがて王の家に到着すれば、それは言う。

「解放も叶わず、名も聞けなかった。これ以上わしに何ができよう、ただ死に行くのみか」


王は火をおこし、魚籠ごと燃やした。もはや声は上がらなかった。


実のところ、この地方ではこの化け物を「山」と呼んでいた。人の名前を教えてもらえれば、その相手を害する力を持っているのだと言う。このためそれはしきりに王の名を聞き出し、害することで逃れようとしたのである。




宋元嘉初,富陽人姓王,於窮瀆中作蟹斷。旦往觀之,見一材,長二尺許,在斷中。而斷裂開,蟹出都盡。乃修治斷,出材岸上。明往視之,材復在斷中,斷敗如前。王又治斷出材。明晨視,所見如初。王疑此材妖異,乃取內蟹籠中,攣頭擔歸,云:「至家,當斧砍燃之。」未至家二三里,聞籠中倅倅動。轉頭顧視,見向材頭變成一物,人面猴身,一手一足,語王曰:「我性嗜蟹,比日實入水破君蟹斷,入斷食蟹。相負已爾,望君見恕,開籠出我。我是山神,當相佑助,並令斷得大蟹。」王曰:「汝犯暴人,前後非一,罪自應死。」此物懇告,苦請乞放。王回顧不應。物曰:「君何姓名,我欲知之。」頻問不已,王遂不答。去家轉近,物曰:「既不放我,又不告我姓名,當復何計,但應就死耳。」王至家,熾火焚之。後寂然無復聲。土俗謂之山,云知人姓名,則能中傷人。所以勤勤問王,欲害人自免。


(捜神後記7-2)




ち、ちゃんとオチがある!(そもそもなんだそのわけのわからん存在はという部分から目をそらしつつ)


ここでラストの一段落がないとサイコーに志怪みがあってよかったんですが、包み隠さぬ気持ちを申し上げれば「ああ、つけちゃったんだぁ……」という気分でした。とはいえ昔の人だって好き好んでオチが行方不明な話ばっかにしたかったわけでもないのでしょう。仕方ない、仕方ない。


で何なんだ山。(はじめにもどる)

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