捜07-03 平陽隕肉・周子文失魂

○平陽隕肉


劉聡りゅうそうが皇帝を自称し、建元けんげんと元号を定めた、その正月。平陽へいようで地震があり、崇明觀すうめいかんが陥没し池が産まれた。ここの水は赤く、血のようであり赤い氣が天まで立ち上っていた。まるで赤龍が天まで翔け去ったかのようである。

また流星が牽牛けんぎゅうから紫微垣しびえんに入り込んだ。龍のくねくねとするかのような軌道を描いて、その光が大地を照らした。

やがて流星は平陽の北十里のところに落ちた。見ればそれは肉塊であり、その臭気は遥か平陽にまで及んだ。長さは三十步、廣さは二十七步。肉の辺りからはなぞのうめき声が昼夜止まらなかった。

数日後、劉聡の后である劉氏が蛇と獸とを産み落とし、それぞれが人を傷つけたあと逃げ出し、結局捕まることがなかった。

やがてその二体は例の肉塊のそばで発見された。ややあって劉氏が死ぬと、肉塊の声も止んだという。



○周子文失魂


東晋とうしん中興の後、譙郡しょうぐん周子文しゅうしぶん晉陵しんりょう郡に暮らしていた。幼い頃より弓矢による狩猟を好み、しばしば山に分け入っていた。

ある時山の中ごろにある洞穴でひとりの男に出会った。五、六の大きさというから、十メートル近くである。手には弓矢を持ち、その鏑矢の矢の幅広さだけでも五十センチ以上あった。その白さはまるで新雪のよう。それはいきなり声を上げ、「阿鼠あそ!」と周子文の幼名を呼ぶ。

思わず「おう!」と周子文が答えたところ、この怪物は弓を引いて周自分に向け、ひょうと鏑矢を鳴らした。

すると周子文から魂が抜け、倒れ伏すのだった。




平陽隕肉

劉聰偽建元元年正月,平陽地震。其崇明觀陷為池,水赤如血,赤氣至天,有赤龍奮迅而去。流星起於牽牛,入紫微,龍形委蛇,其光照地,落於平陽北十里。視之則肉,臭聞於平陽,長三十步,廣二十七步。肉旁嘗有哭聲,晝夜不止。數日,聰后劉氏產一蛇一獸,各害人而走。尋之不得。頃之,見於隕肉之旁。俄而劉氏死,哭聲自絕。


周子文失魂

晉中興後,譙郡周子文,家在晉陵。少時喜射獵,常入山,忽山岫間有一人,長五六丈,手捉弓矢,矢鏑頭廣二尺許,白如霜雪。忽出聲喚曰:「阿鼠(子文小字。)。」子文不覺應曰:「喏。」此人便牽弓滿鏑向子文,子文便失魂厭伏。


(捜神後記7-3)




前者はめっちゃホラーって感じですが、後者、後者アッー! 誰なの! 目撃してたの誰なの!


前の「山」にも連なる話なんでしょうかね。名を呼ばれると魂を抜かれる、は、ほぼコモンセンスとして呼んで良いでしょうから、ここを踏まえてるとはわかります。ただ、鏑矢を鳴らすのか。いや「滿鏑」をそう呼んで良ければ、ですが。

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