捜11-04 高苟念經・施績門生

○高苟念經


滎陽けいよう高苟こうこうは齢五十を越えてから犯した殺人で捕まり、牢に鎖で繋がれた。あとは処刑を待つばかりである。すると牢に同じく繋がれていたものが「一緒に觀世音経かんぜおんきょうを懸命に唱えよう」と言ってきた。

「わしはこの重罪を甘んじるつもりなのだ、どうして許してもらえるなどと思うものか」

それでもなお隣人が勧めてきたため、ならばとともに唱え始めれば、むくむくと心のなかに慈悲の心が芽生え、悪心を捨て善に務めんとの思いが高まった。時を選ばず、僅かな暇をもまた觀音にすべてを捧げることとし、仮に許されたならば、五層の仏塔を建て、生涯を仏の奴として努め、僧侶らの暮らしのために尽くす、と誓った。

こうした誓いを募らせること10日、高苟をいましめる鎖がひとりでに解けた。監司は驚き怪しみ、高苟に言う。

「もし神仏がお前を憐れまれたのであれば、斬刑に遭っても死ぬことはないのだろうな」

そして処刑執行の当日、振り上げられた処刑用の刀が、ぽきりと折れた。このため監司のとりなしにより、高苟は赦免となった。




○施績門生


吳興ごこう施績しせき孫吳そんごの時代に尋陽じんようの監察をする役目を請け負った。彼は言論に長けていた。一人の弟子がおり、彼もまた弁論を得意としていた。特に操るのを好んだのが無鬼論むきろん、すなわち、この世に怪異などありえない、とする議論であった。

この弟子が後に長江を渡ったとき、白頭巾をかぶった渡世客と出会い、語らい合った。ここで話題が鬼や神に及ぶと、弟子はこの渡世客を完膚なきまでに論破する。すると彼は言う。

「なんともはや、私めが他ならぬ鬼だと申しますに、おらぬということになってしまった。ところで、私めはあなたの魂をいただきに参ったのだがね?」

驚いた弟子氏は慌てて鬼に慈悲を求めた。すると鬼は言う。

「ならば、代わりにあなたそっくりな方を差し出していただきたいのだが」

「施績帳下都督ちょうかととくどのは、わたくしめにそっくりでございます!」

鬼は弟子氏を見逃すと約束した上で、ともに尋陽に向かった。そして施績と向かい合うと、30センチあまりの鉄のノミを取り出し、自身に打ち付けた。それからノミを放り出し、立ち去った。このとき弟子氏をちらりと見ると、「余計なことを話すなよ」と釘刺しをした。

間もなくして施績は頭痛を覚え、帰宅した。家で食事をしようとしたところで、死んだ。





高苟念經

滎陽高苟年已五十,為殺人被收,鎖項地牢,分意必死。且同牢人云:「努力共誦觀世音。」苟曰:「我罪至重,甘心受死,何由可免?」同禁勸之,因始發心,誓當捨惡行善,專念觀音,不簡造次;若得免脫,願起五層佛圖,捨身作奴,供養眾僧。旬日用心,鉗鎖自解。監司驚怪,語高苟云:「若佛神憐汝,斬應不死。」臨刑之日,舉刀未下,刀折刃斷;奏,得原免。


施績門生

吳興施績為吳尋陽督,能言論。有門生,亦有意理,常秉無鬼論。門生後渡江,忽有單衣白帢客來,因共與語,遂及鬼神。客辭屈,乃語曰:「僕便是鬼,何以云無?受使來取君。」門生請乞酸苦,鬼問:「有似君者不?」云:「施績帳下都督,與僕相似。」鬼許之,便與俱歸。與都督對坐,鬼手中出一鐵鑿,可長尺餘,正自打之。放鑿,便去,顧語門生慎勿道。俄而都督云頭痛,還所住,至食時便亡。


(捜神後記11-4)




帳下都督って七品官なので、「都督」とこそ付きますがそこまで「国家的に」重要ではないんですが、とはいえ地方自治レベルで見れば十分名士と呼ばれうるんですよねえ。このへんの地位呼称、もう少しどうにかならんかったんかね?



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