捜06-10 歷陽神祠 他二編

○歷陽神祠


しんの時代、淮南わいなんに済んでいた胡茂回こぼうかいには鬼を見る能力があった。その能力を好きではなかったが、とは言え手放せるものでもない。

のちに揚州ようしゅうに出、歷陽れきように戻った。城の東には神祠があり、中では民らが巫祝を伴い祭祀を執り行っているところだった。胡茂回がしばしその様子を見ていたところ、鬼の群れがお互いに顔を見合いつつ「上官が來たぞ!」と叫び、祠よりほうぼうに脱出して逃げ去ってしまった。

胡茂回が振り返れば、二人の僧侶がやって来、祠の中に入った。鬼たちは二体組、三体組などになってお互いに抱きしめ合いながら、祠そばの草むらより中を見守っていた。彼らの僧侶を覗き見る様子は恐怖そのものという感じであった。

やがて僧侶が立ち去ると、鬼たちはみな祠の中に戻っていった。胡茂回は以降仏教に誠心誠意仕えた。



○鬼設網


とあるわんぱく小僧がいた。小僧は仲間とともに草原で牛を放し飼いとしていた。そこに一体の鬼が現れ、草むらに網の罠を仕掛け、小僧や仲間たちを生け捕りにしようと企んだ。

こうした網を鬼が設置しきるよりも前に小僧は密かに既に設置されていた網罠を取り除き、むしろそれで鬼を捕らえてしまうのだった。



○懊惱歌


廬江ろこう杜謙とけん諸暨令しょざんれいとなった。

諸暨縣の西の山のふもとには鬼が一体いた。身長は三丈、あかがね色の着物にズボンをはき、ボロボロのチョッキを着ていた。鬼は草むらの中で歌い、踊っていた。やがてチョッキを脱ぎ、草むらの上に放り投げ、『懊惱歌おうのうか』を歌い始めた。

人々はその様子を眺めていた。




歷陽神祠

晉淮南胡茂回,能見鬼。雖不喜見,而不可止。後行至揚州,還歷陽。城東有神祠,中正值民將巫祝祀之。至須臾頃,有群鬼相叱曰:「上官來!」各迸走出祠去。回顧,見二沙門來,入祠中。諸鬼兩兩三三相抱持,在祠邊草中伺望。望見沙門,皆有怖懼。須臾,二沙門去後,諸鬼皆還祠中。回於是信佛,遂精誠奉事。


鬼設網

有一傖小兒,放牛野中,伴輩數人。見一鬼,依諸叢草間,處處設網,欲以捕人。設網後,未竟,傖小兒竊取前網,仍以罨捕,即縛得鬼。


懊惱歌

廬江杜謙為諸暨令。縣西山下有一鬼,長三丈,著赭衣褲穿褶,在草中拍張。又脫褶,擲草上,作「懊惱歌」。百姓皆看之。


(捜神後記6-10)




と杜謙さんの存在意義ィー!


ともあれ、ここで言う懊悩歌はどんな性質のものなんでしょうね。と言うのも、同題の歌が宋書に載っているのです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054889353019

あっ字が違う。けど歌っててもおかしくないな。この歌は「草生可攬結,女兒可攬抱」と言う一説が含まれており、これが劉裕の決起成功を予見したものだと信じられたそうなのです。そうすると、おそらく当時の史書では杜謙が桓玄政権樹立前夜くらいのタイミングの人だった、的な情報があったりしたんでしょうね。でないとさすがに存在意義がわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る