第72話 3年生

 9階層もいよいよボスだ。

 ボス部屋に入ると砂と同じ色のドラゴンがいた。


「【リフォーム】串刺し」


 試しに攻撃してみた。

 砂の槍はドラゴンを貫通。

 背中から砂の槍の穂先が見えた。

 ドラゴンは痛がっている気配がない。


「【マジックビジョン】【カリキュレイト】。群体です。砂一粒が1体のモンスターです」


 サンドドラゴンだな。

 サンドドラゴンは体に刺さった杭など関係ないというようにするりと移動した。


 大船おおぶねさんがオリハルコンの盾でサンドドラゴンの突進を止めた。

 いいや止まってない。

 サンドドラゴンの鼻先が変形。

 大船おおぶねさんを飲み込んだ。


「【キングブロウ】」


 番田ばんださんが砂の塊となった大船おおぶねさんに拳を打ち付ける。

 砂が爆発して、大船おおぶねさんが飛ばされ転がり出て来た。


「サンキュ。ぺっぺっ。砂が口の中から、服までは入ってやがる」

「もっと上手く救出できれば良かったが、悪いな同士撃ちになっちまった」

「いいってことよ」


 サンドドラゴンは再びドラゴンの姿に戻った。


「サンダーフィストを全開で打ってみて」

「おうよ。【サンダーフィスト】全開。どうだ」


 どうだはフラグだよ。

 サンドドラゴンは形が崩れたが、しばらくして元通りになった。

 ええと、どうすれば良い。


 範囲攻撃、それも高火力の奴をぶち込むしかないのか。


「こういうのは掘って掘りまくる。スコップを貸してくれ」

「使って」


 俺はスコップを手渡した。


「【乱舞】」


 大船おおぶねさんが、武器をスコップに変えて、サンドドラゴンを掘り始めた。

 サンドドラゴンは鼻先から崩されていくがダメージにはなってないだろう。


「見えたぜ」


 特大の魔石がサンドドラゴンの中に見えた。

 あれが女王蜂みたいな役目を果たしているのか。


「【カリキュレイト】【バレット】」


 香川かがわさんの魔弾が、サンドドラゴンの魔石を貫いた。

 魔石が割れるとサンドドラゴンは崩れた。

 割れた魔石をリフォームして元に戻す。

 討伐した判定になったようだ。

 扉が開いて、その先にはポータルと下に降りる階段があった。


 サンドドラゴンは攻略法を知っていればそれほど難しくない。

 大船おおぶねさんが、乱舞で掘らなければどうなっていたか。

 俺のメイン武器がスコップでなければまた違っただろう。


 赤ん坊が産まれたというチンピラが、その赤ん坊を見せに来た。

 産まれた時の写真と比べると成長している。

 魔法静物ではないのか。


「何だ。坊主、首を傾げて」

大船おおぶねさん、魔法静物って成長しますか」

「分からんが。毛は抜けるな。薄くならないからまた生えてきているんだろう」


 成長も劣化もするのか。

 物といっても老朽化はする。

 魔法静物にも老いはあるんだな。

 成長もあるようだ。


 スキルの枠は出ないのかな。

 魔法静物になった人たちが人間みたいに老いていくのは間違いないと思う。

 スキルひとつで不老不死にはなれないか。


 俺は明日から中学3年生だ。

 2年の時は学校をかなり休んでしまった。

 会社を経営してることは学校に言ってある。


 尻手しってがやってた健康食品の会社の大株主だからね。

 一応そこの役員になっている。


「同じクラスになれるといいね」

「ああ、掲示板を見よう」


 わいわいと生徒が掲示板の前に集まっている。

 俺はAクラス。

 藤沢ふじさわもAクラスだ。


「やった。同じクラスだよ」

「そろそろ、芸能活動は引退かな」

「えええ、引退しちゃうの」

「金も要らないし。学校生活を楽しみたい。CMぐらいには出るけど」

「続けようよ」


 うーん、続けても仕方ないと思う。

 ドラマの撮影とかは拘束時間が長くなることもしばしばだ。

 バラエティも同様だけど。

 モデルとか歌を一曲とかぐらいなら続けても良いかな。


「完全にはやめないよ。ドラマとバラエティに出なくなるだけ」

「がーん。ショック。ご飯が喉を通らなくなるかも」

「二人だけの時は前髪を上げる。これで良いだろ」

「うん、それならご飯何杯も食べれる」


 2年生の頃はさぼりまくったが、レベルを上げているおかげで、記憶力と頭の回転が速くなって、成績はトップだ。

 始業式は学校が早く終わり、藤沢ふじさわと鈴の森に来ている。

 幻の木が乱立してて、その間を抜けると、綺麗な音色のベルの音がする。


「うん、ロマンチックね」

「工事費はほとんど掛かってないけどね。こういうコスパが良い施設を一杯作りたい」

「仕事のことは忘れようよ」

「俺、ダブコーのオーナーだから」

「知っていたよ」

「ばれてたの。気をつけないと」

「だって香川かがわ様が、あなたの部下みたいなんだもの」

「そこか。まあ仕方ないな。俺がダブコーのオーナーなのは秘密な」

「ええ」


 鈴の森のベンチに並んで腰かける。

 子供達が遊びに来ていて、駆けまわってベルを鳴らしている。

 ちょっとうるさいな。

 一度に鳴るベルの数を制限した方が良いか。


「仕事の顔してる」

「悪い悪い」

「アイスクリームを奢ってくれたら許してあげる」


 売店でソフトクリームを買う。

 俺がソフトクリームを舐めると。


「頂き」


 藤沢ふじさわが横から俺のソフトクリームを食べた

 同じバニラ味だぞ。


「えへへ、間接キスしちゃった」

「あと1年か」

「そうね。恋人になるまであと1年」


 俺って藤沢ふじさわが好きなんだろうか。

 好きって気持ちが分からない。

 一緒にいて楽しいはある。

 でも、これって友達ならみんなそうだ。


 あと1年で答えを出さないといけないようだ。

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リフォーム分譲ダンジョン【不殺】~親が死んで親戚に騙されて親の財産を盗られた。こうなったら成り上がってざまぁしてやる~ 喰寝丸太 @455834

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