捜06-06 韓塚人

東晉とうしん昇平しょうへい年間、すなわち穆帝ぼくていの時代。徐州刺史じょしゅうしし索遜さくそんが船に乗って晉陵しんりょうに向かった。


夜遅くに出立し、長江を進むこと数里。見ると川岸で船に乗せてほしい、と言い出すものがあった。男は言う。

「我が家は韓塚かんちょうにあるのですが、足の痛みに襲われ動けなくなってしまったのです。あなた様の船に載せ、我が家まで連れて行ってはくださるまいか」


男を乗せて進み、明け方ごろ。船が韓塚に到着すると男は上陸し、立ち去ろうとした。索遜もまた船を引き出立しようとしたのだが、何かに引っかかったのか、水夫らに引っ張らせても動かない。索遜は立ち去ろうとする男に向け、怒鳴る。

「貴様は数里乗せてやった恩も忘れて、こちらのトラブル解決の手伝いもせんのか!」


そして今にも殴りかからんとしたため、男は慌てて引き返し、ともに船を引いた。このとき明らかに大した力を加えているふうでもなかったのだが、船はたちまち引っ張り出され再び航行ができるようになった。

男はその後そそくさと塚の間に逃げ去ったが、索遜は彼がただ者でないと見て取り、ひそかに人をやってあとをつけさせた。しかし男はいつの間にか姿をくらませていた。


とはいえ間もなくすると再び姿をあらわし、ひとつの塚に向け「載公たいこうや!」と声をかけた。するとその声に応じ、のそりと別の男、載公が現れた。


「いましがた人の船に乗ってここまで来たのだが、奴ら、おれが一緒に船を牽かないからと殴りかかってきよった。奴らのもとに戻って仕返ししてやりたく思うのだが、載公よ。あんたの甘羅を貸しちゃくれんかね?」

「おれの甘羅をぶちこわそうってのか? ふざけるな」

「壊れやせんだろう。まぁまぁ、試させてくれ」


索遜はこのやり取りを聞くと、すぐさま船に戻った。間もなくして真っ赤な何かが迫りくる。百斛もの穀物を抱え込めそうな、竹籠のような形をした、全長四メートル弱の物体である。


索遜が、すかさず叫ぶ。


「このクソめが、おれの船に乗っておきながらこちらの船引きを手伝おうともせず、痛い目にも遭いたくないとほざいたわけだ! その上で載公の甘羅とやらでおれを殴ろうというのだな! 良かろう、ならばここで貴様の甘羅を打ち壊してやろう!」


索遜が叫ぶと、赤い何かがたちまち消え去った。索遜はそのまま晋陵に向かった。




晉昇平中,徐州刺史索遜,乘船往晉陵。會闇發,迴河行數里,有人求索寄載,云:「我家在韓塚,腳痛不能行,寄君船去。」四更守至韓塚,此人便去。遜遣人牽船過一渡,施力殊不便,罵此人曰:「我數里載汝來,逕去,不與人牽船。」欲與痛手。此人便還,與牽,不覺用力而得渡。人便逕入諸塚間。遜疑非人,使竊尋看。此人經塚間,便不復見。須臾,復出,至一塚呼曰:「載公。」有出應者。此人云:「我向載人船來,不與共牽,奴便欲打我。今當往報之,欲暫借甘羅來。」載公曰:「壞我甘羅,不可得。」此人云:「無所苦,我試之耳。」遜聞此,即還船。須臾,岸上有物來,赤如百斛篅,長二丈許,逕來向船。遜便大呼:「奴載我船,不與我牽,不得痛手!方便載公甘羅。今欲擊我,今日即打壞奴甘羅。」言訖,忽然便失,於是遂進。


(捜神後記6-6)





本日面白い言葉に出会いました。


ネコチャンのニンゲン育成日記

胃潰瘍になった話251

https://nekotoningen.blog.jp/archives/29276948.html


「攻撃力の高い人、防御力が0なことが多い」。


いや、まさしく、まさしくこれ……!

なんだこの時代を問わぬ普遍性……!


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