捜06-08 異物如鳥
彼がかつて隣人の葬式に赴いたときは、まもなく葬儀の対象となった主人の遺骸が仮殯から棺に収められようか、と言うタイミングだった。参列者はみな広間にて送り出しの時を待っていた。対する王戎は車中にて腰掛け、窓から空を見ていた。
やがて、空にわけのわからないものが現れる。鳥のようにも見えるが、わからない。王戎がじっと観察しているとそれはどんどん大きくなった。そしてようやく、空中を赤い馬の引く馬車が走っていたのだと気付く。中には頭巾をかぶり、赤い衣をまとい、手には一つ、斧をたずさえていた。車が着地すると中の人は下車し、まっすぐ王戎の車に向かい、そのまま車に乗り込んでは、しばらく王戎を観察した。
男は出し抜けに言う。
「あなた様はあらゆるものごとを見通される。貴方様の前に隠し事をできるものなぞおらぬ。いまからこの場でちょっとした事件が起こるゆえ、貴方様のもとに赴いた次第である。あなた様には、こう申し上げておかねばなるまい。さほど親しくもない他者の家に葬儀があったとき、あなた様は急ぎ参列されるべきではない。どうしても出向かねばならぬ場合、赤い車を髭面の奴僕に引かせ、白馬に乗られるのが良い。さすれば呪いも打ち払われよう」
更に言う。
「あなた様は、やがて三公となられような」
王戎はそれから、しばしこの者と語らった。
葬儀が進み、主人が棺に収められ、いよいよ墓地に運ばれることとなった。客たちがみな棺の間に入っていくと、王戎のもとにいた者、鬼もまた棺の間に入っていった。
鬼は斧を構え、棺の上に立つ。主人の親族のひとりが棺桶まで駆け寄り、主人に別れを告げようとした。すると鬼が斧にて親族の眉間を打った。親族は倒れ伏し、周辺のものに助け出された。鬼は棺の上から王戎を見、ニヤリと笑う。
その後参列した者たちは、鬼が斧を抱え退出したのを見送るのだった。
安豐侯王戎,字濬沖,瑯邪臨沂人也。嘗赴人家殯殮。主人治棺未竟,送者悉入廳事上。安豐在車中臥,忽見空中有一異物,如鳥。熟視,轉大,漸近,見一乘赤馬車,一人在中,著幘,赤衣,手持一斧。至地,下車,逕入王車中。迴几容之。謂王曰:「君神明清照,物無隱情,亦有事,故來相從。然當為君一言:凡人家殯殮葬送,苟非至親,不可急往。良不獲已,可乘赤車,令髯奴御之,及乘白馬,則可禳之。」因謂戎:「君當致位三公。」語良久。主人內棺當殯,眾客悉入,此鬼亦入。既入戶,鬼便持斧,行棺牆上。有一親趨棺,欲與亡人訣。鬼便以斧正打其額,即倒地。左右扶出。鬼於棺上,視戎而笑。眾悉見鬼持斧而出。
(捜神後記6-8)
ちょっとわからんわね? 想像をたくましくすればこの頃晋の天命が高まっていて、この主人や親族は魏シンパとして急進派的な立場であったとか、そんな感じなんでしょうかね。ちなみに王戎は西晋による呉討伐にも消極的に絡み、本当に三公にまで至っています。竹林七賢なのになぁ……。
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