捜09-05 蔡詠家狗 他二編

○蔡詠家狗


東晉とうしん穆帝ぼくてい哀帝あいていの時代、領軍司馬りょうぐんしばであった濟陽さいよう蔡詠さいえいの家の犬は夜になると何頭かで群れたような声で吠えた。蔡詠が見に行くと伏せているだけだった。

後日、密かに人をやって様子を見に行かせた。すると二メートル弱はあろうかという巨大な黄色い犬が黃衣と白い頭巾を被り、多くの犬とともに吠えていた。その跡を辿ってみれば、蔡詠の家の老いた黄色い犬であった。このため犬を殴り殺した。以降、吠え声は止まった。



○張平家狗


代郡だいぐん張平ちょうへい苻堅ふけんの時代に并州へいしゅうを荒らし回っていた賊の棟梁であり、并州刺史へいしゅうししを自称していた。張平は一頭の犬を飼っており、飛燕ひえんと名付けていた。その大きさたるや、ちょっとしたロバほどもあったそうである。

ある夜、飛燕が役所の屋根を歩いた。行動が異常であったとは言え、その様子は通常通りであった。

それから数年と経たずして張平は鮮卑せんぴに追い出されて苻堅ふけんのもとに逃げ込み、間もなくして死んだ。



○老黃狗


王氏おうしと言う老人がいた。妻に先立たれ、庾氏の娘を後添えとした。彼女は幼く、美しかった。王の年は六十で、外泊が多く、婦を「悦ばせる」ことがまるでなかった。ある晩、突然帰ってきた王氏が「悦ばせた」。悦ばせたのだ。

翌日の昼、夫婦が食卓を囲む。この時王氏に雇われていた奴隷が王氏とともに外から帰ってくると、中にも王氏がいる。驚いた奴隷が慌てて王氏に告げると、王氏もすぐさま邸内に入った。中にいた王氏も庭から出てくる。ともに白い頭巾をし、衣服等、外見もまったく同じだった。

外から帰ってきた方の王氏が杖で殴りかかれば、中にいた方の王氏もまたそれを迎え撃つ。それぞれが子弟らに手助けをするよう命じたところ、王氏の息子が突撃ししたたかに中にいた方の王氏を打つと、変身が解けた。その正体は一頭の黄色い犬であった。王氏らは犬を殴り殺した。

なお王氏は會稽府かいけいふの補佐官だったのだが、門番がこのようなことを話していた。

「いつも一頭の老いた黄色い犬が、東からくるのを見るのです」

庾氏は大いに恥じ、病を得て死んだ。




蔡詠家狗

晉穆、哀之世,領軍司馬濟陽蔡詠家狗,夜輒群眾相吠,往視便伏。後日,使人夜伺。有一狗,著黃衣,白帢,長五六尺,眾狗共吠之。尋跡,定是詠家老黃狗,即打殺之。吠乃止。


張平家狗

代郡張平者,苻堅時為賊帥,自號并州刺史。養一狗,名曰「飛燕」,形若小驢。忽夜上廳事屋上行,行聲如平常。未經年,果為鮮卑所逐,敗走,降苻堅,未幾便死。


老黃狗

太叔王氏,後娶庾氏女,年少色美。王年六十,常宿外,婦深無欣。後,忽一夕見王還,燕婉兼常。晝坐,因共食。奴從外來,見之大驚,以白王。王遽入,偽者亦出。二人交會中庭,俱著白帢,衣服形貌如一。真者便先舉杖打偽者,偽者亦報打之。二人各敕子弟,令與手。王兒乃突前痛打,是一黃狗,遂打殺之。王時為會稽府佐,門士云:「恒見一老黃狗,自東而來。」其婦大恥,病死。


(捜神後記9-5)




老いた黄色い犬になんか怨みでもあんのか……黄色に「鮮卑」って属性置いてみるといいとか?(不穏)


しかし最後のやつ、いまいち流れが掴みづらくて参ります。これも結構な欠落があるんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る