捜04-05 虎符

曹魏そうぎの時代、尋陽縣じんようけん北山ほくざんに住まう蠻人に妖術を使うものがあった。ひとを虎のように変えてしまうのである。その毛色や爪、牙は、まさしく虎のようであった。


尋陽人の周眕しゅうしんが、抱えていた奴隷のひとりに北山で薪の切り出しを命じた。奴隷には妻と妹がおり、ふたりを伴い山に入った。そして山の中に入るなり奴隷がふたりに言う。

「お前たちは高い木に登って、わしのやることをみているのだ」

ふたりが言いつけ通りに動くと、奴隷は草むらに潜り込んだ。ややあって草むらからは大きな黃斑を背負った虎が現れ、駆け巡り、咆哮した。その恐るべき様子にふたりは恐れおののいた。


やがて虎は再び草むらに潜り込んだ。そして人の姿をして戻ってくる。奴隷はふたりに言う。

「このことは家に帰っても語るでないぞ」

もちろんふたりは語ってしまった。


この話は周眕も間もなく知るところとなった。そこで奴隷にしこたま酒を飲ませて酔い潰れさせ、人をやってその衣服をはいでみたところ、特に目立っておかしな所もない。ただ、髷の中から一枚の紙が出てきた。そこには大きな虎と、その周辺になぞの符が描かれていた。周眕はこの紙を回収し、保管した。


奴隷が覚醒したところで、周眕は彼を呼び出し、話を聞く。ことが露見したことに気付き、奴隷は諦めてつぶさに語った。


「かつて蠻と取引をしていたとき、そこの術士が言ったのです。三尺の布、數升の米糈,一羽の赤い雄鶏、一升の酒をくれれば、この術を教えてやらんこともないぞ、と」




魏時,尋陽縣北山中蠻人有術,能使人化作虎,毛色爪牙,悉如真虎。鄉人周眕有一奴,使入山伐薪。奴有婦及妹,亦與俱行。既至山,奴語二人云:「汝且上高樹,視我所為。」如其言。既而入草,須臾,見一大黃斑虎從草中出,奮迅吼喚,甚可畏怖。二人大駭。良久,還草中,少時,復還為人。語二人云:「歸家慎勿道。」後遂向等輩說之。周尋得知,乃以醇酒飲之,令熟醉。使人解其衣服及身體,事事詳悉,了無他異;唯於髻髮中得一紙,畫作大虎,虎邊有符。周密取錄之。奴既醒,喚問之。見事已露,遂具說本末云:「先嘗於蠻中告糴,有蠻師云有此術,乃以三尺布,數升米糈,一赤雄雞,一升酒,授得此法。」


(捜神後記4-5)




はい今日の丸投げコーナーです。うーんこれぞ志怪。


しかしこの奴隷氏、まぁあれよね……ほんとは秘密にしなきゃいけないって言われてたけど、誰かに見せたくて仕方なかったんよね。それで最も信じられる家族にだけ披露した。とは言えこんな不可思議なこと黙ってられるはずもなく。


尋陽と言うことは長江中流、廬山ろざんの近くです。そういや慧遠もなんか虎まわりのエピソードなかったっけ。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894645693/episodes/1177354054897841160

違った僧朗だわ。

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