4巻

捜04-01 徐玄方女

西晉の時代、東平とうへい馮孝將ふうこうしょう廣州太守こうしゅうたいしゅとなった。その息子の馮馬子ふうばしが二十歳頃、ひとり、部屋で寝ていた。すると夢にひとりの女性が現れる。歳は十八、九頃である。彼女が言う。


「私は先の太守である、北海ほっかい徐玄方じょげんほうの娘でございます。不幸にも四年前、死霊により無実の罪にて殺されてしまいました。しかし私の魂の戸籍を確認したところ、本来であれば八十年以上生きるはずであった、と言うのです。私の蘇生に当たっては、あなた様の助けが要る、とのことでした。無事蘇生できた暁には、あなた様の妻となりましょう。どうかこれからあなた様にお願いすることに応じていただき、私を助けてはいただけませんでしょうか」


馮馬子は「わかった」と答えた。


徐氏は馮馬子と共に期日を定め、去って行った。約束した日がやって来ると、寝床の前の床に毛髪が現れた。人を呼び周囲を掃き清めさせると、いよいよ髪の毛がはっきりと見える。ここでようやく馮馬子はこれが夢に見た徐氏のものであると確信した。そこからさらに周辺を掘り出すと、やがて額が見え、肩が、項が、そして全身が現れた。馮馬子は彼女を椅子に腰掛けさせた。彼女の発する言葉は不可思議なものであった。やがて馮馬子とともに就寝した。


とはいえ、馮馬子が彼女といざセックスを、と思うと、「この身はいまだ霊体なの、もう少し我慢していただきたいわ」と言ってくる。

「では、いつか肉体が現れるのか?」

「現れるわ、そうしたらようやく蘇られるのだけれど」

その後彼女は馮馬子の部屋にともに入った。その話し声は誰の耳にも聞こえるところとなった。


徐氏は自身の誕生日に復活すると見立て、馮馬子に自らの肉体を蘇生させる方法を伝えたのち、立ち去った。馮馬子はその言葉を信じ、赤い雄鶏を一羽、黍飯をひと椀ぶん、清酒を一升用意し、彼女が指定した日に、その死体のある場所、すなわち馮馬子の部屋から十歩ほど進んだところで祭祀を執り行った。


祭祀を終えてからその場を掘り起こすと、確かに棺が現れる。棺のふたを開けてみれば、まさに先日まのあたりとした、徐氏の姿があった。ゆっくりと抱え上げ、寝屋に安置する。胸あたりはかすかに熱を帯び、呼吸も途切れてはいなかった。


馮馬子は四人の婢女らに徐氏の面倒を見させた。青羊の乳でその両目を洗わせると、徐々に精気が取り戻されてゆく。口から粥を取ることも叶うようになれば、また喋れるようにもなった。二百日ほどすれば杖をつきつつではあるが立ち上がれるようにもなり、一年後には顔色も肌艶も気力も取り戻した。このため馮馬子は徐玄方のもとに娘の蘇生を知らせた。思いがけぬ吉報に徐氏の家族は親子揃って駆けつけた。


やがて吉日を選び婚礼が挙げられ、馮馬子と徐氏は晴れて夫婦となり、二人の息子、一人の娘を得た。長男は字を元慶げんけいと言い、永嘉えいかのはじめに秘書郎中ひしょろうちゅうとなった。末っ子は字を敬度けいどと言い、太傅掾たいふえんとなった。おそらくは司馬越しばえつづきの事務官である。娘は濟南さいなん劉子彥りゅうしげんに嫁いだ。彼は隠者の劉兆りゅうちょう、字を延世えんせいの孫と言われている。




晉時,東平馮孝將為廣州太守。兒名馬子,年二十餘,獨臥廄中。夜夢見一女子,年十八九,言:「我是前太守北海徐玄方女,不幸蚤亡。亡來今已四年,為鬼所枉殺。案生錄,當八十餘。聽我更生,要當有依憑,乃得生活,又應為君妻。能從所委,見救活不?」馬子答曰:「可爾。」乃與馬子剋期,當出。至期日,牀前地頭髮,正與地平,令人掃去,則愈分明。始悟是所夢見者。遂屏除左右,人便漸漸額出,次頭面出,又次肩項形體頓出。馬子便令坐對榻上,陳說語言,奇妙非常。遂與馬子寢息。每誡云:「我尚虛,君當自節。」問:「何時得出?」答曰:「出,當得本命生日,尚未至。」遂往廄中。言語聲音,人皆聞之。女計生日至,乃具教馬子出己養之方法;語畢,辭去。馬子從其言,至日,以丹雄雞一隻,黍飯一盤,清酒一升,醊其喪前。去廄十餘步,祭訖,掘棺出;開視,女身體貌全如故。徐徐抱出,著氈帳中,唯心下微暖,口有氣息。令婢四人守養護之,常以青羊乳汁瀝其兩眼,漸漸能開;口能咽粥,既而能語。二百日中,持杖起行,一期之後,顏色、肌膚、氣力,悉復如常,乃遣報徐氏。上下盡來,選吉日,下禮,聘為夫婦。生二兒一女。長男,字元慶,永嘉初,為秘書郎中;小男,字敬度,作太傅掾;女,適濟南劉子彥,徵士延世之孫云。


(捜神後記4-1)




ぼく「ハッピーエンドと見せかけて子供たちが永嘉の乱直撃とかどんな罰ゲーム?」


ちょっと「永嘉初」は邪悪すぎますでしょう。馮馬子の家格が低かったなら「最終官位が」秘書郎中であった可能性もあるわけで、まぁ馮馬子はぎりぎり泰平のなか死ねたのかもですが、まぁなんていうか……。


しかし、全員を字で書かれると困ってしまいますね。この中で劉兆は晋書しんしょに立伝されるクラスの人物です。ともなれば、ここにいる馮氏のついてる太守位も最終官位でなく、中途官位であったりもしそうです。


? っていうか広州刺史じゃなくて太守? どゆこと? どこかに「広州郡」がある、ってことでいいのかしら。


このエピソード、なんか妙に具体性が高いので事実も混じってるんでしょうね。とはいえ事実と虚構を切り分けられる気もしません。困ったものだ。




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