捜09-04 楊生狗

しん太和たいわ年間、すなわち廃帝はいてい海西公かいせいこうの時代。廣陵こうりょうの人、楊生ようせいが一頭のわんこを飼っていた。そのわんこをとても可愛がり、どこに行くにも連れて回っていた。


ある日楊生がへべれけに酔い、大澤だいたく近くの草むらに横たわり、動けなくなった。冬の夜、何かの弾みで火がついた。更にこの夜は風も強く、草むらの火はまたたく間に広がった。慌てふためいたわんこが懸命に吠えるも、楊生は起きない。見れば目の前には水の溜まった穴があった。わんこは穴で身を濡らすと楊生の周りの草を濡らした。何度も何度も濡らした。こうして楊生の周囲をまんべんなく濡らしたため、楊生は火に巻き込まれずに済んだ。やがて目覚めた楊生がまさに周囲を見回した。


このときの楊生のリアクションを敢えて略しているのがニクい。


後日のこと、楊生が暗がりの中をゆくと、今度は空の井戸に落ちてしまった。おっちょこちょいさんである。のこされたわんこはあえぐように鳴く。そこに偶然通りがかったひとが、わんこが井戸に向けて吠える、そのただならぬ様子を見て不思議がり、井戸を覗けば楊生がいた。


「どうか助けてはくださるまいか! このご恩には篤く報いる!」

「この犬をくれ。そうしたら助けよう」

「そいつは過去にもわしの命を救ってくれた、どうしてともにおらずにおれよう! 他のものであれば何一つとして惜しくはない!」

「そうか、では達者でな」


この人が立ち去ろうとしたのを見て、わんこは井戸を覗き込む。楊生はわんこの意図を察し、言う。


「……わかった、差し上げよう!」


こうしてその人は楊生を助け出したのち、わんこをつないで立ち去った。


のだが、その五日後、わんこは夜に逃げ帰ってきた。




晉太和中,廣陵人楊生,養一狗,甚愛憐之,行止與俱。後生飲酒醉,行大澤草中,眠不能動。時方冬月,燎原,風勢極盛。狗乃周章號喚,生醉不覺。前有一坑水,狗便走往水中,還,以身灑生左右草上。如此數次,周旋跬步,草皆沾濕,火至免焚。生醒,方見之。爾後,生因暗行,墮於空井中,狗呻吟徹曉。有人經過,怪此狗向井號,往視,見生。生曰:「君可出我,當有厚報。」人曰:「以此狗見與,便當相出。」生曰:「此狗曾活我已死,不得相與。餘即無惜。」人曰:「若爾,便不相出。」狗因下頭目井。生知其意,乃語路人云:「以狗相與。」人即出之,繫之而去。卻後五日,狗夜走歸。


(捜神後記9-4)




(もだもだ悶える音)

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