捜05-05 臨賀太守

永和えいわ年間、すなわち東晋とうしん穆帝ぼくていの時代。義興ぎこうしゅうと言う人が建康けんこうに出た。建康から郷里に戻るにあたり、馬に乗り、従者をふたり従えた。


郷里に戻るよりも前に日が暮れ始めた。すると道ばたに一件、新築の草小屋があった。ひとりの少女が門より出てくる。年は十六、七頃。とても可愛らしく、衣服もきれいであった。遠くから周がやってくるのを見ると、こう呼びかける。


「そろそろ日も暮れますが、村はまだまだ遠くございます。周臨賀りんが、お立ち寄りになってゆかれませんか?」

臨賀? 一体何のことかはわからないが、渡りに船である。周は女のもとに立ち寄り、宿を借りたいと願い出た。

女は三人を招き入れると火をおこし、食事を提供した。


日が暮れてくると、外から「阿香あこう、阿香!」と呼ぶ少年の声が聞こえてくる。女が「いるわよ」と答えると、声は今度、このように言う。

「長官どのがお前に雷車を回せと仰せだ」


女は立ち上がると、周らに挨拶をした。

「用事ができましたので、失礼致します」


女が去ったあと、その夜は雷雨となった。明け方になり女は帰宅した。小屋を辞し、周が馬に乗る。それからふと振り返ってみると、泊まっていた小屋があったはずの場所には、真新しい墓があるだけだった。ただしその入り口には周が繋いでおいた馬が食べた飼い葉の残りや、馬の垂れ流した尿の跡が残っていた。


これは一体どうしたことか、と周は驚きおののいた。なおこの人物は五年後に臨賀太守りんかたいしゅに就任している。




永和中,義興人姓周,出都,乘馬,從兩人行。未至村,日暮。道邊有一新草小屋,一女子出門,年可十六七,姿容端正,衣服鮮潔。望見周過,謂曰:「日已向暮,前村尚遠。臨賀詎得至?」周便求寄宿。此女為燃火作食。向一更中,聞外有小兒喚阿香聲,女應:「諾。」尋云:「官喚汝推雷車。」女乃辭行,云:「今有事,當去。」夜遂大雷雨。向曉,女還。周既上馬,看昨所宿處,止見一新冢,冢口有馬尿及餘草。周甚驚惋。後五年,果作臨賀太守。


(捜神後記5-5)




後に太守となるお方なら嵐からお守りせねばならない、という感じですね。ちなみに義興は建康のちょっと南東、臨賀はだいぶ南西で、位置関係的にも全然関係がありません。下手したらこの段階で周氏、臨賀がどこにあるかなんてまともに考えたことすらなかったかもしれません。年齢がどのくらいかとかもさっぱりわかりませんが、まぁ義興周氏と言えばいわゆる周処三害のこのひと

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054887903633

なので、何らかのつながりはあったりするのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る