捜06-09 腹中鬼・盛道兒



○腹中鬼


李子豫りしよは幼い頃より医学を修めていた。その手腕たるや神霊とすら通じているのか、と言われるほどであった。

許永きょえい豫州刺史よしゅうししとして歷陽れきように赴任したが、この頃、その弟が病を得て胸と腹にそれぞれ疼痛を覚えること十年あまり、瀕死の状態でいた。

ある夜、屏風の後ろから鬼が腹の中のに語りかけるのが聞こえる。

「なぜとっとと殺さんのだ? このままでは李子豫がやってきて、赤丸せきがんでお前を殺すことになろうぞ」

腹の中の鬼が答える。

「そんなもの怖くもないわ」

その翌朝、許永がついに人をやって李子豫のもとに訪問させ、招き寄せた。李子豫が間もなく門をくぐらんかとするとき、許永の弟氏は腹の中から何やらうめき声が聞こえてきた。

李子豫は弟氏を診察するなり、言う。

「鬼病である」

そして巾にくるまれた箱の中から八つの毒の赤い丸薬を取り出し、弟氏に飲ませた。すると間もなくして腹の中から雷鳴のような音がとどろき渡った。この音が数度鳴ったところで、遂に弟氏の病が癒えた。

いわゆる八毒丸方はちどくがんぽうが、これである。



○盛道兒


そう元嘉げんか十四年、廣陵こうりょう盛道児せいどうげいが死亡する際、残される娘を妻の弟である申翼之しんよくしに託した。喪が明けた頃、申翼之はその娘を北鄉ほくきょう厳斉げんさいの息子に嫁がせた。厳斉は寒門の出でこそあったが資産家で、その結納金も莫大なものとなっていたため縁談が成立してしまったのである。しかし、死んだはずの盛道兒が突如空中に現れ、怒鳴って言う。

「わしは今にも絶え果てんばかりの心身を推して、貴様に我が家門の行く末を託したのだぞ! にもかかわらず貴様は目先の利益に目がくらみ、義理も忘れ、木っ端家門と縁談を結んだわけだ!」

申翼之は大いに恐れ、恥じた。




腹中鬼

李子豫,少善醫方,當代稱其通靈。許永為豫州刺史,鎮歷陽。其弟得病,心腹疼痛,十餘年,殆死。忽一夜,聞屏風後有鬼謂腹中鬼曰:「何不速殺之?不然,李子豫當從此過,以赤丸打汝,汝其死矣。」腹中鬼對曰:「吾不畏之。」及旦,許永遂使人候子豫,果來。未入門,病者自聞腹中有呻吟聲。及子豫入視,曰:「鬼病也。」遂於巾箱中出八毒赤丸子,與服之。須臾,腹中雷鳴鼓轉,大利數行,遂差。今八毒丸方是也。


盛道兒

宋元嘉十四年,廣陵盛道兒亡,托孤女於婦弟申翼之。服闋,翼之以其女嫁北鄉嚴齊息,寒門也,豐其禮賂,始成婚。道兒忽空中怒曰:「吾喘唾之氣,舉門戶相托。如何昧利忘義,結婚微族。」翼之乃大惶愧。


(捜神後記6-9)




ぼく「知らねえぞ盛氏」


いや、世説新語を経てるのでこの手の家門差別はいつものやついつものやつって感じなんですが、やばい、誰一人としてピンとこない。ほんと、どんだけ上澄みやねん史書って感じです。こうしたクラスの人達の事績も見出せるのが明代清代なんでしょうねえ。羨ましすぎて禿げそうですが史料の海に溺れて吐きそうです。

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