捜04-06 化鱉
すると家の中に人影はなく、ただ木のたらいの中に一匹の大きなスッポンがいた。兄弟姉妹揃って中に入ったが、どうしても事態を飲み込みきれない。ただ、スッポンの上には母氏がつけていた銀のかんざしが引き続き輝いている。兄弟らはみなでスッポンを取り囲み、大いに泣いたが、とは言えなにかができるわけでもなかった。
スッポン母氏はしばしば宋家より去ろうとした。子供たちも引き留めようとしたのだが、留めきることは叶わなかった。兄弟たちの監視の目が緩んだ隙を見、スッポン母氏は入り口の戸が空いた隙を狙い、逃亡。その逃げ足は凄まじく速く、誰も沢まで追いつくことができなかった。
そこから数日ほどして、スッポン母氏がふらりと宋家のまわりを、まるで普段通りの散歩かのように見て回ったが、特に何らかの言葉を書けることもなく立ち去った。
近隣のものは宋士宗に母氏が亡くなったものとして喪に服すべきではないか、と説いたのだが、なったものとして宋士宗は母の姿が変わったとは言え、まだ生きているのだから、とその説得を退けた。
この話は、
魏時,有清河宋士宗母,以黃初中夏天於浴室裡浴,遣家中子女盡出戶,獨在室中。良久,家人不解其意,於壁穿中窺,不見人,正見木盆,水中有一大鱉。遂開戶,大小悉入,了不與人相承。嘗先著銀釵,猶在頭上。相與守之,涕泣,無可奈何。意欲求去,永不可留。視之積日,轉解,自捉出戶外。其去駛,逐之不及,遂便入水。復數日,忽還,巡行舍宅如平生,了無所言而去。時人謂士宗應行喪治服,士宗以母形雖變,而生理尚存,竟不治喪。與江夏黃母相似。
(捜神後記4-6)
本文中にある「江夏黃母」は
漢靈帝時,江夏黃氏之母浴盤水中,久而不起,變為鼋矣。婢驚走告。比家人來,鼋轉入深淵。其後時時出見。初,浴,簪一銀釵,猶在其首。於是黃氏累世不敢食鼋肉。
以降、この家のものは何代かに渡り、スッポンを食べることを避けたという。
銀のかんざし、といった部分がかぶっているのは気になるところですが、まあ「妻に逃げられた」ことを少しでも糊塗したいんだろうなあ、という気持ちが伝わってくる感じがあり、正直グロテスクだなあ、と。なんかね、結婚したら妻を所有物として扱っていい的ゲロカス価値観の軛を受けるくらいなら庇護を受けずに野垂れ死んだほうがマシ、みたいになった人っていくらでもいたと思うんですよね。「劇場型モラハラ夫」ならここで劇場的に言い訳を言い繕いそうですし。
現代は劇場的モラハラ妻が夫を追い込めるようにもなってめでたいですね。いやめでたくねーわ、パートナーの基本的尊厳尊重しろや。
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