捜08-02 死人頭・人頭墮

○死人頭


新野しんや庾謹ゆきんの母が病に倒れた。兄弟三人でそろって母の看病に当たった。

しっかりと戸締まりをした上、その中で明かりを灯し、母を看る。そのような毎日であったが、ある日突然母氏の帯がひとりでに緩んだり、締まったりをし始めた。同じようなことが四回起こってから、寝床のある部屋のそばに繋がれていた犬が尋常ならざる声で吠えだした。兄弟揃って外の様子を見に出てみれば、そこに犬はおらず、ただひとの生首がごろりと転がるのみだった。

生首からはとめどない出血こそあったが、両目がまるで生きているかのようにぎょろりとしており、恐ろしい形相を浮かべていた。兄弟はこれをうかつに外に出すのも恐ろしくなり、裏庭に穴を掘り、埋めた。

翌朝外に出てみれば、例の生首は穴から脱出しており、引き続き恐るべき形相を兄弟に向けていた。兄弟が再び埋めても、やはり翌日には元通りである。このため頭の周りをレンガで塗り固めた上で埋め直した。以降、生首が現れることはなくなった。

……のだが、間もなくして母氏が死亡した。




○人頭墮


名家である太原たいげん王氏の令息、王綏おうすい。字は彥猷げんゆう。ある夜、家の樑の上から、突然人間の生首が布団の上に落ちてきた。胴体こそ見つからなかったが、いつ果てるともなくどくどくと血を流していた。

間もなくして王綏は荊州刺史けいしゅうししに任ぜられるも、父の王愉おうゆの劉裕転覆の企みに連座し、弟の王納おうとうと共に誅された。




死人頭

新野庾謹,母病,兄弟三人,悉在侍疾。白日常燃火,忽見帳帶自卷自舒,如此數四。須臾,聞牀前聞狗鬥,聲異常。舉家共視,了不見狗,見一死人頭在地,頭猶有血,兩眼尚動,甚可憎惡。其家怖懼,乃不持出門,即於後園中瘞之。明日往視,乃出土上,兩眼猶爾,即又埋之。後日復出,乃以磚著頭合埋之,遂不復出。他日,其母便亡。


人頭墮

王綏,字彥猷。其家夜中樑上無故有人頭墮於牀,而流血滂沱。俄拜荊州刺史,坐父愉之謀,與弟納並被誅。


(捜神後記8-2)




新野庾氏は潁川庾氏とどこまで繋がりがあるんでしょうねえ。完全に無関係なんてことはなさそうなんですけど、ふうむ。


そして後段はバチクソ劉裕りゅうゆうに絡んでる太原王氏。日々劉裕のことを侮っていると書かれていたため、宋書はそこを理由として殺したと書かれます。実際はどうだかわかりませんが。こういうのは実際の行動と民情とお国の都合と後世の評価とでぜんぶバラバラですからねえ、とりあえずそのバラバラな全部を拾った上で決めきらず併置しておく、がいいんでしょう。「確定」が最悪。そういう世界。

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