捜01-04 韶舞

滎陽けいように済むという姓の人物がいた。名は不明である。とは言え、名の知られていた人物ではあったそうである。荊州けいしゅう府は何氏を別駕べつがとして招聘したが、何氏は応じず隠棲の志を貫いた。


何氏は常に畑仕事に従事していた。ある日、そんな何氏の元に背丈1.8mほど、黄色いボロボロの着物に頭巾といういでたちの男が現れた。男は何氏の前でふわふわと手を動かし、舞ながら近付いてくる。


「あなたは『韶舞』を見たことがあるかね? これだよ」


そうして男は舞いながら去って行った。


何氏が男を追えば、山中の洞穴に吸い込まれていく。人ひとりがようやく通れるほどの広さの穴である。何氏もその後に続く。始め急な斜面であったが、進むとやがて穴が広くなるも、例の男を見失う。


しかし、そこには100ヘクタールほどにも及ぶ良田が広がっていた。何氏はその地を開墾し、以降子孫に継承させた。子孫もまたその土地の恵みの恩恵にあずかっている。




滎陽人,姓何,忘其名,有名聞士也。荊州辟為別駕,不就,隱遁養志。常至田舍收穫,在場上,忽有一人,長丈餘,黃疏單衣、角巾來詣之。翩翩舉其兩手,並舞而來,語何云:「君曾見『韶舞』不?此是『韶舞』。」且舞且去。何尋逐,逕向一山,山有穴,纔容一人。其人即入穴,何亦隨之入。初甚急,前,輒閒曠,便失人。見有良田數十頃,何遂墾作,以為世業。子孫至今賴之。


(捜神後記1-4)




論語 衛霊公11

行夏之時,乘殷之輅,服周之冕,樂則韶舞。放鄭聲,遠佞人。鄭聲淫,佞人殆。

暦は夏のものを用い、車の装飾は殷に倣って質素に、冠は周に倣って美しく整えよ。音楽は韶舞が良い。鄭の音楽は放逐し、佞人は遠ざけよ。鄭聲は大げさに過ぎ、佞人は危機を招く。


と言うわけで、舜の時代に編まれたとされるめでたい音楽に合わせた踊り。それほどこの何氏が優れた人物であった、と言うことですね。そしてこれも異郷譚。まぁねえ、「ここではないどこかの楽園」は、どの時代の人間だって求めてしまうわけですよ……。


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