捜06-12 范啟之母・竺法師

○范啟之母


順陽じゅんよう范啓はんけいの母が過去に死亡していたのだが、改めて弔うため葬儀の準備が執り行われた。母の墓は順陽にあったため、順陽まで赴き、場所を確認しようとした。しかし墓のある辺りは他の家の墓もあり、どれが母のものかわからなかった。

この頃、范啓の友人である袁宏えんこう豫州刺史よしゅうししとなっていたのだが、おそらくは友の母をともに弔うためにその墓地にやってきていた。墓場の様子を見ると、思い出したように言う。

「そういえば、靈を見ることができるひとがいると聞いたな」

范啓はそのひとを探し出し、母の姿を探させた。そのひとが到着するなり、言う。

「墓中の一人だけ、あなたの言う衣服や顏に当てはまる人がいる」

そこでその人が示した墓を開けたが、その中身は腐り果て、すでに灰土が数十センチも積もっていた。本当にこれが母の墓なのだろうかと疑うも、范啓は使用人らに足で灰土を払わせ、母にまつわる何かがでてきてほしいと願った。

やがてひとつの石版が見つかり、そこには「順陽の范堅はんけんの妻」、すなわち范啓の父の妻と刻まれていた。この段にいたり、ようやく范啓は霊を見る人の言葉を信じるのだった。



○竺法師


竺法師じくほうし、おそらくは高僧伝に名の載る竺法仰じくほうぎょう會稽かいけいの人である。彼は北中郎将きたちゅうろうじょう王坦之おうたんしと交流を厚くしていた。王坦之とは日々生死のこと、死後に人々の徳や罪が報われることがあるのか、などと言ったことを話し合ったが、なにぶん見聞きもできない先の話であるため、結論が出ない。このため二人は約束し合った、もし先に死んだならば、死後の世界について報告しよう、と。

数年後、王坦之が都に出ていたとき、廟中にいきなり竺法仰が現れた。王坦之は驚き、問う。

「和尚、どちらからお越しに?」

竺法仰が答える。

貧道わたくしは某月日に死亡しましたが、罪も福もみな無意味なものではござらぬ。すべてが応報致します。檀越おうたんし殿もひたすら道徳を養うべく励まれよ、さすれば神明の境地に登れましょう。というわけで、先ごろあなた様と約束し合い、先に死したゆえ、お伝えに上がった次第にございます」

言い終えると、竺法仰は姿を消した。

王坦之もまた、まもなくして死亡した。




范啟之母

順陽范啟,母喪當葬。前母墓在順陽,往視之。既至,而墳壠雜沓,難可識別,不知何所。袁彥伯時為豫州,往看之,因云:「聞有一人見鬼。」范即如言,令物色覓之。比至,云:「墓中一人,衣服顏狀如此。」即開墓,棺物皆爛,塚中灰壤深尺餘,意甚疑之。試令人以足撥灰中土,冀得舊物,果得一磚,銘云「順陽范堅之妻」。然後信之。


竺法師

沙門竺法師,會稽人也,與北中郎王坦之,周旋甚厚。每共論死生罪福報應之事,茫昧難明,因便共要,若有先死者,當相報語。後經年,王在都,於廟中忽見法師來。王便驚云:「和尚何處來?」答曰:「貧道以某月日命故,罪福皆不虛,應若影響。檀越惟當勤修道德,以升躋神明耳。先與君要,先死者相報,故來相語。」言訖,忽然不見。坦之尋之亦卒。


(捜神後記6-12)




范啓も王坦之も晋書に立伝されるクラスの人物です。世説新語にもいます。こうした人物に出会えるとやっぱワクワクしますね。竺法師と竺法仰はこれ、遠目にに見ると似てるし、まぁ書き間違えなんでしょう。

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