捜07-04 毛人 他2編

◯毛人


しん孝武帝こうぶていの時代、宣城せんじょう人の秦精しんせいは日々、武昌ぶしょうの山中に分け入り、茗を摘んでいた。

あるとき、一人の男と出会った。背丈は2メートルほど、全身毛むくじゃらであった。山の北からやってきたその男を見て、秦精は「殺される!」と怖気づいた。

しかし毛むくじゃらの男が腕を回し、山の麓にたどり着くと、茗の生える草むらに踏み入り、大いに秦精のもとに茗を投げ込んできた。慌てて秦精がその茗をかき集めると、ややあって毛むくじゃらの男が再び現れ、こんどは懷から二十枚ほどの橘を取り出し、秦精に渡した。食べてみると、すさまじく甘い。ひやあ、と驚嘆し、秦精は茗を背負って帰宅した。



◯朱衣人


會稽かいけい盛逸せいいつは朝いちに起き出し、誰もいない道を散歩するのが日課である。あるとき城門の外にある柳の上に何者かがいるのを見つけた。全長は1メートルにも満たない。朱衣を羽織り、冕冠を被り、俯いて樹の葉についた朝露を舐め取っていた。しばらくその様子を盛逸が見守っていたところ突然見ていたことがばれ、それは慌ただしくどこぞへと逃げ消えた。



○兩頭人


そう永初えいしょ三年,謝南康しゃなんこうの家の婢女が道ゆく中、一頭の黑犬と出会った。犬は婢女に言う。

「おい、おれの背後を見てみろ」

婢女が頭を上げてみれば、身長1メートル弱、頭をふたつ持った人間がいた。婢女は驚き恐怖し引き返して逃げ出したが、両頭人と狗とがともに追いかけてくる。やがて謝家の中にまで追いかけてきてしまったので、屋敷内のものもみな逃げ出した。

婢女は狗に問う。

「おまえ、何しに来たの?」

「飯をよこせ」

それを聞き、婢女は食事を用意した。両頭人と狗とはともに出されたものを平らげた。両頭人は謝家から去ったのだが、狗に出ていこうとする気配はない。

婢女が狗に言う。

「両頭人は出ていったわよ」

「何、またくるさ」

その後犬も姿をくらましたのだが、謝氏の人々は次々に死に、ほぼ全滅となった。




毛人

晉孝武世,宣城人秦精,常入武昌山中採茗。忽遇一人,身長丈餘,遍體皆毛,從山北來。精見之,大怖,自謂必死。毛人逕牽其臂,將至山曲,入大叢茗處放之,便去。精因採茗。須臾,復來,乃探懷中二十枚橘與精,甘美異常。精甚怪,負茗而歸。


朱衣人

會稽盛逸,常晨興,路未有行人,見門外柳樹上有一人,長二尺,衣朱衣,冠冕,俯以舌舐樹葉上露。良久,忽見逸,神意驚遽,即隱不見。


兩頭人

宋永初三年,謝南康家婢,行逢一黑狗,語婢云:「汝看我背後。」婢舉頭,見一人長三尺,有兩頭。婢驚怖返走,人、狗亦隨婢後,至家庭中,舉家避走。婢問狗:「汝來何為?」狗云:「欲乞食爾。」於是婢為設食。並食,食訖,兩頭人出。婢因謂狗曰:「人已去矣。」狗曰:「正巳復來。」良久乃沒。不知所在。後家人死喪殆盡。


(捜神後記7-4)




う、うーん……謝南康がやばい……いやもちろんエピソードも意味わかんないし厄いんですが、それ以上に背景が。謝南康、と言うことは普通に考えて南康公なんこうこうに封じられた東晋とうしんの功臣、謝石しゃせきの子孫です。ただし皇帝が司馬しば氏からりゅう氏に移ったところで南康公は謝石の家門から劉穆之りゅうぼくしの家門に移し替えられました。それでもなお昔を懐かしむ人は謝石の家門を謝南康家、と呼んだことでしょう。で、この当時に謝南康(おそらく減封の上別のところに移されていたんだろうなとは思うんですが)の爵位を継承していたのであろう人物が、謝暠しゃこう。彼は南康公を剥奪され、さらに謎の魔物に一門壊滅にまで追い込まれるわけです。なにその踏んだり蹴ったり。

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