捜06-05 上虞人

荊州刺史けいしゅうしし殷仲堪いんちゅうかんは、まだ無冠の官人であった頃、京口けいこうに住んでいた。


ある夜、夢にひとりの男が現れ、言う。

「おれは上虞じょうぐの人なのだが、おれの亡骸の入った棺桶が長江に流されてしまったのだ。明日には流れ着くだろう。あなたは困った者を見捨てられない仁者とお見受けした。どうにか棺を水の届かぬ、乾いた場所にまで移しては下さるまいか。あなたならばこの枯骨を哀れと思ってくだされよう」


そこで殷仲堪は翌朝、人々を引き連れ長江ちょうこうに出た。すると夢に出てきた男の言う通り、棺桶が流れてきた。その棺桶はちゃぷちゃぷと、殷仲堪の座っていた場所に向かってくる。


殷仲堪が周りの者に命じ棺桶を引き寄せれば、そこには夢で聞いた通りの題が記されていた。殷仲堪は水の来ない丘の上に安置し、酒と飯とで死者を祀った。


その夜、昨晩夢に出た人が再び現れ、殷仲堪に礼を述べるのだった。




荊州刺史殷仲堪,布衣時,在丹徒。忽夢見一人,自說:「己是上虞人,死亡浮喪,飄流江中,明日當至。君有濟物之仁,豈能見移?著高燥處,則恩及枯骨矣。」殷明日與諸人共江上看,果見一棺,逐水流下,飄飄至殷坐處。即令人牽取,題如所夢。即移著岡上,酹以酒飯。是夕,又夢此人來謝恩。


(捜神後記6-5)




この話読んだとき、強烈な違和感に襲われたんですよね。ん、上虞ってあーた、長江沿岸じゃないわよね?


念の為調べたら、やっぱり会稽郡でした。今で言う紹興しょうこうの近く、つまり長江にまるっきりかすりません。まぁ本貫と在住地が違うなんていくらでもありますし、まして棺桶に題字がなされるなんてのを見ても、それなりの地位にはある人だったんでしょう。任地で死亡、ということもありえます。にしても棺桶流されるとか悲惨やね。まぁ長江も黄河ほどじゃないにせよ氾濫しますしね。


しかし殷仲堪、いちいちいい人である。

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