捜03-09 形魂離異

劉宋りゅうそうの時代に、とある人物がいた。名は失われている。妻と一緒に寝ていたところ、妻が夜明けに目覚め、外出した。やがて夫も少年奴僕を引き連れ外出した。


妻が帰宅したとき、布団の中で夫が寝ていたのを確認した。出かけたはずであったと言うのに!


それから間もなくして、少年奴僕が家に戻り、妻に言う。

「ご主人様が鏡をご入用だ、と仰せです」


妻は奴僕が自身を騙そうとしているのだ、と悟り、寝床を指差した。「おまえにはあれが見えないのかい?」という意図だろう。


奴僕は言う。

「では、ご主人さまをお連れします」


奴僕はすぐさま男のもとにかけてゆき、あらましを語る。男は大いに驚き、家に戻った。そして妻とともに寝床を覗き込めば、まさしく男とうり二つのなにかか爆睡している。これは何らかの霊兆なのだろうか、と思い、夫婦はともにしばらく動けずにいたが、やがて意を決し、二人で布団をおずおずと撫でさすってみた。すると男の姿をした何かは、すっ、と寝床に溶け込んでいった。夫婦はいつまでも恐怖に囚われ続けた。


まもなくして男は病を得、生涯精神錯乱状態となった。




宋時有一人,忘其姓氏,與婦同寢。天曉,婦起出。後其夫尋亦出外。婦還,見其夫猶在被中眠。須臾,奴子自外來,云:「郎求鏡。」婦以奴詐,乃指牀上以示奴。奴云:「適從郎間來。」於是馳白其夫。夫大愕,便入。與婦共視,被中人高枕安寢,正是其形,了無一異。慮是其神魂,不敢驚動。乃共以手徐徐撫牀,遂冉冉入席而滅。夫婦惋怖不已。少時,夫忽得疾,性理乖錯,終身不癒。


(捜神後記3-9)




りーふーじーんー!


まぁこういうのって、妻氏の極度のストレスからストーリーが逆算して生まれたりもするんだろうなあ、と。もともとこうしたドッペルゲンガー的説話が存在していて、それを知っていた妻氏が夫の病状をどうにか説明つけるために(というより、自身をなんとか納得させるための方便として、無意識的に)こうしたものを見た、「と、後に語った」のでしょう。


現代でもいつこういった理不尽が襲いかかるかわからないわけで、そういうのに出くわしたとき、人はどうにか自身を強制的に説得したがるもんだと思います。怖いと言うよりも、妻氏がただただつらい。

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