捜05-07 白水素女
のちに
ある日謝端は晋安のまちで大きな巻き貝を見つけた。大きさは三升入る壺と同程度である。これは良いものだ、と謝端は巻き貝を持ち帰り、自宅にある甕の中で飼育を始めた。そこから十日と少し、いつものように謝端が毎朝の畑仕事から帰ってくると、家には温かい朝食が用意されていた。さも、つい先程までひとがいたかのようである。謝端はこれを隣人氏よりの厚意である、と考えた。同じようなことが数日続いたため、隣人氏のもとに訪問し、感謝を伝えた。
隣人氏は言う。
「はて、なんのことについてわしは感謝されておるのかね?」
謝端ははじめ、隣人氏がわざととぼけているのだろう、と考えたが、その後もしばしば食事の用意がなされたため、ついに隣人氏にストレートに質問をした。すると隣人氏は笑って言う。
「なんだ! 君が自身で妻を娶り、彼女に朝餉の用意をさせていたと思っていたのだが、まさかそのことをこちらに振られるとはな」
これには謝端も返す言葉がなく、ただただ訳もわからず疑念ばかりが渦巻くのだった。
何が起こっているかを探るべく、ある朝謝端は鶏の鳴き声とともに畑に出発、そこから素早く、しかし静かに帰宅し、生け垣の向こうから家の様子を伺った。するとひとりの少女が甕の中から現れ、かまどに火をおこした。それを見てただちに謝端は庭に入って甕を覗き込んだそこには、ただ巻き貝の貝殻だけがあった。
謝端はかまどに移動し、少女に問う。
「奥方、どちらからいらして、何のためにこんなことを?」
少女は大いに戸惑い、甕に戻ろうとしたが、謝端に行く先を塞がれてしまった。なので観念し、答える。
「私は天の川は白水に住まう
謝端は少女に留まっていてほしいと願い出たが、ついに少女は引き止められなかった。やがて風が吹き雨が降り、少女の姿が見失われた。
謝端はその後神棚を設け、時事につけ祭祀を執り行った。日々の食事は常に満ち足りてこそいたが、ついには富豪となるまでには至らなかった。やがて近所のものから娘をめあわされ、その官位も最終的には県令、県長ほどにはのぼりつめたと言う。
ほら見てごらん、道端ににある素女の祠が、まさに彼女を祀っているのさ。
晉安侯官人謝端,少喪父母,無有親屬,為鄰人所養。至年十七八,恭謹自守,不履非法。始出居,未有妻,鄰人共愍念之,規為娶婦,未得。端夜臥早起,躬耕力作,不捨晝夜。後於邑下得一大螺,如三升壺,以為異物,取以歸,貯甕中。畜之十數日。端每早至野,還,見其戶中有飯飲湯火,如有人為者,端謂鄰人為之惠也。數日如此,便往謝鄰人。鄰人曰:「吾初不為是,何見謝也?」端又以鄰人不喻其意,然數爾如此,後更實問。鄰人笑曰:「卿已自取婦,密著室中炊爨,而言吾為之炊耶?」端默然心疑,不知其故。後以雞鳴出去,平早潛歸,於籬外竊窺其家中。見一少女,從甕中出,至灶下燃火。端便入門,逕至甕所,視螺,但見殼。乃到灶下問之曰:「新婦從何所來,而相為炊?」女大惶惑,欲還甕中,不能得去,答曰:「我天漢中白水素女也。天帝哀卿少孤,恭慎自守,故使我權相為守舍炊烹。十年之中,使卿居富得婦,自當還去。而卿無故竊相窺掩,吾形已見,不宜復留,當相委去。雖然,爾後自當少差。勤於田作、漁採、治生。留此殼去,以貯米穀,常可不乏。」端請留,終不肯。時天忽風雨,翕然而去。端為立神座,時節祭祀。居常饒足,不致大富耳。於是鄉人以女妻之,後仕至令長云。今道中素女祠是也。
(捜神後記5-7)
ザ鶴の恩返し類型……! コッテコテもコッテコテ、だがそれがいい。こうした物語類型の祖型探しとかも面白そうですが、無限に時間を奪われそうだなあ。どっかに論文とかないかしら。
見るなのタブー(メリュジーヌ・モチーフ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%BC
か、なるほど……!
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