9巻

捜09-01 素衣女子・虎卜吉

○素衣女子


錢塘せんとう人のが船に乗り、進んでいた。時に大雪、日も暮れなんとする。そうした中、岸辺を見れば、白いボロを身にまとった女性が岸に立っていた。杜は言う。

「乗っていかれんかね?」

船に乗れば、あとのやることはひとつである。それはもう、それはもう。しかし女はやがて白鷺となり、飛び去っていった。

杜は怒り狂ったが、間もなくして死んだ。



○虎卜吉


丹陽たんよう人の沈宗しんそうは、地元で占いを稼業としていた。

さて義熙ぎき年間、左將軍さしょうぐん檀韶だんしょう様が姑孰こじゅくに赴任なされ、狩猟をお楽しみとなった。中でも虎狩りを好まれた。

あるとき沈宗のもとにひとりの男が現れる。皮のズボンを履いて馬に乗り、同じく皮のズボンを履いた従者を連れている。男は紙に十錢あまりを包んで沈宗に占いを願い出る。

「飯を求めるのに、西と東、どちらが良いかね?」

沈宗が占い、結果を見て言う。

「東が吉。西に利はござらぬ」

それを聞いた男は沈宗に水を求めた。沈宗がそれなりの大きさの瓶をよこすと、男はそれを牛のように一気に飲み干し、出ていった。男は東に百步ほど行ったところで虎に化けた。從者も、馬もまた。

これ以後、虎の害が大いに増えたそうである。




素衣女子

錢塘人姓杜,船行。時大雪日暮,有女子素衣來岸上。杜曰:「何不入船?」遂相調戲。杜閣船載之,後成白鷺飛去。杜惡之,便病死。


虎卜吉

丹陽人沈宗,在縣治下,以卜為業。義熙中,左將軍檀侯鎮姑孰,好獵,以格虎為事。忽有一人,著皮褲,乘馬,從一人,亦著皮褲,以紙裹十餘錢,來詣宗卜,云:「西去覓食好?東去覓食好?」宗為作卦。卦成,告之:「東向吉,西向不利。」因就宗乞飲,內口著甌中,狀如牛飲。既出,東行百餘步,從者及馬皆化為虎。自此以後,虎暴非常。


(捜神後記9-1)




オロカナニンゲンタチヨー


前者はまぁ、素直に行き先まで連れていれば杜も死ななかったんだろうなという感じがあります。


そして後者。檀韶というのは劉裕隷下でも飛び抜けてフリーダムな将軍のひとりでして、強いは強いけど、とことんに素行が悪い。そういう人物でした。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054891127370

丹陽県は建康城そば、南東に位置する場所です。建康城に最も近い県であることから、ここの県令は特別に「丹陽尹」と呼ばれ、建康城下街の統治を取り仕切ります。つまり、ほぼ都、と呼んでいい場所。対する姑孰は建康から長江沿いに遡ったところにある、建康からしてみると長江軍略の前線にあるような城。基地、と呼んでもいいでしょう。位置関係的には建康から南南西、というわけで丹陽から見ると「西」。つまり占いの結果は、虎たちにとって姑孰に向かうのはヤバい、と。その結果を聞いた三頭の虎は、殺された仲間たちの怒りを晴らすために「東方で」暴れまわった、というわけですね。うーん、イイハナシダナー。

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