捜05-02 王導子悅

王導おうどうの子の王悦おうえつ中書郎ちゅうしょろうとなった。


しかしある夜、王導の夢にあらわれた人が百萬錢にて王悦を買った。王導は密かに祈祷者を雇い、この夢に対策を立てようとした。しかし悲しきかな、地面を掘ってみると、まさしく百萬銭を掘り当ててしまう。ふざけるな、とばかりに王導は厳重に封印させた。


やがて王悦が重病を得る。王導は夢が実現してしまうのか、と憂え、その快癒を日々願い、やがて食事も喉を通らなくなった。


そこに、ひとりの男があらわれた。見るからに屈強であり、完全武装をしている。


「そなたは何者か?」

「わたくしは蔣子文しょうしぶんです。公の子に良からぬものがついており、救命の願いを聞き遂げたため罷り越した次第にございます。公よ、もはやご案じめされるな」


王導は蔣子文を名乗る男に食事を提供した。男は大いに喰らい、その消費した米も数升に及んだ。


しかし食べ終えると、いきなり言う。

「あ、死んじゃったわ」


男はぱっと消えた。

王悦も死んでいた。




王導子悅,為中書郎。導夢人以百萬錢買悅,導潛為祈禱者備矣。尋掘地,得錢百萬,意甚惡之,一一皆藏閉。及悅疾篤,導憂念特至,積日不食。忽見一人,形狀甚偉,被甲持刀。問:「是何人?」曰:「僕,蔣侯也。公兒不佳,欲為請命,故來爾。公勿復憂。」導因與之食,遂至數升。食畢,勃然謂導曰:「中書命盡,非可救也。」言訖不見。悅亦隕絕。


(捜神後記5-2)




いや噴いた。ひどい。


蔣子文

https://kakuyomu.jp/works/16816452219408440529/episodes/16817139558634066807


後漢末から徐々に神格化されていった地元のひと。項羽と並んで江南の守り神的存在だったようだ。史書は可能な限りこの神様の存在を消したがるけど、一方で「消そうとした」事もまた書かねばならなかったわけで、相当広く信奉されていたのでしょう。王導と言うことは東晋はじめの話であり、この頃の蔣子文がどのような信奉のされ方だったのかを占える、のかなぁ。難しい。

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