捜10-03 虯塘・斲雷公

◯虯塘


武昌ぶしょう虯山きゅうざん龍穴りゅうけつと呼ばれる穴があった地元の人達はその穴に神虯が飛来しては出ていくのを見ていた。

ある旱魃の歳、人々が龍穴に向け祈祷をしたところ、たちどころに雨が降った。このため人々は穴のすぐ近くにため池を作った。

このため池は「虯塘きゅうとう」と呼ばれている。



◯斲雷公


吳興ごこう章苟しょうこうというひとがいた。とある五月の中ほど、章苟は弁当を持ってチガヤにて隠し、田畑を耕していた。畑仕事を終え夕食にしようとすると、何者かに盗み食いされていた。このようなことが何度も続いた。後に様子をうかがってみれば、一体の大蛇が弁当をぬすみぐいしていた。章苟は大鉈で蛇を切りつけ、追い払った。章苟がその後を追いかければ、とある坂の脇にある穴に蛇が逃げ込んだ。


中から声が聞こえてくる。

「カッ! おれの鱗が傷つけられた!」

「はてさて、どうしてくれよう?」

雷公らいこうに頼み、やつを雷にて撃ち殺していただこう」


間もなくして雲が集まり雨が降り始め、辺りを暗くした。そして章苟のに稲光が走り始めた。


章苟はそばの橋げたに跳び乗り、天に向かって吠える。


「天の使いよ! おれは貧窮にも負けず、力を尽くして田畑を開墾していた! そんなおれの飯をあの蛇が盗んだのだぞ! 罪は蛇にこそあるだろうに、にもかかわらずこのおれを撃とうと言うんだな? 雷公とやらが何者かなど知ったことか! やつがおれのもとに来たならば、この大鉈で貴様の腹をかっさばいてやろう!」


間もなくして雲や雨は散り、雷もまた矛先を蛇の穴へと転じた。穴の中にいた数十の蛇はみな死んだ。




虯塘

武昌虯山有龍穴,居人每見神虯飛翔出入。歲旱,禱之,即雨。後人築塘其下,曰「虯塘」。


斲雷公

吳興人章苟者,五月中,於田中耕。以飯置菰裡,每晚取食,飯亦已盡。如此非一。後伺之,見一大蛇偷食。苟遂以鈌斲之,蛇便走去。苟逐之,至一坂,有穴,便入穴。但聞啼聲云:「斲傷我某甲。」或言:「當何如?」或云:「付雷公,令霹靂殺奴。」須臾,雲雨冥合,霹靂覆苟上。苟乃跳樑大罵曰:「天使!我貧窮,展力耕懇。蛇來偷食,罪當在蛇,反更霹靂我耶?乃無知雷公也!雷公若來,吾當以鈌斲汝腹!」須臾,雲雨漸散,轉霹靂向蛇穴中,蛇死者數十。


(捜神後記10-3)




章苟くんがクッソかっこよくて萌え。この辺は龍にまつわる話が集められてる感じですねー。どこかでそれぞれの巻におおよそのテーマを付しておきたいな。

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