捜01-02 仙館玉漿
およそ十日ばかり行ったところで、ようやく視界に明かりが見えた。たどり着けば、そこには小屋が建てられており、中では囲碁で対局する二人組があった。
彼らは対局の合間に白湯を飲む。しばらくの旅程の末喉も腹もカラカラとなっていた男はふらりと小屋に入り、自身の窮状を訴え出た。
すると碁盤を囲むひとりが言う。
「ほれ、飲め」
男がそれを飲むと、またたく間に体力気力が充足された。
「お前はここにとどまりたいか?」
「いえ、帰りたいです」
「なら西に行け。天井に井戸があり、そこには蛇がうごめいてこそいるが、気にせず飛び込むのだ。そうすれば脱出できるだろう。万が一途中で飢えることがあるなら、手近なものを適当に食えば良い」
男がその言葉に従うと、本当に天井に蛇のうごめく井戸があった。意を決して男が飛び込むと、蛇たちはみな男を避けた。
男が井戸の中を進めば、やがて目の前に青泥のようなものがあった。美しく、かぐわしい香りを放っていた。それを食べると、男は一切飢えを感じなくなった。
そこから半年ばかりし、ついに
男は蜀から洛陽にまで帰還すると、こんな話があったのだ、と張華に語る。これはいったい何だったのだろうか、と。すると張華は答える。
「
嵩高山北有大穴,莫測其深,百姓歲時遊觀。晉初,嘗有一人誤墮穴中。同輩冀其儻不死,投食於穴中。墜者得之,為尋穴而行。計可十餘日,忽然見明,又有草屋,中有二人對坐圍棊。局下有一杯白飲。墜者告以饑渴,棊者曰:「可飲此。」墜者飲之,氣力十倍。棊者曰:「汝欲停此否?」墜者曰:「不願停。」棊者曰:「從此西行,有天井,其中多蛟龍。但投身入井,自當出。若餓,取井中物食。」墜者如言,投井中,多蛟龍,然見墜者輒避路。墜者隨井而行,井中物如青泥而香美,食之,了不復饑。半年許,乃出蜀中。歸洛下,問張華, 華曰:「此仙館大夫所飲者玉漿也;所食者龍穴石髓也。」
(捜神後記1-2)
初読ぼく「あっこの人さくっと張華さんに会えるレベルの人なんですね」
いや迂闊に貴顕に会えすぎとちゃう? 当時の洛陽って普通に数十万規模の都市よね? 一万規模でももうトップ近くにはまともに知遇も持てないと思うんですけど。
とりあえず十日も光のない洞穴の中を淡々と進める時点でこのひとの精神力半端ねえなって思いました。現代人なら半日とせず狂うわそんな環境。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます