捜10-06 放龜

しん咸康かんこう年間、豫州刺史よしゅうしし毛寶もうほう邾城ちゅじょうを守っていたころのことである。


ひとりの軍人がいた。かれは武昌ぶしょうにいたとき、市であるひとが白い龜の子を売っているのを見た。長さは四、五寸ほど。手のひら大、と言う感じだろう。とても白く、美しかった。このため軍人は亀を購入して持ち帰り、甕の中にて飼い始めた。


亀は日ごとに大きくなり、すぐに1尺ほどの大きさとなった。軍人は小さな甕の中で飼うのがかわいそうになり、その亀を持って長江のほとりにまで行き、放してやった。そしてしばらく、亀が泳ぎ去るのを見ていた。


その後、邾城は石虎せきこによって攻め陷された。毛寶は豫州を失陥、戦死した。長江にたどり着いたものも多くが水死した。この撤退劇には例の亀飼いの軍人も参戦していた。鎧をまとい刀を佩き、やはり長江に身を投げん、としていたのである。つまり、進退窮まっての自殺である。こうして水中に飛び込んだ軍人であったが、すぐさま石のようなものの上に落ちたことに気付く。軍人の身体も、腰までしか水に浸からなかった。


その石が、やがてゆっくりと動き出す。軍人が水中を見れば、それは過去に軍人が放してやった例の白い亀であった。既にその甲羅も六、七尺ほどの大きさとなっていた。


やがて亀は東岸にたどり着く。亀は水中からひょっこりと顔を出して軍人を見ると、やがて泳ぎ去った。そして長江の半ばほどにまで進むと、再び水中から顔を出して軍人を見遣り、そして沈んでいった。




晉咸康中,豫州刺史毛寶戍邾城。有一軍人,於武昌市見人賣一白龜子,長四五寸,潔白可愛,便買取持歸,著甕中養之。日漸大,近欲尺許。其人憐之,持至江邊,放江水中,視其去。後邾城遭石季龍攻陷,毛寶棄豫州,赴江者莫不沉溺。於時所養龜人,被鎧持刀,亦同自投。既入水中,覺如墮一石上,水裁至腰。須臾,游出,中流視之,乃是先所放白龜,甲六七尺。既抵東岸,出頭視此人,徐游而去。中江,猶回首視此人而沒。


(捜神後記10-6)




この話は蒙求にも収録されていますね。

https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16816927859603889336


こう言う話だったんだ、へえーと言う印象。検索かけてみたら四種類の原文に行き当たりました。見てみましょう。


晋書 毛寶伝

初,寶在武昌,軍人有于市買得一白龜,長四五寸,養之漸大,放諸江中。邾城之敗,養龜人被鎧持刀,自投于水中,如覺墮一石上,視之,乃先所養白龜,長五六尺,送至東岸,遂得免焉。


芸文類衆 亀 『續搜神記』曰:

晉咸康中,豫州刺史毛寶,戍邾城,有一軍人,於武昌市買得一白龜,長五寸,置瓮中養之,漸大,放江中,後邾城遭石氏敗,赴江者莫不沉溺,所養龜人,被甲投水中,覺如墮一石上,須臾視之,乃是先放白龜,既約岸,迴顧而去。


太平御覽 龜 『續搜神記』曰:

晉咸康中,豫州刺史毛寶戍邾城。有一軍人於武昌市見人賣一白龜子,長四五寸,潔白可愛,寶便買取持歸。著甕中養之,日日大,近欲尺許。其人憐之,持至江邊放死晷,視其去。后邾城遭石勒敗,毛寶棄豫州。既越江,莫不沉溺。寶於時被鎧持刀,亦馱菰投。既入死晷,覺如隨一石上,水裁至腰,須臾,游去中流。視之,乃是先所養白龜,甲六七尺。既送至東岸,出頭視此人,徐游而去,中江猶回首數焉。


太平廣記 毛寶(出『幽明錄』)

晉咸康中,豫州刺史毛寶戍邾城。有一軍人,於武昌市買得一白龜,長四五寸,置甕中養之,漸大,放江中。後邾城遭石氏敗。赴江者莫不沈溺。所養人被甲入水中,覺如墮一石上。須臾視之。乃是先放白龜,既得至岸。廻顧而去。



どーれーとーもーびーみょーうーにー版ー本ーがー違ーうー

このあと幽冥録はやる予定なんですが、エピソード被ってきそうですねーこれ。

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