捜06-07 四人捉馬

しん元熙げんき年間、すなわち滅亡直前頃のことである。当時、上黨じょうとう馮述ふうじゅつ相府吏將しょうふりしょうであったが、虎牢ころうへの帰省を認められた。


馮述は、帰途にて謎の四人組に出くわす。それぞれが繩や杖を持ち、まっすぐ馮述に近づいてくる。馮述は馬にムチを入れ避けようとしたが、何故か馬は動かない。四人組はそれぞれで馬の足を一本ずつ捕まえ、まっすぐ黄河にまで引きずり込まれた。


「そなた、黄河を渡りたいかね?」

「河の深さもわからず、どこにも船すらない。これでどうやって渡れるというのだ。貴公らはわしを殺そう、と言う腹づもりなのであろう」

「そのつもりはない、官に引き渡すのみ」


彼らは改めて馬の脚を捕らえ、黄河を徒歩にて北渡する。馮述の視界からは、ただ川の波立つ音が聞こえるのみである。とはいえ水の上に浮いている感覚はなかった。


やがて河岸が近づくと、四人組が語り合うのが聞こえてきた。

「かれは不淨の人だが、本当に官のもとに連れて行って良いものか?」


この頃、馮述は弟の喪に服している立場であった。,弟の霊魂が我が身より離れれば、このまま黄河へと引きずり込まれたのだろう。そのように察し、馮述は馬にむち打ち、勢いをつけて一気に河岸に登る。


そして振り返り、謝辞を述べるのである。

「貴公らには大いにお助けいただけた。これ以上の労を賜るのも忍びなく思う」




晉元熙中,上黨馮述為相府吏將,假歸虎牢。忽逢四人,各持繩及杖,來赴述。述策馬避,馬不肯進。四人各捉馬一足,倏然便到河上。問述:「欲渡否?」述曰:「水深不測,既無舟楫,如何得渡?君正欲見殺爾。」四人云:「不相殺,當持君赴官。」遂復捉馬腳,涉河而北。述但聞波浪聲,而不覺水。垂至岸,四人相謂曰:「此人不淨,那得將去?」時述有弟喪服,深恐鬼離之,便當溺水死,乃鞭馬作勢,逕得登岸。述辭謝曰:「既蒙恩德,何敢復煩勞。」


(捜神後記6-7)





んー、これはまぁ相府を「相国府しょうこくふ」と読むべきなんでしょうねえ。つまり劉裕りゅうゆうの属僚です、当時まもなく東晋とうしんより簒奪する。そして虎牢は劉裕死亡直後に北魏に攻め落とされています。


で、さらに抑えておきたいのは当時晋と北魏って使者のやり取りしてたんですが、そのことを晋書しんしょ宋書そうしょは書きません。対する魏書ぎしょは「朝貢の使者」として載せます。そう考えるとここの馮述も魏書への使者だったんじゃないかなぁ、的な憶測もせずにおれないのですよね。ただ使者の交換そのものがどうも国辱くらいの感覚だったくさく、載せられていない。弟の霊がまとわりついていることを「汚れている」とするのはちょっと日本人的感覚にも過ぎるので、ここは「北魏に使者として赴くこと」を汚れている、と呼んだのではないかなぁ、と思わずにおれません。わかんないですけどね。


なんにせよ、劉裕の簒奪直前に虎牢を経て、たぶんこれ本貫の上党に出ようとしてますよね。馮述の動きはあまりにもきな臭くて楽しいです。

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