捜09-03 猴私官妓・烏龍

○猴私官妓


しん太元たいげん中、丁零ていれいの王である翟釗てきしょうが後宮にて一頭の猿を飼った。その檻は妓女らの寝室前にあった。猿が置かれた前後で何人かの妓女が同時に懷妊し、それぞれが三頭ずつの猿を産んだ。子猿たちは産まれたそばから飛び跳ねた。翟釗は猿によって孕まされたのだと気付くと、猿及び子猿らを殺した。すると妓女らが揃って泣く。翟釗が理由を問えば、彼女らは言うのである。

「あれは少年として私達の前に姿をあらわしました。黃練の單衣に白紗の頭巾。それはもうとても可愛らしく、笑い語ること、人の子としか思えなかったのです」



○烏龍


會稽かいけい句章くしょうの民である張然ちょうぜんはしばらく公役のため、数年間建康けんこうに滞在せねばならなくなった。家には年若き妻がおり、子はまだなく、ひとりの奴隷とともに家を守っていた。やがて妻は奴隷と私通した。

このころ張然は建康にて一頭の犬を飼っていた。とても素早い犬で、「烏龍うーろん」と名付けられ、常に張然の後ろをついて回っていた。

後に仮の里帰りが許されることとなった。妻と奴隷は共謀し、なんとか張然を殺したいと目論んだ。張然と妻が食事を用意し、食べ始める。すると妻が言う。

「あなた様と大いなる別れとなります、たんと召し上がれ」

張然がまともに食べてもおれなかったタイミングから奴隷は弓を構えて戸口前に立ち、張然が食事を終えるのを待っていた。張然は涕泣し食べ物には手をつけず、皿に載る肉を犬に投げ与えながら言う。

「お前を飼って数年、どうやらわしは死ぬらしい。お前、わしを救うことができるかね?」

烏龍は食べ物を貰っても食べようとはせず、その代わりに奴隷を見ながら自身の唇を舐めた。張然は烏龍が動くと悟った。奴隷が早く食えと急かし始めたため、張然は決意し、膝を叩いて烏龍に言う。

「烏龍、手を貸せ!」

その声に応じ、烏龍が奴隷に飛びかかり、傷つける。奴隷は奴隷は弓矢どころか佩いていた刀も落としてしまい、倒れ伏した。烏龍は犬のキャンタマを噛む。張然は転がった刀を取り、奴隷を殺した。その後妻を県令府に突き出し、処刑させた。




猴私官妓

晉太元中,丁零王翟昭後宮養一獼猴,在妓女房前。前後妓女同時懷妊,各產子三頭,出便跳躍。昭方知是猴所為,乃殺猴及子。妓女同時號哭。昭問之,云:「初見一年少,著黃練單衣,白紗帢,甚可愛,笑語如人。」


烏龍

會稽句章民張然,滯役在都,經年不得歸。家有少婦,無子,惟與一奴守舍,婦遂與奴私通。然在都,養一狗,甚快,名曰「烏龍」,常以自隨。後假歸,婦與奴謀,欲得殺然。然及婦作飯食,共坐下食。婦語然:「與君當大別離,君可強啖。」然未得啖,奴已張弓拔矢當戶,須然食畢。然涕泣不食,乃以盤中肉及飯擲狗,祝曰:「養汝數年,吾當將死,汝能救我否?」狗得食不啖,惟注睛舐唇視奴。然亦覺之。奴催食轉急。然決計,拍膝大呼曰:「烏龍,與手!」狗應聲傷奴。奴失刀仗倒地,狗咋其陰。然因取刀殺奴。以婦付縣,殺之。


(捜神後記9-3)




ぼく氏「結婚してすぐの夫婦を引き裂く県令府の頭おかしいんか? なに自分たちで仕事増やしとんのじゃ」


まぁこの時代の庶民なんて良民にせよ奴隷にせよ奴隷扱いだろうしなあ……


あと原文の翟昭、これおそらく翟釗の音写ミスなんでしょうね。改めときました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る